昭和世代にとって、職場環境は激変していると言っても決して過言ではないでしょう。その代表的な変化は、ハラスメントという規範が社会に広く行き渡ったことではないでしょうか?

昭和世代が社会に出た頃、オフィスにおいて単なる冗談や軽口、日常のコミュニケーションの一環として許されていたことが、今やセクハラ・パワハラ・モラハラとみなされるようになりました。そうしたハラスメントが許されざる行為だということを知識として理解していても、長年、見過ごされて、立場によって許されてきた言動は習慣として染み付いており、容易に直すことはできないようです。

そのことを如実に表すのは、昭和世代の管理職が加害者となる事件が後を絶たないことです。その時の釈明の会見で発せられる言葉は「指導の一環であると思っていた」とか「抵抗しなかったから、了解があると思った」などといった被害者との意識のズレやギャップを感じさせるものばかりです。

事件の当事者にならないためには、意識変革が最も効果的な方法です。そこで、本記事では、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が具体的な事例を交え、わかりやすくご紹介いたします。ご自身の戒めとしてお役立てください。

目次
ハラスメントの定義
ハラスメントの種類にはどんなものがある?
最後に

ハラスメントの定義

ハラスメントとは相手の嫌がることをして不快感を与える行為全般をさします。厚生労働省では、「職場におけるハラスメント」として、代表的な三つのハラスメントについて次のように定義づけています。

一つ目はパワーハラスメントです。パワーハラスメントとは、「優越的な地位を背景としたものであって」「業務上必要かつ相当な範囲を超え」「労働者の就業環境が害されるもの」であることが条件とされています。

二つ目はセクシュアルハラスメント、そして三つ目は妊娠・出産・育児休業に関するハラスメントです。二つ目、三つ目のハラスメントは、「職場における上司・同僚からの言動により」「労働者が不利益を受けたり」「労働者の就業関係が害されるもの」と定義づけられています。これらはいずれも「男女労働者」が対象となっています。 

ハラスメントの種類にはどんなものがある?

ハラスメントには前述した三つのハラスメントのほかにも、数多くの種類があります。

一般に使われるものとしては、モラルハラスメント、アルコールハラスメント、カスタマーハラスメント、アカデミックハラスメントなど。人権意識の高まりにより、次々と新たなハラスメントが生まれているのが現状です。

新しいハラスメント

その中でも最近注目されるようになったハラスメントは「ジェンダーハラスメント」です。これはセクシュアルハラスメントとは異なり、固定概念に基づいた「男らしさ」「女らしさ」や性的役割を相手に強要するものです。LGBT法案の影響などでジェンダーに対する関心が高まったことが注目の原因だと思われます。

さらにコロナ禍でのリモートワークの増加より、「リモートハラスメント」という言葉も出てきました。これは部下のリモートワークを過剰に監視したり、オンライン会議で映り込んだ相手の自宅の様子や周囲の音声に必要以上に興味を示すことなどを指します。

こうした行為は「個の侵害」にあたり、ハラスメントとみなされます。

職場のハラスメントの具体例

それでは職場では実際にどのようなハラスメント行為が行われているのでしょうか?

ハラスメントは暴力行為や性的な誘いなどのわかりやすいものばかりではありません。今多くの職場で問題となっているのが「無自覚のハラスメント」です。ここで二つの例を挙げてみましょう。

例1:ベテラン世代の武勇伝は、時代錯誤

営業部のB男の上司であるA課長(50代・男性)は「親分肌の人」です。

どなりちらしたり、ネチネチと嫌味を言ったりするタイプではありません。しかし、B男はA課長と話すたびにプレッシャーを感じています。特に辟易するのは、たびたび繰り返されるA課長の昔の成功体験や若い頃の武勇伝です。「自分の若い時は休みもとらず、寝ずに働いた」「法律スレスレの無茶なことをして、契約を勝ち取った」という類の話です。

さらに「毎日接待で午前様は当たり前」と、必要以上に酒席を設けて毎晩B男を連れ回すのです。B男が営業の効率化を提案しても聞き入れる様子はありません。B男は耐えきれず退職していまいました。

「彼には期待していたのに」とぼやくA課長ですが、周囲の目は冷ややか……。他の部下からも「課長は時代錯誤」「部下の意見を聞き入れない」という声が上がり始め、A課長は社内の信頼をすっかり失ってしまいました。

例2:昭和世代の上司が見落とした「部下の本音」

市場開発部に最近異動してきたC課長(50代・女性)は、「なんでも一人で抱え込む人」です。これまで人一倍バリバリやってきた自負があるためか、部下に仕事を任せることができません。

重要な案件は自分だけで抱え、いつも多忙でピリピリしています。それでいてD子が仕事のサポートを申し出てもなかなか聞き入れてもらえません。結果、D子に回ってくるのは新人でもできるような事ばかり。D子が担当していた業務のプレゼンも、いつの間にか課長が一人でやることになっていました。

「前の課長の時は、もっと重要な仕事を任せられていたのに……」と、D子は今までのキャリアを否定されたようで不安でたまりません。真面目なD子はストレスで体調を崩し、休職することになってしまいました。

C課長は、D子が休職した原因が自分にあるとは考えていませんでした。しかし、C課長の上司である部長は、部下に仕事を任せられない彼女のことを厳しい目で見ていたのです。その後、C課長は「指導力に欠ける人間」として、部下のいない部署へ異動になりました。

この二つの事例を見てどう思うでしょうか?

A課長もC課長も、自分がハラスメント行為をしている自覚はありません。共通しているのは自分の価値観に固執し、相手に対する配慮が欠けているということ。相手の意思を尊重し、常にコミュニケーションをとるようにすればこうしたトラブルは避けられたはずです。

最後に

ハラスメントを防止するための最大のポイントは、ハラスメントに対する正しい知識を身につけることです。皆さんは「自分は大丈夫だ」と言えるでしょうか?

親身になったつもりの部下への指導や同僚への軽口なども相手を深く傷つけ、大きなトラブルに発展することもあります。「ハラスメントは、誰でも加害者にも被害者にもなりうるもの」ということを肝に銘じなければなりません。相手の立場、相手の人格を尊重し、健全な人間関係を築いていくことがハラスメントのない職場への道なのです。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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