蔵で磨き上げた一滴を、造り手たちは自宅でどう味わっているのか。肩肘張らず、それでいて奥深い飲み方の流儀を教わった。
『健土 牛ノ根蒸留所』八木健太郎さんの
冷めにくく、香りも抜けにくい「お湯割りby急須」

鹿児島・垂水の焼酎蔵「健土 牛ノ根蒸留所」の八木健太郎さんは、4人の子どもを持つ父。中学1年生を筆頭に小学1年生まで、二男二女の子育てに奔走中だ。
家に帰っても元気いっぱいの子どもたちがリビングを走り回っている毎日で、なんとかひと息つこうと編み出したのが、この「急須割り」である。
「湯呑みでお湯割りをつくっても、なかなか落ち着いて飲めないので冷めてしまうし、ひっくり返してしまいそう。それで、いつもお茶を淹れている急須でお湯割りをつくったところ、ほわーんとまろやかな甘みが出て、香りも逃げないし、すごく美味しかったんです」
苦肉の策で生まれた飲み方だが大成功。鹿児島では古くから、前割りした焼酎を「黒千代香」と呼ばれる土瓶でお燗にして飲む伝統があるが、その感覚に近い。
「ただ、急須割りは前割りの必要はないと思います。お湯と焼酎を注いで気軽に楽しんでも、香りが開いて充分に美味しくなります」
と、そこに、ちょっと失礼、と妻の智佳代さんがひょいと手を伸ばして、ぐびり。美味しいでしょ、とにっこり笑い合えば、夫婦の絆も深まるのだった。
◎つくり方
急須に先に湯を入れて、焼酎を注ぐ。湯の温度は80〜90℃の熱めがおすすめ。八木さんのお気に入りのアテは冷凍焼き芋で、半解凍をスプーンで掬って食べる。

1 急須に焼酎と湯を4:6の割合で入れる

2 湯呑みに注いで、ちびちび楽しむ


『小牧醸造』小牧伊勢吉さんの
仕上げにほんのり“追い焼酎”「ソーダ割り」
焼酎とソーダの割合は一般的に4:6。だが、じつは、多くの蔵元が5:5で割ったほうが、より焼酎の味わいが生きると考えている。とはいえ、度数が上がるのも困る。そこで「小牧醸造」の蔵のスタッフが実験を重ねて辿り着いたのが“追い焼酎”だ。こうすることで、最初のひと口が濃いめになって、香りの立ちにくい冷たいソーダ割りでもぐんと醍醐味溢れる飲み口が楽しめる。
◎つくり方
“追い焼酎”は、蔵のみんなでソーダ割り研究をして辿り着いた技。「最初の一口が濃いと、断然美味しく感じます」。焼酎とソーダの比率は4:6。

1 グラスに氷を入れて、すぐに焼酎を注ぐ


3 ほんの少し、焼酎を加える

『天草酒造』平下 豊さんの
ギリギリまで注ぎ、揮発を抑える「お湯割り」
長い時間味わう度数と温度帯
お湯割りの基本は「天草酒造」の平下豊さんに倣おう。まず覚えておきたいのが「お湯が先、焼酎が後」の原則。こうすることで、比重と温度の差で対流が起こり、自然な撹拌が生まれる。湯温を85℃にする理由は、沸騰した湯(100℃)ではアルコールが揮発してしまうから。温度が下がり過ぎずにアルコールの度数も保つ、ぎりぎりの温度設定を狙っている。仕上がりは47〜48℃を目指す。
焼酎を注ぐ前に、ボトルを“天地返し”して、ボトル内の成分を均一にするのも、本場ではよく知られたテクニックだ。このひと手間で、香りの立ち方が変わるという蔵元も多い。
◎つくり方
焼酎4:湯6と薄め。沸騰させた湯を3分ほど置き、85℃ほどに下げてから酒器に入れ、焼酎を静かにたっぷりと注ぐ。口当たり滑らかな天草陶磁器を使用。


2 焼酎の瓶をひっくり返す

3 静かに注いでフチまで張る
『朝日酒造』喜禎浩之さんの
ボトルもグラスもキンキンに冷やす「ソーダ割り」

ソーダ割りの鉄則は、シュワッと爽快な炭酸を逃さないこと。氷に当てると炭酸が抜けるので注意。「朝日酒造」の喜禎浩之さんは、百均のボール型製氷器でつくった氷を普段から常備。角がないので、ソーダが氷に当たりにくいという。
◎つくり方
焼酎瓶を冷蔵庫に入れて冷やしておく。焼酎を注いだら数回ステアしたのち、氷に当てぬようソーダを注ぐ。仕上げに一回ステアする。

冷やしたグラスに氷を入れ焼酎を注ぎ、ソーダを加える
取材・文/渡辺菜々緒、宇野正樹 撮影/繁延あづさ、伊藤徹也、松隈直樹、宮濱祐美子 撮影協力/丸尾焼(天草酒造)
※『サライ』2026年8月号より








