取材・写真/バートンかおる(海外書き人クラブ/ユタ州在住ライター)
文/柳沢有紀夫(海外書き人クラブお世話係)

住民によるデコレーション。

毎年10月31日に仮装をした子どもたちが近所の家々を回って、お菓子をもらうアメリカの風習「ハロウィン」。そこから発展して職場などでもその日は「仮装で出社」して、仕事そっちのけで楽しむという「国民的行事」の一つになっています。

そんなアメリカ国中を挙げてのお祭り騒ぎの日ですが、西部の内陸部にあるユタ州では特にド派手に祝われるのです。今回はその謎に迫ります。

「敬虔な信者」が多いユタ州なのに……

ユタ州というとご存じの方も多いかもしれませんが、戒律が厳しいことで有名な某宗教の本部があります。その信者の率は同州の人口の60パーセントを超えているのだとか!

その宗教の戒律はどれくらい厳しいのか。アルコールやタバコはもちろん、コーヒーや紅茶もNGです。「婚外」の性交渉(つまりは「浮気」ですね)がNGなのはそうだと思いますが、「婚前」もNG。さらには自慰行為も、静止画・動画を問わずポルノグラフィーの視聴も禁止と言われています。

そんな戒律が厳しい宗教の本拠地で、ハロウィンが他州よりもさらにハチャメチャに祝われているのは不思議です。そういう場所なら他州とは異なり「極めて厳かに過ごす日」となっていたほうがむしろ納得がいきます。

ではなぜユタ州でハロウィンが盛んなのか。じつはその理由はユタ州がまさに「戒律の厳しい宗教の敬虔な信者が多い」からなのですが……その謎を解き明かす前に、ユタ州のハロウィンがどれほどド派手なのか見てみましょう!

一般家庭がデコレーションにかける金額は〇万円以上!

8月中旬、夏休みが終わるくらいの時期から借り手のつかなかった建物を利用してハロウィンの物だけを扱った店が出現します。デコレーションからコスチューム、マスク、小道具までなんでも揃う店です。

ユタ州の多くの家庭ではハロウィンのデコレーションに800~1000米ドル(約13万~16万円)くらいかけるのが一般的。コスチュームは抜きで家の周りのデコレーションだけで13万円以上!

重ねて伝えますがこれは店舗や施設ではなく、「一般家庭」の話。しかも「一般的」ということはそれよりも多く費やす家庭もあるわけです。

信じられますか? この人形だけでも5万円以上しますが……ちゃんと売れるんです。

では実際の一般家庭のディスプレイを見てみましょう。最初の「作品」はこちら!

住民が自宅の前庭に作った「地獄への通り道」。矢印の看板の「ENTER」から入って地獄、いや、玄関へ向かいます。もうテーマパークレベルの本格派!

次も雰囲気たっぷりの作品です。

スモークマシンでたかれた煙がおどろおどろしい雰囲気を醸し出しています。
頭のない騎士がガイコツの馬にまたがっているこの作品はなんと高さ4メートルくらい。大作ですね。

さきほどから「作品」という言葉を使っていますが、その理由もおわかりいただけるかと思います。住民たちは1~2週間かけてこんな飾り付けを完成させるのです。

そして毎年このような奇抜な飾りつけをする家々は住民たちの注目の的! そうした家々の情報を集めたサイトもつくられ、夜になると近所の家族が見物に訪れます。

いや、ご近所だけでなく。なんと遠くの街から「見学バスツアー」でやってくる人たちもいるくらいです。

もちろん飾りつけをする人たちは「人々を楽しませたい」というエンターテイナー精神でやっているので、見学は無料です。

家の玄関ではガイコツ集団がおでむかえ。
こちらはショッピングモールの噴水内に出現した高さ3メートル以上もあるガイコツ。

この巨大ガイコツ、数年前からハロウィン専門店で売られるようになり、今ではショッピングモールなどだけでなく一般家庭の前庭などでもよく見られる「定番アイテム」になりました。だけどどうやって運ぶんですかね? 頭部、胴体、脚などパーツごとにわかれていて組み立てるのでしょうか?

ハロウィンはショータイム!

さてさきほどハロウィンの飾りつけをする人たちは、見る人たちを楽しませようというエンターテイナー精神で行っているという話をしましたが……じつはエンターテイナーになってしまう人までいます!

ハロウィンではお化けなどに仮装した子どもたちが「トリック・オア・トリート」(「お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ」の意味)と口にしながら、近所の家を訪れることはご存じだと思います。

それを迎える家ではにこやかにお菓子をあげる……で済むこともあるのですが、「何かしなきゃ気が済まない」というのがユタ州の人たち。

ある老夫婦は、お菓子をもらいに来る子供たちをどう驚かせようかと毎年ワクワクして待っています。仮装してくる子どもたちを返り討ちにしてやろうと臨んだある年のハロウィンの姿がこちら。

はい、ゴリラに扮してお出迎えです!

仮装した子どものほうの視線は手元のお菓子のほうに釘付けで、若干「空振り」感がないわけでもないですが……。

また別の家ではお菓子をもらいにやってきた子どもたちが玄関のドアを開けると、天井からゾンビの人形が垂れ下がってくるという仕掛けを用意していました。これは本気でビビりますよね。

ちなみにある日本人は映画「千と千尋の神隠し」に登場する謎のキャラクター「カオナシ」のお面を作り、「あっあっ」と発しながらお菓子を渡したら、見事に子どもたちを恐怖のどん底に陥れることができたそうです。

そんなエンターテイナーだらけのユタ州の中でもとびきりなのがアナエルさんのご一家。

左がアナエルさんですが、「張本人」は右の旦那さんのほうです。

というのもこのお家、玄関先がミニシアターになっていて、子どもたちがお菓子をもらいに来ると家族総出の映画「スター・ウォーズ」のミニショーを始めるのです。

著作権の関係で仮装した様子をここでお見せできないのが残念なほどのレベルの高さで、毎年見物人がわんさか訪れます。

事の始まりは「スター・ウォーズ」の大ファンだった旦那さんが、ハロウィンで悪役「ダース・ベイダー」の衣装を着たがったこと。でもそれだけではつまらないと感じて、アナエルさんや6人の子どもたちも駆り出されたショーに。そして今では「孫」たちまで登場するちょっとした劇団状態になっています。

ユタ州が「ハロウィン王国」な理由1 もともと「お化け屋敷」好き

ではそろそろユタ州の人たちがこれほどまでにハロウィンに情熱をかける理由を考察していきましょう。

その理由の一つとしてあげられるのが、「そもそもお化け好き」であるということ。ユタ州の人口は約350万人で、全米のちょうど1パーセント程度に過ぎないのですが、全国にその名をとどろかせる最恐レベルの「お化け屋敷」があります。

その一つがソルトレイク空港から車で10分くらいの場所にある「フィアファクトリー(Fear Factory)」。直訳すると「恐怖工場」ですが、昔工場だった建物をそのままお化け屋敷に改装したものです。

夜の帳(とばり)の中、高速道路の脇に突然姿を見せる薄気味悪さ満点の建物。

日本でお化け屋敷というと普通はテーマパークやら遊園地の一角、またはビルの中の一ブロックにあるものですよね。ところがここは6階建ての建物全部がお化け屋敷という巨大さ。

建物の周りにもゾンビがうろつき出迎えてくれるという本格派です。

他にもハロウィンのある10月は毎日、9月後半は週末オープンするけど、その他の時期は「13日の金曜日」のみという妙なこだわりを見せる「ナイトメア・オン・サーティーン・ホーンテッド・ハウス」(Nightmare on 13th Haunted House)というお化け屋敷もあります。「13日の悪夢幽霊屋敷」という意味。こちらは完全屋内の施設で天候に関係なく楽しめます。

不気味さではこちらもかなりのものですね。

ユタ州が「ハロウィン王国」な理由2 家族を大切にする伝統

前にもお伝えしたようにユタ州で60パーセント以上の人たちが信仰する宗教では、「婚前や婚外の性交渉」が戒律で禁止されています。それで自然と結婚時期が早くなり、また子沢山になる傾向があります。

さらに「家族での楽しみ」を最優先させることになり、家族みんなが楽しめるハロウィンが盛んになりました。

マシュマロとピーナッツバターをスライスしたリンゴで挟んだ「ハロウィンリップス」という定番の食べもの。

でも家族で楽しむという点ではクリスマスなどでも可能ですよね。ところがそれらの行事ではハロウィンのようなバカ騒ぎにはなりません。ではなぜハロウィンだけが街中を挙げての大パーティー状態になるのでしょうか。

その理由はまさに彼らの多くが敬虔な信徒であるからです。

ユタ州が「ハロウィン王国」な理由3 純粋な宗教行事ではないから

信仰心の厚い彼らにとって、キリストの誕生を祝う「クリスマス」や「サンクスギビング」(感謝祭)などは大家族が集まって普段よりも厳かに祈りを捧げる日。だから「バカ騒ぎ」など許されません。

一方ハロウィンはもともとは外国の土着宗教の行事で、彼らとは関係のないもの。だから大いにはじけてしまっていいのです。普段敬虔に暮らしている分、ここぞとばかりにはっちゃけてしまう時間。これがユタ州の人たちが他州よりもド派手にハロウィンを祝う最大の理由です。

ではHappy Halloween!(楽しいハロウィンを)

フィアファクトリー(Fear Factory)
666 W 800 S, Salt Lake City, Utah 84104
https://fearfactoryslc.com/

ナイトメア・オン・サーティーン・ホーンテッド・ハウス(Nightmare on 13th Haunted House)
300 W 1300 S, Salt Lake City, Utah 84115
https://www.nightmareon13th.com/

取材・写真/バートンかおる(アメリカ・ユタ州在住ライター)
アメリカ人の夫と共にドイツ、韓国、日本と引っ越しを経験し、現在はユタ州に暮らす。海外子育てヘルスコーチをしながら、ライターの仕事をしている。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。

文/柳沢有紀夫 (オーストラリア在住ライター)
文筆家。慶応義塾大学文学部人間科学専攻卒。1999年にオーストラリア・ブリスベンに子育て移住。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)の創設者兼お世話係。『値段から世界が見える!』(朝日新書)、『ニッポン人はホントに「世界の嫌われ者」なのか?』(新潮文庫)、『世界ノ怖イ話』(角川つばさ文庫)など同会のメンバーの協力を仰いだ著作も多数。

 

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