
そこにはかつて、世界に類を見ない海の民がいた。
太平洋の中央から南東部。ハワイ、ニュージーランド、イースター島の3島を結んだ三角形の中の地域がポリネシアである。面積にしてヨーロッパの約3倍。方位磁石もない時代に、この広大な地域を古代ポリネシア人たちはアウトリガーカヌーと呼ばれる手漕ぎの船で、島から島へと航海し、定住し、交易を重ねながら文化を紡いでいった。
今回の舞台はポリネシアの中央に位置する南の楽園、タヒチ(フランス領ポリネシア)。ここでしか味わえない、「海の民」の記憶へとつながる旅に出てみたい。

海の民が紡いだ文化。かつてのポリネシアの中心地であり現在の世界遺産からみえてくる歴史を感じて


東京・成田国際空港から南東へ約9000km。タヒチ・ファアア国際空港へ降り立つ。
空港から市街地のパペーテまでは車で10分ほど。飲食店やスーパーマーケットなどが立ち並ぶタヒチ最大の繁華街である。潮の香りを含んだ暖かい風の中を歩くと、路面市場が見えてきた。
特産の黒真珠のアクセサリーやバニラの加工品、色とりどりの織物などを眺めながら歩を進める。
時間がゆったりと流れるタヒチの空気を存分に浴びながら、この日はパペーテのホテルに宿泊した。翌日は、パペーテ市内をあらためて散策。昼には、海を望むレストランで、タヒチで人気沸騰中のクラフトビールを味わい、街のすぐ外にあるパペーテ港へ向かった。
拠点をなるべく変えずに、タヒチの島々の文化・歴史・多様な食の魅力を一か所の滞在で最大限に満喫できる旅のスタイルがある。それがクルーズ船を使った船旅である。


「ル ポール ゴーギャン」でのタヒチ・ソシエテ諸島クルーズでは、タヒチ島を起点として7泊~の船旅が基本。寝ている間に次の島に到着し、朝から観光やアクティビティを楽しめる。
最大の魅力は船自体が「移動する豪華ホテル」であること。船内には3つのレストランがあり、朝・昼・夜の3食を気分に合わせて違う場所で、異なる趣の料理とお酒で楽しむことができる。お酒をもう少し楽しみたければ、バーも3軒備えている。
舞台では陽気な船員たち「ル・ゴーギャンズ」によるポリネシアンショーや島の文化を学べる講座など、移動時も時が経つのを忘れるように楽しい。

停泊時には、船尾からカヤックやSUP(サップ)で海に出ることもできる。体験の多くは、支払い料金に含まれる形(オールインクルーシブ)で提供されるため、心おきなく楽しむことができる。パペーテ港からの出港は夕方。紅く染まる水平線を船は北西に進む。

古代祭祀の遺構は、タヒチの人の祈りの心を今に伝える

タヒチ島を発った船が目指すのは、北西にあるフアヒネ島。この島をはじめ、タヒチには古代祭祀の遺構・マラエがある。マラエとは祭壇を意味する。

タヒチの歴史は、紀元前からの古代ポリネシア期、18〜19世紀のポマレ王朝期、現代のフランス領期に分かれる。人類の定住は、約1500~2000年前、東南アジアから海を渡ってきたのが起源とされる。彼らはまず、マルケサス諸島に定住し、その後ソシエテ諸島へと広がっていった。フアヒネ島には60か所ものマラエが残されている。
その後、人々は、タヒチ島・ライアテア島・ボラボラ島・ガンビエ諸島やツアモツ諸島などに渡り、各地で首長が国を持つようになった。各島に設けられたマラエは、神聖な土地としてまた政治の場として、首長たちが集まり、会議をし、文化や操船技術などの知識を共有し、同盟関係を確認する場としても使われていったのである。
ポマレ王朝期、フランス領期を経て、キリスト教信仰が根付いた今でも、マラエはタヒチの人々の間では「マナ」(神秘的な力)を与えてくれる場所として身近な存在となっている。
フアヒネ島の次の寄港地、ライアテア島は聖なる島と呼ばれている。この島にあるタプタプアテアのマラエは、タヒチのなかでもとりわけ重要な聖域とされている。幅44m、奥行き60mほどの長方形の土地に、玄武岩を敷き詰め、珊瑚石などで作られた祭壇と、数基のメンヒル(石柱)が建てられており、2017年には、文化的景観からタプタプアテアのマラエは世界文化遺産に登録された。

足を踏み入れると、ここが聖地であることが肌で実感できる。木漏れ日に照らされた石畳、苔の生えた石柱、遠くからかすかに聞こえてくる鳥の声。大いなる自然に守られた静謐がそこにはあった。
太平洋の真珠と呼ばれる風光明媚なボラボラ島では、ボートの底面がガラス張りになったグラスボトムボートでの周遊や、標高727mのオテマヌ山のハイキングなどが楽しめる。



クルーズ船で巡るタヒチの旅

「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」(1898年完成のタヒチで描いた代表作のタイトル)。かつて文明の喧騒を逃れ、楽園・タヒチに魂の安住を求めた画家ポール・ゴーギャン。彼がキャンバスに塗り込めた情熱的な赤、神秘的な緑、そして言葉を失うほどに深い青は、今も変わらずタヒチの島々に息づいている。その画家の名を冠した「ル ポール ゴーギャン」の旅は、ラグーンの最深部へと冒険できる大人の隠れ家。
「マナ(神秘的な力)が宿る」とされるタヒチの空気を存分に感じながら旅は進む。
船員たちは、旅程の中で乗客の名前や好みをすぐに把握し「今日はどうだった?」「困ったことはない?」などいろいろと親身に話しかけてくれる。旅の最後には涙ながらに別れを惜しむ乗客もいるほどだ。2025年に改装し、全室オーシャンビュー、大部分がバルコニー付きの部屋になっており、どこからでもタヒチの島々を楽しむことができる。
今回の周遊ルート(7泊8日)
1日目タヒチ島(夕方出航)

タヒチ島でもクラフトビールがブームになっている。パペーテ港の目の前にある『Les 3 Brasseurs』(住所:Papeete 98714)で、店内で醸造したビールを味わう。
2日目フアヒネ島(午前入港、夕方出航)

シュノーケリングで美しい珊瑚礁を泳いだ後は、ビーチの水際に設えられたレストランでランチを楽しむ。タヒチの料理は、郷土料理の味にフランス料理の技法が加わる。
3日目ライアテア島(午前入港、夕方出航)

タヒチ島以外で唯一港に直接接岸できる、世界遺産「タプタプアテア」のある島。港周辺は南国の香りが漂う街づくりで、徒歩圏内に大型商店や教会、カフェなどがある。
4日目タハア島(午前入港、夕方出航)

タハア島の停泊時には、「ルポール ゴーギャン」の保有する無人島「マハナ」に立ち寄る。船員が総出でもてなしてくれ、ココナツの実から直接飲むジュースは格別だ。
5日目ボラボラ島(午前入港、停泊)
6日目ボラボラ島(停泊、夕方出航)

船上から海中がのぞけるグラスボトムボート。色とりどりの魚や、サメ、エイなど多様な魚種に出逢える。運がよければイルカやウミガメを見ることができる。
7日目モーレア島(午前入港、夕方出航)
タヒチ島(夕方入港、停泊)

モーレア島では、急峻な山道を4WDで巡るガイド付きツアーを楽しむ。座席はオープンエアになっているので島の風が心地よい。この日の夕方にタヒチ島に向かう。
8日目タヒチ島(下船)
問い合わせ先/ポナン日本支社 電話:03・6743・2175 https://www.ponant.jp reservations.jp@ponant.com
パペーテで宿泊したホテル「レヴァ タヒチ」

タヒチに到着した日は、市街地パペーテにある2025年にオープンしたばかりの新しいホテル「レヴァ タヒチ」に宿泊。空港から車で15分、パペーテ港にも徒歩5分程度なので、クルーズ旅の前後のタヒチ島宿泊にとても便利な立地が魅力。市内中心部にあり、徒歩圏内にマルシェや教会、土産店、レストラン、ショッピングセンターなどが揃っている。
ホテルのデザインは随所にポリネシア・デザインが取り入れられており、とても居心地の良い、おしゃれな空間づくりが特徴。特筆すべきは2階部分がすべて共有スペースとなっていること。チェックイン前、チェックアウト後にコーヒーを飲みながらゆっくりとくつろぐことができたり、シャワールームもタオル完備で自由に使うことができるなど、旅人目線の嬉しい設計になっている。また、セルフコインランドリーもあるので、常にフレッシュな衣類を身にまとえるのも、長期旅行者には嬉しい配慮だ。
客室は簡易的なキッチン(キチネット)付きがおすすめ。飲用水や氷は各フロアごとに置かれており、湯沸かしポットや電子レンジは室内に設置されているので、スーパーやルロット(屋台)で買った食事を部屋で快適に楽しむこともできる。
Hotel Reva Tahiti
住所:Avenue Prince Hinoï,
Papeete, Tahiti – Polynésie Française
タヒチ 楽園を旅するクルーズ船
ル ポール ゴーギャン
全室オーシャンビューで絶景を堪能

ポリネシアの海を航海するために建造された、喫水が浅い客船なので、環礁や離島に接岸できる。客室はほとんどがバルコニー付きで、バスルーム(バスタブまたはシャワー)、ミニバーなどが完備される。ミシュラン二ツ星獲得のシェフ監修によるダイニング、スパ、広々としたデッキや屋外プール、ポリネシアンダンスなどのエンターテイメント、各種アクティビティが楽しめる。ラグジュアリー感のある内装は、シックでモダンなデザインにポリネシアのテイストが融合する。
問い合わせ先/ポナン日本支社 電話:03・6743・2175 https://www.ponant.jp reservations.jp@ponant.com
アラヌイ クルーズ
タヒチ・マルケサス諸島有人島6島を周遊

Photo: Lionel Gouverneur
タヒチ島から北へ約1500km。ポリネシアのマルケサス諸島は2024年、世界複合遺産に登録されている。このマルケサス諸島の人が住む全6島を巡るのは、アラヌイクルーズだけ。「アラヌイ」とはタヒチ語で「大きな道」の意。島を結んで約70年の船会社だけあり、空港やホテルもない秘境の島も楽々回れる。船後部の客船部は快適でプールもある。往復路には世界最多で約80もの環礁からなるツアモツのファカラバ島とランギロア島、ソシエテ諸島の「太平洋の真珠」ボラボラ島にも寄港する。
問い合わせ先/オーシャンドリーム 電話:042・768・7203(平日10 時~18時) https://oceandream.co.jp/
cruise@oceandream.net
ウインドスタークルーズ
星空の下、小島を貸し切る夜がある

帆船「ウインドスター」(定員148名)と、ヨット型の「スターブリーズ」(定員312名)の2隻が航行する。大型船では生まれない乗客同士やスタッフとの親密な距離感が持ち味だ。また「食」の質にも定評があり、夜には「デッキバーベキュー」も開催される。航海の目玉はモツ(珊瑚礁の小島)での体験。日中はボラボラ沖のモツに上陸。夜はモツを丸ごと貸し切り、タヒチアンダンスショーと本格ディナーが繰り広げられる。満天の星の下、乗客全員が島に集う旅のハイライトとなる。
問い合わせ先/セブンシーズリレーションズ 電話:03・6869・7117 https://windstarcruises.jp sales@sevenseas-relations.com
ザ・リッツ・カールトン ヨット コレクション
世界最高峰のホテル基準のサービスを提供

2022年にデビューした、定員298名の高級小型ヨット「エブリマ号」でタヒチの海と島々を巡る。この船では、世界最高峰のラグジュアリーホテルブランド「ザ・リッツ・カールトン」の基準に基づくサービスが提供される。クルーと乗客の割合は、1:1.2人。食事やアルコール(一部を除く)、船内チップ、Wi-Fi、エンターテイメント他がオールインクルーシブ。全室、テラス付きの広々としたスイートルーム。三ツ星レストラン監修のダイニングなど6つのレストランも備える。
問い合わせ先/インターナショナル・クルーズ・マーケティング 電話:03・6434・5401(平日9時30分〜18時)https://www.icmjapan.co.jp/ritzcarltonyachtcollection/
「エア タヒチ ヌイ」の直行便で快適な空の旅を

日本からタヒチへは、タヒチの航空会社「エア タヒチ ヌイ」が直行便を週に2往復、成田・タヒチ間を以下のスケジュールで運航している(時間は現地時刻)。
●成田(18時25分)→ タヒチ(同日10時10分)月曜・金曜運航
●タヒチ(9時20分)→ 成田(翌日16時05分)日曜・木曜運航
タヒチ到着が午前中なので、到着日から精力的に観光が楽しめ、また復路も16時台に到着のため家や宿に遅くなりすぎない時間に到着できるのも運航スケジュールの魅力だ。搭乗時にタヒチの国花であり、「エア タヒチ ヌイ」の尾翼マークにもなっている「ティアレ」を配ってくれ、気分を南国へと連れていってくれる。甘い香りが特徴で、かつては王族のみに摘むことが許された。今では石鹸・オイル・花飾りなど、タヒチのあらゆるところで感じることができる。機内は3つのクラスに分かれており、成田の出発時からフレンチポリネシアの雰囲気と料理を堪能することができる。旅情を感じている間に、タヒチに到着。快適な空の旅が約束されている。


タヒチ 楽園の歩き方
「お土産」が充実


ポリネシア柄のシャツ(上写真)はタヒチでは正装として認められており、現地での滞在時から重宝する。プレゼントにも喜ばれるだろう。下写真は、右から、パイナップルで作られたワイン、バニラを鞘ごと入れたラム酒、タヒチで近年生産が盛んになっているコーヒー豆のボトル。
「屋台ご飯」も充実


タヒチでは「ルロット」と呼ばれる屋台。2人前は超えそうなボリュームで提供される、中華料理・ステーキなどから、ホットドッグ・アイスクリームなどの軽食、おやつまで、滞在中に様々な楽しみ方ができる。現地の人も日常的に利用しているが、一部の屋台には日本語表記もある。
古代と現代の「祈りの場」


現在のタヒチにはキリスト教が浸透しており、街にはキリスト教の教会(上写真)が多数ある。内装や宗教画は南国風。下写真はモーレア島のマラエ(祭壇)。各島にマラエが残されており、この場所が、かつてはそれぞれの部族の中心地だったことを今に伝える。祈りの歴史に思いを馳せたい。
協力/エア タヒチ ヌイ・タヒチ観光局











