
いまの社会は、便利になった一方で、息苦しさを感じる場面も増えました。大きな理由のひとつは、「常識」の変化が速いこと。以前は通用していた言い回しや振る舞いが、今日は通じない… そんなことが珍しくありません。仕事でも人づきあいでも、「正解」が見えにくい時代です。
ただ、私たちが大きな変化だと感じていることも、百年単位で見れば繰り返しの一部かもしれません。だからこそ、長い時間を生き抜いてきた先人の言葉は、いまなお効きます。時代が変わっても揺らぎにくい「芯」を、今日の一文から受け取ってみませんか?
今回の座右の銘にしたい言葉は「過ぎたるは猶及ばざるが如し」(すぎたるは、なおおよばざるがごとし)です。
「過ぎたるは猶及ばざるが如し」の意味
「過ぎたるは猶及ばざるが如し」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「何事でもやり過ぎることはやり足りないことと同じようによくない」とあります。「過ぎたる」は、度を越していること。「猶」は「なお」と読み、「やはり」「同じように」という意味です。「及ばざる」は、足りないこと。「が如し」は、「~のようである」を表しています。
つまり「過剰も不足も、どちらも適切ではない」「何事もほどよさが大切」という意味になります。
たとえば、健康のための運動も、無理を重ねれば体を痛めることがあります。家族を思う気持ちも、先回りして何でもしてあげれば、相手の自立を妨げるかもしれません。仕事への責任感も、一人で抱え込みすぎれば、疲労や周囲との行き違いにつながります。
大切なのは、「やり過ぎ」と「足りない」の中間を、いつも同じに保つことではありません。その人の体調や立場、状況に応じて、適切な加減を見極めることなのです。
「過ぎたるは猶及ばざるが如し」の由来
この言葉は、中国の古典『論語』に記されています。ある時、孔子の弟子のひとりが「子張と子夏の二人の弟子では、どちらが優れていますか?」と尋ねました。孔子は「子張はやり過ぎる傾向があり、子夏は少し物足りないところがある」と評価しました。
そこで弟子が「では、やり過ぎる子張の方が優れているのですね?」と聞き返したところ、孔子は「そうではない。過ぎたるは猶及ばざるが如し」(やり過ぎるのも、足りないのと同じようによくないのだ)と答えたとされています。
孔子がここで説いたのは「中庸」(ちゅうよう)という概念です。中庸とは、極端に偏ることなく、その時々の状況に応じて過不足のない、ほどよい状態を選び取ることを指します。たとえば、厳しさが必要な場面もあれば、見守ることが必要な場面もあります。家族を支えることが大切なときもあれば、あえて手を出さずに任せることが相手のためになるときもあります。
「過ぎたるは猶及ばざるが如し」は、何でも控えめにすればいいという教訓ではありません。必要なときにはしっかり行動し、必要がなくなれば手を引く。その判断力を持つことの大切さを示しています。

写真:photoAC
「過ぎたるは猶及ばざるが如し」を座右の銘としてスピーチするなら
この言葉をスピーチで紹介するときは、「やり過ぎも、足りないことも、同じように適切ではない」という本来の意味を示しましょう。その上で、自分がかつて頑張りすぎた経験や、誰かに任せることで学んだことを加えると、言葉に説得力が生まれます。以下に「過ぎたるは猶及ばざるが如し」を取り入れたスピーチの例をあげます。
人生の後半戦へ向けてのスピーチ例
私の座右の銘は、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」です。やり過ぎることは、足りないことと同じようによくないという意味です。
私は若い頃、努力すればするほど、いい結果につながると考えていました。仕事を頼まれれば断らず、家族のことにも先回りして手を出す。自分が頑張ることで、周囲が助かると思っていたのです。
しかし、頑張りすぎた結果、疲れがたまり、家族の何気ない言葉にも腹を立てるようになりました。さらに、何でも自分でしてしまったため、周囲が自分で考えたり行動したりする機会を奪っていたことにも気づきました。
孔子の言葉にある「過ぎたるは猶及ばざるが如し」は、何もしないほうがいいという意味ではありません。必要なことには力を尽くしながらも、度を越さないこと。相手に任せるべきところでは、信じて任せること。その大切さを教えてくれます。
年齢を重ねると、体力や生活環境は変わります。以前と同じように頑張るのではなく、その時々の自分に合った方法を選ばなければなりません。
これからは、無理を重ねてから休むのではなく、長く続けられるように力を配分していくつもりです。家族に対しても、すぐに口を出すのではなく、必要なときに支えられる人でありたいと思っています。
最後に
「過ぎたるは猶及ばざるが如し」は、人生の「ほどよい落としどころ」を思い出させてくれる言葉です。この教えは、努力を否定したり、向上心を抑えたりするものではありません。大切なのは、今の自分や相手、状況に合わせて、力の入れ方を調整することなのです。
●執筆/武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com







