
ライターI(以下I):いよいよ7月12日に大河ドラマ『豊臣兄弟!』で「本能寺の変」が描かれます。
編集者A(以下A):大河ドラマで描かれる「本能寺の変」には、「3点セット」があります。明智光秀が発する「敵は本能寺にあり!」と、光秀謀反が発覚した際に信長が発する「是非に及ばず」という台詞。さらには、「人間五十年~」で知られる幸若舞「敦盛」です。
I:なるほど。「敵は本能寺にあり!」のくだりは、老若男女問わず興奮しますよね。ちょっと並べてみます。
「皆に伝えよ。わが敵は本能寺にある。敵の名は織田信長!」(『太閤記』佐藤慶)
「わが敵は備中にあらず、本能寺にあり!」(『国盗り物語』近藤正臣)
「(重臣たちに)我らの敵は、本能寺にある。……信長を討つ」(『おんな太閤記』石濱朗)
「(光秀重臣斎藤利三が号令)これより我らが殿は今日より天下様におなりになる。我らが目指すは織田信長の首じゃ。敵は本能寺にあり!」(『春日局』五木ひろし/セリフを発したのは斎藤利三)
「(重臣たちに)今宵、出陣いたす。軍勢都に向け、上様を討つ」(『信長 KING OF ZIPANGU』マイケル富岡)
「母御前……敵は本能寺にあり!」(『秀吉』村上弘明)
「みなの者! 敵は本能寺にあり!」(『利家とまつ~加賀百万石物語』萩原健一)
「時は今なり。敵は本能寺にあり!」(『天地人』鶴見辰吾)
「天下布武の偽名のもと、罪もなき民草を殺戮し、神仏を虐げしのみならず、不埒にも自らを神に祀り上、あまつさえ帝をも己の下に置かんとする所業の数々、許し難し! よってこれを誅伐するこそ、天の義、人の道にかなうものなり! 敵は本能寺にあり!」(『江 姫たちの戦国』市村正親)
「われらはこれより京に向かう。敵は本能寺にあり!」(『軍師官兵衛』春風亭小朝)
家臣が「京のいずこへ参ります」と問うと、「本能寺。我が敵は本能寺にある。その名は織田信長と申す」―(『麒麟がくる』長谷川博己)
なんだかわくわくしてきますね。
A:意外にも織田信長を主人公にした『信長 KING OF ZIPANGU』では「敵は本能寺にあり!」は採用されていないんですよね。そして、大河ドラマの「本能寺3点セット」の「2」は、光秀謀反を森蘭丸(森乱)から報らされた信長が発したといわれる「是非に及ばず」という台詞です。原典は『信長公記』ですが、大河ドラマでは「是非もなし」も含めると『国盗り物語』『おんな太閤記』『徳川家康』『春日局』『秀吉』『利家とまつ』『功名が辻』『天地人』『江』『軍師官兵衛』『麒麟がくる』の11作品で採用されています(採用されていないのは『太閤記』『黄金の日日』『信長』『真田丸』『おんな城主直虎』『どうする家康』)。
I: 11作品で描かれているとなると、もはや挿入されないと文句が出る『水戸黄門』の印篭状態ですね。『豊臣兄弟!』で採用されているのかいないのか、注目ですね。
A:そして、信長の人生の最期を飾る「本能寺3点セット」の3は「敦盛」です。「人間五十年、下天のうちをくらぶれば夢、幻の如くなり。ひとたび生を得て滅せぬもののあるべきか」という信長が好んだという幸若舞の一節ですが、変の前夜や回想シーン、断片的につぶやくシーンも含めると、『太閤記(回想)』『国盗り物語』『おんな太閤記(回想)』『徳川家康(前夜/鼓を濃姫)』『春日局』『秀吉』『利家とまつ』『功名が辻』『江』『軍師官兵衛』の10作品で採用されています。このうち『徳川家康』では、本能寺前夜に濃姫(演・藤真利子)が鼓を打ち、役所広司さん演じる信長が「敦盛」を舞うシーンが描かれました。「敦盛」は桶狭間合戦前夜で舞われることも多い、信長ファン期待の場面ではあります。
I:歴史上の単独事件でもっとも多く大河ドラマで描かれている事件が「本能寺の変」です。「3点セット」以外にも「首を渡すな」がありますね。
A:はい。信長が森蘭丸(森乱)ら小姓たちに「絶対に首を渡すな」と厳命する場面ですね。6作品で採用されています。
「余が焼けて灰になるまで敵に渡すな」(『太閤記』高橋幸治)
「火をかける。明智などに余の姿見せてはならぬ。急げ」(『信長』緒形直人)
「わしの首、いや、姿骨まで決して残すな!」(『利家とまつ』反町隆史)
「お蘭、この信長の首、断じて渡すでないぞ」(『功名が辻』舘ひろし)
「よいか、わしの首、骨、髪の1本もこの世に残すな」(『江』豊川悦司)
「わしはここで死ぬ。蘭丸、ここに火をつけよ。わしの首は誰にも渡すな。わしを焼き尽くせ」(『麒麟がくる』染谷将太)
I:どの作品もしびれますが、当連載が始まった2020年の『麒麟がくる』での染谷将太さんの「わしを焼き尽くせ」がひときわ印象に残っていますね。思い出すだけで涙腺がゆるみます。
A:信長の来し方を振り返った時、人生の最期に「首を渡すな」と厳命したというのは、ひと際、感慨深いですね。桶狭間で討ち取った今川義元の首に始まり、朝倉・浅井攻めに際しては、朝倉義景、浅井久政、浅井長政の首を薄濃(箔彩み/はくだみ)にして宴席に供しました。八上城の波多野三兄弟の首級を塩漬けにしたり(『麒麟がくる』)、武田勝頼の首実検も描かれました(『どうする家康』など)。上月城の戦い、荒木村重謀反の際の有岡城の戦いでは、城方の女性なども磔刑に処したり、容赦なく打ち首にしました。これまで自分がしてきたことを考えれば、本能寺でもし自分の肉体が明智側に渡ったら、亡骸を磔刑にされたり、首をさらされるに違いない――。信長にとって、それだけは絶対に、絶対に、絶対に避けたい事態だったのだと思います。
I:森乱ら小姓たちは、少ない人数で、その難しいミッションを貫徹したのですね。
A:結局、信長の亡骸は、光秀側に渡ることはありませんでした。これは光秀最大の失態です。信長の亡骸を世間にさらすことができなかったことで、生存説が流布され、やがて光秀は窮地に陥るのです。
I:小栗旬さんが織田信長を演じている『豊臣兄弟!』では、「本能寺の変」はどのように描かれるのでしょうか。
●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり











