選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)

「スターリンの影の下でのショスタコーヴィチ」シリーズ第3弾となるアンドリス・ネルソンス指揮ボストン交響楽団による『ショスタコーヴィチ:交響曲第4番&第11番《1905年》』がついに出た。グラミー賞を連覇した第1弾、第2弾とも本欄でご紹介してきたが、今回も、あまりの充実した内容にやはり触れないわけにはいかない。

「第4」の冒頭から早めにきびきびと飛ばすテンポに象徴されるように、この演奏には無駄な贅肉が全くない。どちらも大編成による巨大交響曲だが、ただ力まかせに押すのではなく、細部に丹念で緊密な合奏から伝わってくるのは、あたかも独裁政治に対する告発の言葉のような音楽の真実味である。

ロシア皇帝の軍隊が民衆に発砲した「血の日曜日」事件を扱った「第11」第2楽章の後半では、請願に集まった無抵抗の人々に容赦なく銃撃を加える軍隊の描写の迫力がすさまじい。これは聴き手に人間的な感情をかき立てずにはおかない音楽である。

【今日の一枚】
『ショスタコーヴィチ:交響曲第4番&第11番《1905年》』
アンドリス・ネルソンス指揮 ボストン交響楽団

2017年(第11番)、2018年(第4番)録音
発売/ユニバーサル・ミュージック 
電話:045・330・7213
販売価格/3500円

文/林田直樹

音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ曲「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金18:00~22:00放送)

※この記事は『サライ』本誌2018年10月号のCDレビュー欄「今月の3枚」からの転載です。

 

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