写真:photoAC

AIの進化が止まらない。今は人間と同じくらいの知能を持つ汎用人工知能・AGIや、さらにそれを超える超知能・ASIなどの開発も進んでいるという。米AI新興企業アンソロピックの最高経営責任者は「AIモデルの能力を高める速度を落とさなければならない」という論考も公表した。世の中は大きく変わっている。定年後もそれについていかなければならないのだろうか。

優子さん(63歳)は定年前から準備を始めて起業したが、共同経営者と1年で決別。今は社会とつながるためにスキマ時間にバイトをしているという。「私が会社員をしている間に、時代の空気も感覚も全く変わってしまった。定年後に会社から離れて“ビジネス”するのは難しい。雇用延長もAIの台頭で会社に貢献できないことはわかっていたので、しませんでした」と言う。

【これまでの経緯は前編で】

フライング起業し、定年の日が台無しに

優子さんの定年準備は50歳から始まった。最初は、10歳年下の後輩たちとつながるために、社内の部活や運動会に参加し、親睦を深めていた。定年が現実的になった55歳のときに、具体的にキャリアコンサル・PRコンサルという職種を考えついた。これらはAIよりも人間が行う仕事だと感じたこともある。

「私の経験と、大企業で長年培ったノウハウと実績を活かしたいと思ったのです。キャリアコンサルの資格取得の検討もしていました。そんなときに、PR会社に勤務している同年代の友人と再会して意気投合。当時は、彼女と私の人脈とスキルが掛け合わされれば、PRコンサルの仕事になると確信し、仕事の構想を話したのです。彼女は独立を考えていましたが、一人では心許ない。お互いに協力し合って仕事をするのはいいね、という話になりました」

それから、間隔を置いて何度か会い、定年1年前には月1回2人でミーティング。個人や中小企業のニーズがあることを確信し、事業メニューを考え、事業の軸を作った。SNS運用のためのオンラインセミナー、プレスリリースの作成の請負、メディアアプローチ支援など、さまざまなアイディアが湧いてきたという。

「私が主に営業を担当することになり、人づてに紹介された、いくつかの中小企業から相談を受けていました。クライアントは、地元産の食材を使ったサプリメント製造会社、農業支援の会社、酒造会社、伝統工芸品の技術を応用した雑貨メーカーなど。

話が決まると動き出してしまうもので、実は定年の数か月前から会社に内緒で具体的に活動していたのです。私はそれらの会社のプレスリリースを作成し、メディアにメールで売り込みをかけるなど活動をしていましたが、全く反応がありませんでした」

優子さんはクライアントに「結果が出ませんでした。SNS運用に力を入れましょう」と返そうとしたが、友人は「それは仕事ではない」と、人のつてをたどったり、企画を立てたりして、粘り強く活動し、記事化にこぎつけることができたという。

「仕事をとってきたのは私なのに、友人は『私が頑張ったから、結果になった』と言い、報酬の配分に文句を言ってきたんです。他にも、オンラインサロンの運営を巡って意見が対立するなど、いろいろありました」

定年の日も、この友人から連絡が頻繁に来て、感慨に浸るどころではなかったという。

「この日、トラブルがあったので、何度も電話がかかってきたのです。『この日だけは連絡しないで』と言ったのに、『すぐに対応して』と言われ、一生に1回の定年の日が、台無しになってしまった。以降も、1年くらい細々と仕事はしたのですが、お金の配分や、仕事の方針でぶつかってしまい『もうやめよう』と解散しました」

優子さんは「60にもなると、お互いに頑固になっている。ルールを決めても守られない」と苦笑いしていた。

【コンプレックスの改善に取り組み、スキマバイトに出合う……次のページに続きます】

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