車のハンドルを握るとなぜ人格が変わる？ 人の言動が不安定になる状況とは【他人の言葉をスルーする技術】２

「人の言葉は重要だ」「人の話を聞かなければならない」という認識が、暗黙のうちに強く植え付けれられていることがあります。しかし、そう思いすぎることで、真面目な人、気持ちの優しい人ほど、人の言葉に振り回されてしまい、生きづらさを抱えてしまいます。

そこで、心理カウンセラーのみき いちたろう先生の著書『プロカウンセラーが教える 他人の言葉をスルーする技術』から、他人の言葉をスルーし、言葉に振り回されない方法をご紹介します。

文／みき いちたろう

人が変わる瞬間

新型コロナウイルスが問題になる数年前のことでしょうか、「あおり運転」がワイドショーや情報番組で頻繁に取り上げられていたことがありました。

あおり運転とは、ほかの車の運転に腹を立てるなどして、わざと後ろから車間距離を詰めてあおったり、被害者の車の前に入って蛇行したり、恐ろしいことに車を止めて文句を言いに降りてきたりといった危険な行為です。

それだけでも恐ろしいのですが、あおり運転の果てに、相手をひき殺してしまったり、高速道路で言い合いになったところを後続の車にひかれてしまったりという事件も起きました。

「あおり運転」自体は以前からもありました。しかし、かつてはドライブレコーダーがありませんから、恐ろしい目にあっても多くの場合は泣き寝入りしていたようです。

近年のレコーダーやスマホなどの普及によって生々しい実態が広く知られるようになり、社会問題化するようになりました。動画といった明らかな証拠は、社会を動かす力を持ちます。国会でも問題視されるようになり、「あおり運転」を取り締まることができるように法律も改正されました。

あおり運転とまではいきませんが、私の知人にも運転すると「人が変わる」という人はいます。あなたの知り合いにもそのような人が１人２人いるのではないでしょうか？

普段穏やかなのに、ハンドルを握ると「オラ！」となってしまう。本当に人が変わってしまうのです。たかだかハンドルを握るだけで人が変わるなんて不思議なものです。でも、どうして人が変わってしまうのでしょう？

ハンドルを握ると人格が変わってしまう不思議

ちょうど「あおり運転」が問題になっていたころ、私はペーパードライバーの講習を受けていました。学生時代に免許を取りましたが、会社員の頃は車に乗る機会がなく、すっかりペーパードライバーとなっていたのです（そのおかげで、ずっとゴールド免許です）。

最近だと、専門の会社にお願いすると、家の近くまで教習員が車で来てくれて、助手席に乗りながらペーパードライバーに運転の指導をしてくれるのです。

最初は人や車の少ない道から始まって、だんだん町中を走り、慣れてくると高速に乗って遠出をしたりもしてくれます。大型の商業施設の駐車場を借りて駐車の練習もします。最初はこわごわと運転をしていきますが、３～４回の講習が終わると１人で乗っても大丈夫なレベルまで運転の勘が戻ってきます。

そのペーパードライバーの講習を受けている際に運転しながら、「最近、あおり運転って怖いですよね～」「もし、あおり運転にあったらどうしたらよいんでしょう？」などと教習員の先生と話をしたりしていました。

「でも、なんで、ハンドルを握るだけで人が変わってしまうんでしょうね？」と話をしていると、教習員の先生がなにげに、「なんか、車ってプライベートな空間なんで、気が大きくなるというか、そういうのもあって人が変わるみたいですよ」と、おっしゃいました。

私もそれを聞き、カウンセラーとしての知識とも一致する部分があり、「ああ、なるほど」と納得するものがありました。

あおり運転では、車内空間という半ばプライベートな環境に身を置くことで、人格に安定をもたらしていた公的領域の力が機能しなくなります。そして、不全感を抱えた私的な状態の自分が前面に現れてしまうからだと考えられます。これを私は「公的環境（領域）の仮説」と呼んでいます。

私的な環境あるいは公私があいまいな環境において、人間は不安定になりやすいのです。

＊　＊　＊

『プロカウンセラーが教える 他人の言葉をスルーする技術』（みき いちたろう 著）
フォレスト出版

みき　いちたろう
心理カウンセラー、公認心理師。大阪生まれ。大阪大学文学部卒、大阪大学大学院文学研究科修士課程修了。在学時よりカウンセリングに携わる。大学院修了後、大手電機メーカー、応用社会心理学研究所、大阪心理教育センターを経て、ブリーフセラピー・カウンセリング・センター（B.C.C.）を設立。トラウマ、愛着障害などのケアを専門にカウンセリングを提供している。