1月の異称「睦月」は、親しい人たちと互いに往来して睦まじくすることから、「睦まし月」、略して「睦月」となったという説があります(諸説あり)。
京都では、元旦に歳旦祭が執り行なわれ、五穀豊穣を願い、新しい年を迎えます。10日には十日ゑびす大祭で商売繁盛を祈願し、15日には御粥祭で小豆粥を食し邪気を祓います。こうして年始から神仏や季節の風物詩とも親しくするところに、京都らしさがあるのかもしれません。
【京の花 歳時記】では、「花と食」、「花と宿」をテーマに、季節の花と和食、京菓子、宿との関わりを一年を通じて追っていく、『茶寮宝泉』、『菊乃井 本店』、『柊家』のリレー連載です。第7回は、京都・下鴨にある『茶寮宝泉』の花と京菓子をご紹介します。
今月は、「蝋梅(ろうばい)」と「松の雪」です。冬空の下で甘い香りをさせる花と、新年を迎えた1月にふさわしい京菓子をご紹介します。
◆京菓子「松の雪」ができるまで
『茶寮宝泉』の京菓子「松の雪」が表すのは、万緑の松に雪が積もった姿。厳寒でも緑を保つ松は、古来より神聖な木として捉えられてきました。その考え方が今も息づいている具体例としては、門松を立てて、歳神様(としがみさま)を迎えることが挙げられます。
京菓子「松の雪」の材料と作り方について、店主の古田泰久さんに詳しいお話をお聞きしました。
「『松の雪』を作るために使用する材料は、白餡(あん)と粒餡、丹波大納言小豆と氷餅です。
柔らかめに炊いた白餡を緑色に染めて、粗目の裏ごしでそぼろを作ります。そのそぼろを粒餡で作った餡玉に丁寧につけていきます。その上に丹波大納言小豆を2粒載せ、雪に見立てた氷餅を散らしたら完成です。
禅語でも『松無古今色(まつにここんのいろなし)』というように、松の葉は常に青々として、時代を経ても不変です。その松にあやかり、無病息災の願いを込めて作っています」と古田さん。
◆「松の雪」で使われている、白小豆の秘話
「松の雪」を一口食すと、餡の控えめな甘さと瑞々しい食感に驚かされます。その秘密を店主にうかがいました。
「瑞々しさを感じていただけた理由は、白小豆(しろしょうず)を使っているためでしょう。白小豆は、ほんのりとした甘さがありますが、基本的に無味無臭。自然界で例えるなら、空気や水のような存在です。
雑味がなく透き通るような食感の白小豆は、新年を清々しいものにしてくれます。手亡豆(てぼまめ)とともに炊き上げれば真っ白に仕上がり、美しさと華やかさも兼ね備えます。
白小豆は別名・備中白小豆ともいい、岡山県の備中発祥の白あずきです。当店も岡山県産の白小豆を使用しています。白小豆は、他のあずきに比べて種子が小さく、気候に左右されやすいため栽培が難しいことから、現在では希少な豆になっています。
白小豆を使った『松の雪』は、お正月らしいおめでたさとともに、新たな気持ちを湧き起こさせてくれる京菓子だと思います」と店主。
◆睦月のおもてなしの花
床の間には、睦月のおもてなしの花が生けられます。いつも『茶寮宝泉』の花を生けておられる古田由紀子さんに、今回の花の種類についてお聞きしました。
「今日のお花の中心は、蝋梅(ろうばい)です。蝋月(旧暦の12月)に花を開き、香りが梅に似ていることに由来した名だと言われています。
可憐な黄色い花は、甘い香りで周囲を包みます。蝋梅が手に入らない時は、家で育てたものを持ってきて生けていた時期もありました。
周りを彩るのは、雪中花と呼ばれるほど寒さに強い水仙と、白い花を咲かせる白玉椿(しらたまつばき)です。
花器は、お正月にしか使えない青竹を選びました。新年は、お庭の結界や中庭の蹲踞(つくばい)など、すべての竹を新しいものに変えてお客様をお出迎えいたします」
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松の内は一般的に1月1日から7日までと言われていますが、京都の松の内は15日までです。これは、かつて松の内が1月15日の小正月までとされていた風習が根強く残っているためだとか。
それまでの間、京都の街は新年を寿ぐ正月飾りに彩られます。新年を迎えた京都で、吉祥の願いが込められた京菓子をいただきながら、友人やご家族と仲睦まじく一年を始められるのはいかがでしょうか。
「茶寮宝泉」
住所:京都市左京区下鴨西高木町25
電話:075-712-1270
営業時間:10時~17時(ラストオーダー16時30分)
定休日:水曜日・木曜日(※定休日は月により変更となる場合あり、年末年始休業あり)
HP:https://housendo.com
インスタグラム:https://instagram.com/housendo.kyoto
『茶寮宝泉』撮影/梅田彩華
構成/末原美裕(京都メディアライン HP:https://kyotomedialine.com Facebook)
※本取材は2022年12月18日に行なったものです。