文/濱田浩一郎

北条早雲像。(写真:photoAC)

戦国大名の先駆け・北条早雲はどのように立身しようとしたか?

大河ドラマ「豊臣兄弟!」において小田原北条家の4代目当主・北条氏政を演じるのは谷原章介さんです。豊臣秀吉の伝記『太閤記』(著者は江戸時代初期の儒学者・小瀬甫庵)には氏政の「由来」(由緒)を記した箇所がありますが、そこには北条氏の由緒はどのように記述されているのでしょうか。先ず、北条氏の祖として挙げられているのが、戦国大名の先駆けとして著名な「伊勢新九郎」―後の北条早雲です。

同書には早雲は「平相国(清盛)の八男・助盛の末裔」とあります。早雲は元来、備中国(岡山県西部)の領主(三百貫)でしたが「立身」の野望を強く持っていたとのこと。どうすれば立身ができるかを若き日の早雲は必死に考えたようですが、その手段はなかなか見つからず。どこかの国の「守護」を倒すのは「理」に反する。隣国を攻め取るだけの「力」も乏しい。早雲は先ずは三百貫の領地を同族の「富家」に売り渡し、旅費を得ます。早雲は馴染みの土地を離れて旅に出ようとするのです。1人ではなく、武略が備わった30人ほどの侍を率いて。同書によるとそれは康正3年(1457)の春のことでした。

関東目指して「武者修行」の旅に出るのです。その途上に早雲らが立ち寄った場所があります。伊勢神宮です。「天照大神におすがりしよう」ということで参宮し、長期間の祈願の後、出発したのでした。旅の途次に早雲が「逗留」したのが駿河国(現在の静岡県)ですが、同国は今川氏が栄えていました。

駿河国に滞在し、今川氏の内政や軍法について聞き出した早雲。(これは更に伸長する家だ)と見做した早雲は、今川氏に仕えることを望みます。今川氏の「近習」を介して仕官したいと告げた早雲の望みは叶えられました。早雲は今川氏の家臣となったのです。今川氏の当主(同書には今川殿、太守などと記され、名は記述されていません)は、早雲が「大器」であることを見抜き、300人もの兵を預けます。今川家の中で「武勇の功」をあらわした早雲は、伊豆国韮山の城主にまで出世しました(1458年)。

今川氏は韮山の近辺を領していただけで、その他は全て他家の領地でした。早雲は「私心」を挟まず政治を行ったため、領民や士卒もよく従っていたと『太閤記』にはあります。そうしたことが要因となって、早雲は翌年には「豆州の大敵」(堀越御所・足利茶々丸)を滅ぼし、伊豆国全域を支配したのでした。こうして飛龍が天に昇るような幸運に恵まれて、北条氏は代を重ねてきたと『太閤記』は記します。早雲は才勇が備わった侍を召し抱えたので家臣団は強力となります。70歳で出家した早雲は長男の氏綱に家督を譲り、安穏にその一生を終えたと同書は記しています。同書は早雲を優れた武将として評価していると言えるでしょう。

北条氏政は豊臣秀吉をなぜ侮っていたのか?

それとは対照的に評価が低く描かれているのが、秀吉と対決することになる北条氏政です。氏政は数ヶ国を押領し、「猛威」を振るい、朝恩を恐れず武命に従わず「諸侯の勤」(大名としての勤め)を果たさなかったので、秀吉が使者を下して、これを懸命に説得したとあります。「上洛して、参内したらどうか。多くの国々を領有しながら君恩に報いないのは人非人である」と道理を尽くして何度も説得したというのです。

しかし氏政は相模国は遠国であるから秀吉がここまで出撃しては来ないと踏んだのか、言葉巧みに上洛を引き延ばしていました。ズルズルと引き延ばしているうちに北条氏に有利な状況が生まれてくると考えていたというのです。「その昔、平家が駿河国まで出撃してきたが、源氏と合戦せずに水鳥の羽音に驚いて逃げ去った(1180年の富士川の戦い)。関白・秀吉は大気者だそうだが、それが通用するのは畿内までのこと。当地(関東)では通用しまい」と氏政は秀吉を侮っていたとのこと。

そのことを知った秀吉は怒り、北条氏征伐を決意したというのが『太閤記』が記す小田原征伐までの流れです。北条早雲を名将として描き、その子孫の氏政を秀吉を侮る人物として描いていることがわかります。

文/濱田浩一郎(はまだ・こういちろう)

兵庫県相生市出身。皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。
兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師、大阪観光大学観光学研究所客員研究員を歴任。現在、武蔵野学院大学日本総合研究所スペシャルアカデミックフェロー。
著書『播磨赤松一族』(新人物往来社)、『あの名将たちの狂気の謎』(中経の文庫)、『超口語訳 方丈記』(東京書籍のち彩図社文庫)、『中学生からの超口語訳 信長公記』(ベストブック)、『秀吉と秀長 天下統一の軌跡』(内外出版社)その他多数。

 

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