家康(演・松下洸平)に嫁いだあさひ(演・倉沢杏菜)。(C)NHK

ライターI(以下I):『豊臣兄弟!』第40回では、徳川家康(演・松下洸平)を懐柔するために秀吉(演・池松壮亮)の妹のあさひ(演・倉沢杏菜)を家康に嫁がせるという「ウルトラC」が繰り出されました。

編集者A(以下A):「ウルトラC」とは古臭い表現ですが、いいたいことはわかります。側近中の側近石川数正(演・迫田孝也)を寝返りさせたうえで、家康を一気に叩き潰そうとしたタイミングで、まさかの天正大地震勃発。大きな被害を目の当たりにして、方向転換を余儀なくされました。

I:秀吉が家康懐柔の使者に選んだのが織田信雄(演・山脇辰哉)でした。その信雄が「徳川殿は、於義伊を差し出しておりますれば、豊臣からもどなたかを貰うのが筋だと。しかしこちらには実子はおらぬ故、あとはお身内から妻を頂くのがなによりと」と家康からの提案だったという設定でした。

A:これに対して、「それは従来の説とは違うのではないか」と感じた視聴者も多かったのではないかと思います。ただ、本件に関しては、『豊臣兄弟!』でも時代考証を担当している柴裕之先生の著書『徳川家康 境界の領主から天下人へ』(平凡社)の中で、「家康は臣従に際し、条件として秀吉との縁戚関係を求めた」とある通り、家康からの提案というのが最新の知見のようです。

I:なるほど。また定説とは異なるアレンジだ! と思った方も多かったかと思いますが、最新の知見に基づく描写だったんですね。

A:同書には、家康が御礼のために秀吉と面識のない家臣を遣わして秀吉の不興をかったこと、紆余曲折の末に本多忠勝を使者としたことなどが記されています。この描写をそのまま描いてくれたら面白いのに、と思ってしまいました。

I:この頃の縁組というのは意外に堅固だと感じています。例えば、武田信玄の嫡男義信は、今川義元の娘を正室に迎えていましたが、桶狭間の合戦で今川義元が討たれた後に、信玄が今川領を攻めようとしたのに対して、正室実家を攻めるとは何事かということで、親子の確執が生じたのですよね。

A:徳川家と豊臣家も強固な絆で結ばれるということを想定したのだと思いますが、このとき家康、あさひともに40代。なかなかに異例の縁組でした。

I:あさひに家康との縁組を依頼することになり、「ならばその話、わしが進めよう」と、嫌な役目は自分が請け負うとばかりに秀長(演・仲野太賀)は申し出ますが、秀吉は「すまぬ……だが、此度だけはわしに話させてくれ」と、自分があくまで責任を負うといいます。家族思いの兄弟のやり取りが交わされます。

A:そうして、仲良し夫婦を呼び寄せて、秀吉は説得を試みます。「お前は、この関白秀吉の妹なのじゃ。代わりはおらぬ。これはお前にしか出来ぬ務めなのじゃ」「どうかわかってくれ。豊臣のため、お前たちの力を貸してくれ、この通りじゃ!」と頼み込む秀吉に対して、甚兵衛(演・前原瑞樹)とあさひともに難色を示します。

I:夜逃げしようとするあさひと甚兵衛。しかし、あさひが、やっぱり行けない、という。そこへ秀長が現れます。密告があったというのです。甚兵衛は、あさひがわざと密告したと疑い、「裏切り者が!」と怒鳴る。「どうも様子がおかしいと思ったのじゃ。最初からわしを売るつもりだったであろう!」「まことは家康に嫁ぎたかったのではないか!?」。これが全部、甚兵衛の策だったと知って、ちょっと涙がこぼれてきました。

夜逃げが「密告」された甚兵衛(演・前原瑞樹)とあさひ。(C)NHK

過去作ではどう描かれた?

A:過去作のあさひと甚兵衛の描かれ方を振り返ります。あさひの夫に関しては、副田甚兵衛、あるいは佐治日向守と二説あり、作品によって異なります。

1981年の『おんな太閤記』では、秀吉の妹あさひ(演・泉ピン子)と夫の副田甚兵衛(演・せんだみつお)の離縁話が視聴者を泣かせました。しぶしぶ離縁に応じて、豊臣家を去った甚兵衛は、旅芸人の一座の人間に転じ、家康に嫁いだあさひの住む浜松を訪れ、再会を果たすという「追い泣き」シーンまで描かれたのです。

1983年の『徳川家康』で朝日姫を演じたのは岩本多代さん。佐治日向守を演じたのは伊藤豪さんでした。秀吉(演・武田鉄矢)から離縁するように申し渡された佐治は、朝日姫が餅を焼いている隙に自害して果てるという展開になりました。

1996年の『秀吉』では、秀吉妹の役名は「さと」で細川直美さんが演じました。夫の役名は仲蔵(ちゅうぞう)で岡本健一さんが演じました。細川直美さんと岡本健一さんという演者は、1981年の『おんな太閤記』とは異なるイメージで困惑した視聴者も多かったのではないでしょうか。同作で妹を家康(演・西村雅彦)に嫁がせようと進言したのは秀長(演・高嶋政伸)でした。仲蔵は、切腹するなど(命はとりとめる)抵抗しますが、最終的に「さと」は家康に嫁ぎます。

I:市や浅井三姉妹の「歴史」も涙なしでは語れませんが、秀吉妹あさひの「歴史」も相当に哀しい物語です。

A:こうした「犠牲」があって、戦国乱世に終止符が打たれ、長い平和の時代がやってきたということを忘れてはいけないですね。

家康とあさひの婚礼。(C)NHK

※高嶋政伸の「高」は正しくは「はしごだか」。

●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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