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夏の暑い盛り、涼をとる食べ物といって思い出すのは、氷菓。今でこそ、ソフトクリームやジェラート、シャーベットなど様々な種類がありますが、調べてみたところ、平安時代から氷を食べる習慣があったようです。

詳しいお話を下鴨神社の境内にある甘味処『さるや』で「鴨の氷室の氷」を販売しておられる『茶寮宝泉』の店主・古田泰久さんにお聞きしました。

【京の花 歳時記】では、「花と食」、「花と宿」をテーマに、季節の花と和食、京菓子、宿との関わりを一年を通じて追っていく、『茶寮宝泉』、『菊乃井 本店』、『柊家』のリレー連載です。第28回は、『茶寮宝泉』の姉妹店『下鴨神社 さるや』の花と京菓子をご紹介します。

「鴨の氷室の氷」ができるまで

下鴨神社の境内にある『さるや』でかき氷を販売するようになった経緯は、どのようなものだったのでしょうか?

「清少納言の『枕草子』に『けずりひ(削り氷)にあまづら(甘葛)入れて』という表記があるのはご存知ですか? この文言を読むと、日本人は平安時代から削った氷に甘い汁をかけて食べていたことがわかります。また、御所においては氷を作る省(主水司<しゅすいし>)があったと言います。

このほかにも、貴族は水飯を食していたとの記録も残っています。水飯とは、ご飯に冷水をかけたもの。水を味わいながらご飯を楽しむ食文化です。日本は名水百選に代表されるように、冷たくて美味しい水資源が豊富な国。和菓子でも、水ようかん、水まんじゅう、くずきりなど水を味わう食べ物はいくつもあります。その代表とも言えるのが、かき氷でしょう。

平安時代、洛中洛外には6箇所の氷室(氷を保管する場所)があったと言います。2022年、その氷室の一つを下鴨神社が境内に復活させました。

下鴨神社の氷室。神饌を保管するための冷暗所。氷室で残った氷は貴重だったため、高貴な人たちが刃物で削って食べていたのではないか、という説がある。

このところの京都の夏は、40度に迫る日もあり酷暑です。暑い中をご参拝いただく方に涼をとっていただきたいと思い、『鴨の氷室の氷』を2011年からご提供するようになりました」と古田さん。

『茶寮宝泉』・『下鴨神社 さるや』の店主・古田泰久さん。

平安時代、庶民が氷を口にすることはなかったと言います。京都には「水無月」という生菓子がありますが、これは氷を見立ててできたものなのだとか。そう言われてみると確かに、氷を連想させます。

水無月

氷への思い入れ

数年前から、かき氷が人気を集めています。注目されているのは、フワフワとした、見た目にも柔らかいかき氷。口に入れれば、一瞬のうちに溶けます。そうした傾向からすると、『さるや』の「鴨の氷室の氷」は一味違ったものです。

「『鴨の氷室の氷』で使う氷は、納品されたものをそのまま使わずに、零下20度のフリーザーで一定期間保存し、硬くなったところで使用いたします。立方体の氷を鋭利な刃を持つかき氷機で削り出すと、微粒子状の氷になります。それは、あたかもパウダースノーのようです。

硬い氷を削る刃は、2・3日に1度交換する。

『さるや』は外との仕切りがない店舗ですから、外気がそのまま入ってきます。そのため、柔らかい氷であるとすぐに溶けてしまいますから、固い氷を使用しています。

このかき氷の楽しみ方は、蜜をかける前に一匙、氷をすくって口の中に含んでいただき、氷の冷たさと口の中で溶けた水を味わってみてください。その後、蜜をかけると、蜜の旨みがより味わってもらえると思いますよ。蜜はいちご、抹茶小豆、黒蜜白玉の3種をご用意しております」

糺の森で盛夏に咲く花

下鴨神社の糺の森(ただすのもり)は、小川が流れ、木々に覆われているため、涼を取るには絶好の場所です。夏の盛りであっても、小川や林の中に目を向けると野花が咲いています。

薮茗荷
白色の小さな花が愛らしい、薮茗荷(やぶみょうが)。
葉がミョウガと似ているため、この名がついている。花は、9月頃まで見られる。
三角形の小さな花を咲かせる、常盤露草(ときわつゆくさ)。

神社の境内には、早くも秋を感じさせるような萩の花も小さく咲いているのを見つけることができました。

萩の小さな蕾が可愛らしい。

糺の森は市街地でありながら、木々が生い茂り、自然の涼が得られます。他の観光地と比べると、体感温度的には2、3度低く感じられるかもしれません。ぜひ、お立ち寄りになってみてはいかがでしょうか?

***

年々暑さが増す、日本の夏。世界的にも、2023年7月の世界の平均気温は観測史上最高となりました。数年後には、それが常態化するという予測も出ています。そんな世の中になると、空調の効いた屋内で過ごすことが多くなってしまいますね。

やはり、自然の中で涼を取る機会を大切にしたいものです。そうした意味では、暑い夏を乗り切る知恵を先人から学ぶことは大いにあるのかもしれません。例えば、早起きをして仕事をするとか、木陰の中を散策する、小川に足を浸して川遊びを楽しむなど、一昔前の夏の過ごし方を取り入れてみてはいかがでしょうか?

「茶寮宝泉」

住所:京都市左京区下鴨西高木町25
電話:075-712-1270
営業時間:10時~17時(ラストオーダー16時30分)
定休日:水曜日・木曜日(※定休日は月により変更となる場合あり、年末年始休業あり)
HP:https://housendo.com 
インスタグラム:https://instagram.com/housendo.kyoto

『茶寮宝泉』撮影/西村美羽
構成/末原美裕(京都メディアライン HP:https://kyotomedialine.com Facebook
※本取材は2023年7月19日に行なったものです。

 

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