文/濱田浩一郎

豊臣秀次像。(写真:photoAC)

『太閤記』が記す秀次の関白にあるまじき所業とは?

大河ドラマ「豊臣兄弟!」において主人公の秀長の兄・豊臣秀吉は池松壮亮さんが演じています。その秀吉の甥にあたるのが、豊臣秀次です。同ドラマにおいて秀次を演じるのは、山田涼介さんになります。天正19年(1591)、秀次は秀吉の後を受けて関白に就任するも、文禄4年(1595)、謀反の嫌疑をかけられて高野山において切腹に追い込まれるのでした(7月15日)。

『太閤記』(江戸時代初期の儒学者・小瀬甫庵が著した秀吉の一代記)は、秀次の謀反についてはそれが事実であったか否か、最期まではっきりしなかったとあります。また、秀次に連座して自害した人々の中に、謀反のことを白状した者は1人もいなかったと記述されています。濡れ衣を着せられて死出の旅に赴くことになったのは「宿業」であろうと観念して、多くの者が死んでいったのは「あはれなりし事」(哀れなこと)と同情の言葉も記されているのでした。

その一方で同書は秀次に対しては厳しい評価を下しています。秀次が「讒言」にあったのは、関白という「高職」を疎かにして何事についても決まりに背いたからだというのです。「天罰」が当たったとの厳しい表現もあります。その事を考えれば、増田長盛や石田三成らによる「讒言」も意味があったのではとまで書いているのでした。

では同書は具体的には秀次のどのような所業が問題だったと書いているのでしょう。1つは院御所(正親町天皇)が崩御された時の秀次の行いに問題があったと言います。院が崩御されて7日も経っていないのに「鹿狩」などの遊興を催したとして、これを関白としてはあるまじきことと非難しています。天皇や上皇の喪中は「諒闇」として深く慎むべきであり、昔は天下の人々が「精進」してお悔やみしていたものであると同書は記しています。関白職にあるならば、世間の人々より一層、厳重に慎んでいるべきなのに、秀次は「殺生禁断」の比叡山に押し入り、鹿狩りを行った。そして鉄砲を夥しく打ち鳴らしていたというのです。当時、都には毎夜、落書(政治や世相を批評した文書)が貼り出されたと言います。

例えばそれは「院の御所 手向のためのかりなれば これをせつしやう(摂政・殺生)関白といふ」というものでした。また同書には秀次の次のような所業も記されています。秀次は「女房」どもを召し連れて叡山に登り、一昼夜の遊興に耽ったというのです。そしてその「悪行」は増していったとあります。昼はずっと狩りをして過ごす。夜は山中にて鹿や猿やたぬき、きつね、鳥などを狩っていく。その数は膨大だったとあります。叡山側は「当山は殺生と女人の立ち入りを禁じています。その旨をご理解いただき下山して頂きたい」と秀次側に抗議するも、秀次はそれを拒否したとのこと。

秀次は哀れな盲人をなぜ斬り殺したのか?

また別の日、秀次は北野に出かけますが、そこで「盲者」が1人、杖をついて歩いているのを見かけます。秀次はその盲者を「酒を飲ませてやれ」と言って召し寄せました。ところが、秀次は酒を飲ませてやるどころか、その盲者の右腕を切り落としてしまうのです。盲者は仰天し「この辺りに人はおりませぬか。乱暴な者が人殺しをしておる。誰か助けてくだされ」と声高に助けを求めます。秀次家臣の熊谷大膳亮はこれを聞いて「そのような有様でも助かりたいと思うのか」と盲者に尋ねました。するとその盲者は「近頃、この辺りで殺生関白が辻斬りをしていると聞くが、それであろう。このように盲目となったことさえ、前世の悪業の故と悲しんでいたのに、この上は、どうして生きられよう。急いで我が首をとり、殺生関白の名を後々まで晒すが良かろう。秀次が中国の暴君(桀・紂)の生まれ変わりじゃ」と「悪口」を吐いたのです。そのため、盲者はズタズタに切り殺されるという哀れな最期を迎えました。

同書は言います。秀次は比叡山で乱暴を働き、高野山で最期を迎えた。また北野で盲人を殺したが、その刀により介錯され、首を切り落とされたと。これは「因果」だと主張しています。『太閤記』は秀次が切腹という最期を迎えたのも「因果」によるものであり、これまでの悪行の報いだと非難するのでした。

文/濱田浩一郎(はまだ・こういちろう)

兵庫県相生市出身。皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。
兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師、大阪観光大学観光学研究所客員研究員を歴任。現在、武蔵野学院大学日本総合研究所スペシャルアカデミックフェロー。
著書『播磨赤松一族』(新人物往来社)、『あの名将たちの狂気の謎』(中経の文庫)、『超口語訳 方丈記』(東京書籍のち彩図社文庫)、『中学生からの超口語訳 信長公記』(ベストブック)、『秀吉と秀長 天下統一の軌跡』(内外出版社)その他多数。

 

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