オカピ
コンゴ民主共和国の熱帯雨林にのみ生息。体の模様はシマウマに似るがキリンの唯一の近縁種。警戒心が強く飼育が難しい。

横浜市北西部の丘陵地帯にあるよこはま動物園ズーラシアは、国内最大級の敷地面積を誇る動物園だ。この地に里山が広がっていた時代の雰囲気を残す緑豊かな憩いの場でもあり、年間100万人を超える人たちに親しまれている。

随所で目につくイメージキャラクターがオカピだ。ズーラシアでは、1999年の開園時からこの絶滅危惧種を公開している。隣接する横浜市繁殖センターとともに、日本で初めて繁殖にも成功。これまでに4頭が誕生し、WAZA(世界動物園水族館協会)の希少種域外保全計画に貢献している。

現在、日本の動物園にいるオカピは5頭だけで、うち4頭がズーラシアで飼われている。

1万頭まで減った絶滅危惧種

毎朝一番に出勤して園内を巡回するという村田園長。「ズーラシアの特徴は緑が多いこと。散策を兼ねて利用する方も多いですね」

オカピは1901年に新種記載された動物だ。大型哺乳類の新発見はもうないだろうといわれていたため、当時は20世紀最大の驚きと評された。生息地はコンゴ(アフリカ)のイトゥリという密林。その後、開発などで数を減らし、現在の生息数は1万頭程度だ。

「域外保全は種の絶滅を防ぐための避難措置にすぎません。目標はあくまで野生復帰です。しかし、そのためにはオカピが安心して暮らせる環境の確保が必須。ですから、近年は絶滅危惧種が置かれた現状を知っていただくための解説看板を増やしています」

こう語るのは園長の村田浩一さんだ。朝5時半に出勤し、園内を隈なく歩くのが就任以来の日課。動物たちの様子を観察したり、飼育担当者や来園者と気さくに会話を交わしたりするなかで、園が進むべき方向を模索している。

「啓発看板というのは、残念ながらたくさんの方に読んでいただけるものではありません。けれど、100人のうちひとりでも足を止めてくださる方がいれば、未来の希望へとつながるはずです」

特定の珍獣に人が殺到した時代は過ぎ、来園者の動物の見方が年々成熟していると感じる。動物園ができることを来園者とともに考える時代が来た──。村田さんにはそんな確信がある。

「生命の共生・自然との調和」をメインテーマに掲げている。パネルは、オカピの生息地の森が直面している複雑な環境問題について触れた解説。

希少種を守り続けていくカギは取り組みの価値をどう認めてもらうか

ツシマヤマネコ
長崎県対馬にのみ生息するベンガルヤマネコの亜種。大きさはイエネコほど。出産数は1~2頭。現在の生息数は100頭弱と推定。

よこはま動物園ズーラシアでは、さまざまな希少種の繁殖に取り組む。哺乳類ではオカピのほかマレーバク、ツシマヤマネコ。鳥類ではカンムリシロムク、ホオアカトキ、コンゴクジャク、カグー。これだけの数に取り組めるのは、ズーラシアの主体である横浜市が種の保全に力を注いできたからだ。

ズーラシアの開園と同じ1999年、同じ敷地内に横浜市繁殖センターが誕生。以来、両施設の間では、車の両輪のような関係で増殖と野生復帰に向けた連携がさまざまに進む(※)。マレーバクなどバク類繁殖の取り組みでは、海外からも注目されている。

マレーバク
現存するバク科動物のうち唯一アジア(東南部)に生息。白と黒の体色が特徴的。生息地の環境破壊により絶滅が心配されている。

絶滅危惧種は、野生下での個体数が著しく減ってしまった種だ。また、動物をめぐる近年の法律と倫理観の中では、動物園での展示を目的に野生個体を入手することはできない。繁殖計画は、野生絶滅を防ぐためのバックアップ措置であり、動物園が将来にわたって展示個体を確保していくための手段でもある。

ボルネオオランウータン
東南アジアの赤道直下、ボルネオ島の熱帯林に生息するヒト科霊長類。成熟したオスは顔の両側の頬垂れが横に発達。
生息地が直面している問題を伝える“自然の大使”的な役割を担う。

※横浜市繁殖センターは非公開。増殖に取り組む希少種の中には、ズーラシアでは展示していないものもある。

野生復帰の実現に必要なもの

繁殖計画に定められた条件は多岐にわたる。遺伝子の多様性を重視した血統管理と、そのデータを基にしたブリーディングローン(ペア形成のための個体の貸し借り)。人工授精技術の確立……。野生復帰に向けた課題の抽出、馴化の準備なども入念に行なう必要がある。園長の村田さんは言う。

「ツシマヤマネコもそうですが、日本の絶滅危惧種の増殖計画は環境省との事業です。私個人はコウノトリの繁殖と野生復帰に長く関わってきました。そこで実感したのが社会との関係の大切さです」

コウノトリ
東アジアに生息し日本にも分布。戦後激減し、わずかに残った野生個体から増殖が試みられた。現在は野生復帰を果たしている。

コウノトリが減った原因のひとつは、田んぼを踏み荒らす害鳥として農家から嫌われたことだ。大型のコウノトリは小魚やカエル、バッタなどの餌を大量に食べなければ生きられないが、野生復帰に不可欠なのは、餌を充分に確保できる昔のような農業環境だ。

「どう伝えれば農家に理解してもらえるかが課題でした。転機は米の値段です。コウノトリが来る田んぼは自然が豊かな証。そこに価値を感じ、多少値段が高くても買い支えたいという消費者がいらっしゃった。そこからコウノトリ米ブランドが生まれたのです」

じつはツシマヤマネコも田んぼを採餌に利用する動物だ。増やした個体を野生復帰させるためには、同じような協働がカギになってくるだろうと村田さんは言う。

動物園・水族館は、社会の意識に変革を促す啓発の場であることを目指しつつあるようだ。

テングザル
東南アジア・ボルネオ島に生息する。成熟したオスは鼻が巨大化するのが特徴。国内で飼育・展示しているのはズーラシアのみ。

国内最大級のエリアの中で野生の生きざまに想いを馳せる

生息地をイメージした環境で数種を混合展示
開放的な空間で大型草食獣のキリン、シマウマ、エランドが一緒に過ごす様子が見られる。すぐ横にはクロサイの展示場も。

敷地面積は東京ドームおよそ10個分の45ヘクタール。その広大な土地と、里山の植生とを融合させたズーラシアの目玉は、生息エリア別のフィールド展示だ。

園全域は、ゆっくり見て歩くと一日では回りきれないほど。おすすめしたいのは、正門右手から園内バス(有料)に乗って5分ほどの北門で下車し、すぐ近くにある「アフリカのサバンナ」ゾーンを出発点にする散策だ。

ここは丘陵の最も上手にあたる。以後の見学はずっと緩い下り道になるので、体力に自信のない人でも疲れにくいはずだ。

サバンナと名付けられているように、そのエリアは見晴らしの良い草地が中心である。風の吹き抜けもよく、肌に心地よい。

この空間で思い思いに草を食むのが、アフリカを代表する大型草食動物のキリン、シマウマ、ウシ科のエランドである。それら草食獣が見える位置に、草原の肉食獣チーターの放飼エリアがある。草食動物と肉食動物を混合的に展示することで、動物たちの関係性を身近に感じてもらおうという試みだ。

アフリカのサバンナ
視界に入る草食動物たちの様子が気になるチーター。
キリンの給餌。木に吊り下げたカゴの中に木の枝を入れている。キリンは長い舌をカゴの穴から差し入れ、からめ取るように葉をむしる。持ち前の行動を発現させ、それを展示にも活かす環境エンリッチメント(※)の工夫だ。

続くエリアは「アフリカの熱帯雨林」だ。シンボルは絶滅危惧種オカピ。環境の変化に敏感なため、天候や体調次第で屋外展示がないこともある。事前に調べておきたい。

穴場は里山を活かした体験林

アジアの熱帯林
小川を静かに渡るスマトラトラ。スマトラ島の熱帯林で単独で暮らす。トラの亜種の中では最も小型。ごく近い将来に野生絶滅する危険性が高い。

南東方向に下っていくと、「アマゾンの密林」「日本の山里」「亜寒帯の森」「中央アジアの高地」「オセアニアの草原」「アジアの熱帯林」といったゾーンが次々に現れる。いずれも自然度の高い環境の中に設けられており、動物たちの動きも生き生きとして見える。生息地のエコツアーに参加したような気分に浸ることができるだろう。

穴場といえる場所が「わんぱくの森」と名付けられた自然体験林だ。ここは昔の里山で、遊歩道沿いに小川も流れている。関東周辺ではなかなか見かけなくなったキイトトンボなども生息し、ズーラシア関係者の間でもファンが多い。

動物園のイメージが変わる広さと、緑のまぶしさ。動物好きだけでなく、ハイカーからも親しまれている首都圏のオアシスである。

オセアニアの草原
大洋州のエリア。乾季と雨季の繰り返しで生まれたオーストラリア大陸の景観を中心に再現。飛べない鳥として知られるエミューと、有袋類のカンガルーを展示。写真はニューギニアに生息する樹上性のセスジキノボリカンガルー。
跳躍力に優れたアカカンガルー。

※環境エンリッチメント:動物のストレスを減らすために、飼育環境を豊かにする工夫のこと。

よこはま動物園ズーラシア

神奈川県横浜市旭区上白根町1175-1 
電話:045・959・1000
営業時間:9時30分~16時30分(最終入園16時)
定休日:火曜(祝日の場合は開園、翌日休園)、12月29日~1月1日 *臨時開園あり。
料金:大人800円
交通アクセス:相鉄線鶴ヶ峰駅北口、または三ツ境駅北口下車、バスで約15分。JR横浜線・横浜市営地下鉄中山駅南口下車、バスで約18分。いずれもよこはま動物園行き。

取材・文/鹿熊 勤 撮影/藤田修平 写真提供/よこはま動物園ズーラシア

※『サライ』2026年6月号より

6月号特集は『新しい動物園と水族館の歩き方』

 

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