今川義元とのエピソード

I:三河の小土豪松平家の嫡男松平竹千代は、織田家の人質となり、その後、今川家に人質として送られることになります。この10年の間でも、2020年の『麒麟がくる』でも織田家で暮らす松平竹千代(演・岩田琉聖)と物語の主人公明智光秀(演・長谷川博己)が干し柿を通じて交流するエピソードが描かれました。2023年の『どうする家康』は家康(演・松本潤)が主人公だったこともあり、人質時代のエピソードが多数登場しました。
A:今回の家康と今川義元(演・大鶴義丹)との間で交わされたのは「完全オリジナルエピソード」になります。物語も後半戦に突入した段階で、家康幼少時のエピソードが投入されるのですから、ひときわ意味のあるエピソードという認識なのでしょう。
I:最初の回想で、今川義元が家康に小鳥を与え、辛いときに愛でれば癒される、寂しいときは話し相手にもなってくれよう、と慰めました。やさしい義元でした。でも、29年前の回想では、「ここまでやってこられたのもそなたのおかげだ。礼を申すぞ。千代丸」と小鳥を愛でる家康(当時は元信)に対して、義元が「であれば、殺せ」と命じるのです。意味がわかりません。
A:この間、5~6年の歳月が過ぎていることになります。家康を上げようと思えば、今川を下げねばなりませんからね。
I:私は義元と氏真(演・三河悠冴)親子は「最低」と思ってしまいました。そのくらい謎の描写でした。
A:そうした辛苦を乗り越えた末に、家康は、さらに正室築山殿と嫡男信康を失う悲劇に見舞われたわけです。家康の悲劇を強調する、あざといといえばあざとい演出でした。
I:こういう演出をするなら、私は『秀吉と家康』というタイトルで、じっくり家康の人生も描き、さらに「天正壬午の乱」までしっかり描いて欲しかったと思います。小一郎(演・仲野太賀)には申し訳ないですが……。
織田信雄と下剋上

I:今週も千宗易(演・吉岡秀隆)が登場しました。千宗易の茶の湯の席で、秀吉が家康の子を養子にとりたいと申し出ました。後に家康次男が養子に入るわけです。
A:その席上「われらが天下一統を望むのは、いつか人質のいらぬ世をつくるためにござりまする」と小一郎も言います。良い人モードの小一郎といわれますが、実はいい人を装った「悪」なのではと思ったりしています(笑)。なぜなら小一郎が寄り添った人は、誰一人幸せになっていないように思われるからです。まさかのどんでん返しが待っているのでしょうか。
I:さて、信雄(演・山脇辰哉)が津川雄光(演・早瀬栄之丞)を討ちました。俗に「三家老」誅殺事件といわれるもので、「親秀吉派」の家老を殺害した事件です。
A:秀吉の調略ともいわれ、1983年の『徳川家康』でも描かれました。本作では家康の調略により、三家老を代表して津川雄光が討たれたという設定でした。この津川雄光は、織田家の本拠である尾張守護を務めた斯波義統(しばよしむね)の息子になります。もとは織田家の主筋にあたる人物。下剋上ってやつです。今後、信雄自身、秀吉の軍門に降り、やがてはその家臣となるわけです。「昨日の部下が明日は上司」――。まさに戦乱の下剋上の戦国時代のなせる技です。
I:尾張守護の斯波家の息子が姓を変えて織田家の家臣になっているのですよね。そうした出自を知っていれば、面をかぶって踊る場面が最高に切なく感じてしまうのですよね。
A:ほんとうに切ないですよね。さて、今週は「家康回」になったわけですが、視聴者の方はどのように受け止めたでしょうか。

●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり







