箱根の地名は、一帯を囲う箱根外輪山が箱のような形をしていることに由来する。江戸時代から国内屈指の温泉地として知られ、戦前から欧米型の避暑地として親しまれた歴史がある。その玄関口の箱根湯本からは箱根登山鉄道で強羅駅、そこからタクシーで約15分。または、御殿場からバスや車を使えば20分ほど。箱根火山のカルデラ(火山活動でできた窪地)の北部にあたる仙石原は、草原や湿原の広がる高原エリアだ。意外と知られていないのは、仙石原の温泉の泉質で、白濁した硫黄泉が楽しめる。

バス通りから小径を入ったひっそりとしたエリアにある『界 仙石原』。

仙石原に足を伸ばして

温泉旅館の快適さ、伝統的な湯治文化などを現代的に編集し、「王道なのに、あたらしい。」を提案する星野リゾートの温泉旅館ブランド「界」。箱根・仙石原の『界 仙石原』は、本館13室、別館3室とコンパクトな施設で、静謐で小高い丘に佇み、ひっそりと旅客を迎えてくれる。

左/白濁したお湯。これが『界 仙石原』の泉質の特徴。右/手前が38℃の真湯(ぬる湯)で、源泉に入った後は、こちらに浸かる。露天風呂も併設されている。

温泉棟にあるエントランスに入ると、独特の温泉臭がほのかに香る。大浴場は、約40℃の温泉と38℃の真湯(ぬる湯)、そして露天風呂が用意されている。
泉質は、酸性-カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉。pHは2.0でレモン果汁と同じくらい。抗菌作用のほか、肌の表面にある古い角質を柔らかくし、溶かす効果があると言われる。その一方で、肌に負担がかからないよう、『界 仙石原』では、温泉に入った後は真湯に入ることを強くすすめる。

各部屋に露天風呂が備わる。奥に見えるのが箱根外輪山。その美しいスカイラインを眺めているだけで、気分が落ち着いてくる。
これからの紅葉シーズンには、このような景色を楽しめる。
真冬に雪が降ると、このような絶景を堪能しながら温泉に浸かれる。
これはスイートの客室。

白濁した独特の温泉は、全室に備わった露天風呂で楽しむこともできる。すべての部屋が南側に面し、箱根外輪山を望む景色に包まれながらの湯浴みは格別といえよう。

また、「界」では温泉の基本的な知識を学べる「温泉いろは」というプログラムを用意している。『界 仙石原』では紙芝居のようなプレゼンテーションボードで、温泉の効果効能や効果的な入浴のコツなどを説明してくれるので、ぜひ参加してみたい。

「温泉いろは」の様子。『界 仙石原』独自の体操やストレッチなどを組み合わせると、湯治効果が得られるという現代湯治の方法など、温泉を楽しむ方法をわかりやすく解説してくれる。できれば、温泉に入る前に学んでおきたい。

アートな時間を過ごせる温泉宿

箱根の仙石原といえば、アートとの縁が深いことでも知られる。『界 仙石原』では、すどう美術館とコラボレーションして、2018年の開業時にアーティスト イン レジデンスを実施した。アーティスト イン レジデンスとは、芸術作家らが特定の場所に一定期間滞在し、そこで創作活動を行なうプログラムの総称。国内外12名のアーティストが滞在し、仙石原や箱根をテーマに作品作りを行なった(作品の一例はこちら)。
それらの作品の一部は、『界 仙石原』の客室に飾られていて、アートギャラリーのような空間で時間を過ごすことができる。作品と時間を共有することで、作家たちがそこでどんなインスピレーションを受けたかなどを追体験し、何かクリエイティビティが刺激されるはず。そんな“アートな温泉宿”ということができる。

各部屋には、その部屋にゆかりのあるアーティストの作品が飾られている。作品と一緒に時間を過ごすという稀有な経験ができる。

滞在中にアートな気分が刺激されたら、「表現を楽しむ彩り手ぬぐい」という「ご当地楽」に参加してみてはいかがだろう。「ご当地楽」とは、「界」の全施設で実施している、その土地にゆかりの体験型プログラムのこと。「表現を楽しむ彩り手ぬぐい」は、あらかじめ用意された図柄の手拭いをマーカーなどで彩色していくというもの。実施される会場は工房のように関連するアイテムが飾られ、参加者が集うとワークショップのような光景になる。
旅先で創作意欲を刺激され、何かを発見することができる、というのも「界」が大事にしている主客対等のもてなしのひとつということができる。

海の幸・山の幸を堪能する特別会席

『界 仙石原』では、食事も魅力のひとつ。季節の食材と美しい器の組み合わせによる、ユニークな食体験を堪能してみたい。
今年の秋冬の特別会席は、白い煙が興を添えるサーモンの瞬間燻製から始まる。そして、海の幸・山の幸を集めた八寸の「宝楽盛り」や、地魚などのお造り取り合わせは、地酒の「月が綺麗ですね」(瀬戸酒造店)と一緒に楽しむのもいい。明治の文豪に由来するという挿話を思い浮かべながら、静かに夜は更けていく。
メイン料理の「雲丹と牛のすき鍋」は、圧巻の一言に尽きる。甘味のある雲丹を、卵の黄身のように牛肉に絡めて一緒に口にするというもの。贅沢の極みのような食材の組み合わせで、酒も進んでしまうだろう。

左/界の八寸「宝楽盛り」。海の幸、山の幸を様々な趣向で楽しむことができる。右/雲丹と牛のすき鍋。割下の甘味と雲丹の旨みが重なり、牛肉を包み込むようにして口のなかに味わいが広がっていく。雲丹を一箱まるまる食べられるので、牛肉との組み合わせを楽しんだ後に、ごはんと一緒に「雲丹ごはん」にするという手もある。

新しい箱根旅行を模索

仙石原の往路は、箱根湯本からのアクセスが一般的だろう。が、これまでとは違う箱根を、というならば、帰路で御殿場方面に足を向けるのもいいだろう。もしかしたら、富士山を望む景色が楽しめるかもしれない。
もうひとつのおすすめは、箱根エリアでの「界」の連泊。一泊目は『界 仙石原』の硫黄泉、二泊目は『界 箱根』のナトリウム塩化物泉と、泉質の違う温泉をはしごリフレッシュできる。さらに、「温泉いろは」「ご当地楽」などの双方独自の良さを一度に楽しめる。
日本一有名な温泉地である箱根。そこで今までにはなかった新たな体験をさせてくれる温泉宿として、この秋冬、機会をつくってぜひ訪れてみていただきたい。

『界 仙石原』
所在地:神奈川県足柄下郡箱根町仙石原817-359
電話:050-3134-8092(界予約センター)
客室数:16室、チェックイン15時、チェックアウト12時
料金:1名6万1000円~(2名1室利用時1名あたり。サービス料・税込み。夕朝食付き)

●「界」について

「界」は星野リゾートが全国に展開する温泉旅館ブランドです。「王道なのに、あたらしい。」をテーマに、季節の移ろいや和の趣、伝統を生かしながら現代のニーズに合わせたおもてなしを追求しています。また、地域の伝統文化や工芸を体験する「ご当地楽(ごとうちがく)」、地域の文化に触れる客室「ご当地部屋」が特徴です。

 

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