時代劇や大河ドラマに登場する戦国武将といえば、額から頭頂部にかけて髪を剃った独特の髪型を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか?
この剃り上げた部分を「月代」といいます。
NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』でも、秀吉が月代にする姿が描かれます。しかし、なぜ戦国武将たちはわざわざ頭の髪をなくしたのでしょうか?
武士を象徴する髪型となった「月代」の歴史を見ていきましょう。

「月代」の読み方と名前の由来
まずは、読み方から確認します。
「月代」の読み方は……
「さかやき」です。
額から頭頂部の「百会(ひゃくえ)」と呼ばれるあたりまで、頭髪を剃ったり抜いたりした部分を指します。
その由来については諸説あります。中世の貴族が冠や烏帽子(えぼし)を着けた際、額から髪が見えないように毛を抜いたことが始まりともいわれます。
また、もともとは頭の蒸れを防ぐために髪を剃ることがあり、その形が月のように見えたため「月代」と呼ばれたともされています。当初は後世の月代ほど広くなく、頭頂部を小さく剃った形だったと考えられています。
なお、「月代」は「つきしろ」とも読みます。「つきしろ」と読む場合は「さかやき」と同じ意味で用いるほか、月が昇ろうとするとき、東の空が白んで明るく見えることも意味します。
月代の歴史
「月代」と聞くと、江戸時代の武士の髪型を思い浮かべるかもしれません。しかし、その歴史はさらに古く、中世にはすでに月代をあけた人々の姿が確認されています。
では、月代はいつ、どのような理由で広まり、武士の定番の髪型となっていったのでしょうか? その変化を時代順に見ていきましょう。
中世にはすでに月代があった
日本では古くから男性も髪を伸ばす「総髪(そうはつ)」が基本でした。公家や武家は日常的に冠や烏帽子を着用し、戦いの際にも頭にかぶり物を着けていました。
しかし、長時間兜をかぶれば頭には熱がこもります。そこで、蒸れやのぼせを防ぐために頭頂部の髪をなくすようになったとされています。
中世の絵巻にも月代をあけた男性の姿が描かれており、戦国時代になって突然生まれた髪型というわけではありません。

戦国時代に武士の間で定着
月代が本格的に広まったのは、戦乱が相次いだ室町時代から戦国時代でした。
特に応仁元年(1467)から始まった応仁の乱以後、戦いが長期化すると、戦時だけ月代をあけ、戦いが終われば髪を戻すという生活をするのは難しくなります。やがて月代を保ったまま生活することが習慣となり、武士の日常的な髪型へ変化していきました。

興味深いのは、その方法です。戦国時代の月代は、最初から剃刀で剃っていたわけではありません。
天正年間(1573~1592)ごろまでは、毛抜きを使って髪を一本ずつ抜く方法で行われていました。
天正年間前後になると、武士だけでなく庶民の間にも月代が広まり、月代を剃ることを仕事とする人も現れました。「一銭剃」「一銭職」と呼ばれています。
江戸時代には一般男性も月代に
戦乱が終わった江戸時代になっても、月代が消えることはありませんでした。
武士の髪型として定着した習慣は、やがて一般の男性にも広がります。月代と後ろ髪を組み合わせたさまざまな髷(まげ)が生まれ、男性の身だしなみの一つとなりました。
月代の範囲も時代によって変化しています。江戸時代前期には頭頂部を広く剃る傾向があり、時代が下るにつれて狭くなっていったとされています。
明治時代、月代は姿を消す
長く男性の髪型として定着していた月代にも、明治時代になると転機が訪れます。
明治4年(1871)、散髪を自由とする布告が出され、西洋風の髪型が広がると、月代を剃った従来の髪型は次第に姿を消していきました。
戦場での実用性とも結びついて広まった月代は、数百年にわたって日本男性の髪型として受け継がれていたのです。
最後に
戦国武将の月代は、単なるファッションではありませんでした。冠や烏帽子との関係に加え、兜をかぶった際の蒸れやのぼせを防ぐという実用的な理由があったと考えられています。
そして戦乱が長引く中で日常的な髪型となり、やがて平和な江戸時代にも受け継がれました。
月代ひとつにも、戦国の世を生きた武士たちの暮らしと、時代の変化が刻まれていることがわかります。
※表記の年代と出来事には、諸説あります。
●取材・執筆/末原美裕

1300年の歴史を持つ京都に住むようになって早くも10年以上が経つ。「戦国武将の生き字引」を目指し、実際に武将たちのゆかりの地を訪ね歩きながら「日本史人物伝」「日本史事件録」などの記事を執筆している歴女。歴史好きが高じて『京都学問所紀要 鴨長明の世界』『京都学問所紀要 方丈記』(ともに賀茂御祖神社京都学問所)の書籍を編集。京都の奥深い歴史と文化を日々探究中。
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引用・参考図書/
『日本大百科全書』(小学館)
『世界大百科事典』(平凡社)
『国史大辞典』(吉川弘文館)











