暮らしを豊かに、私らしく

弥生の行事といえば、五節句(人日、上巳、端午、七夕、重陽)の一つである「上巳(じょうし)の節句」が挙げられます。「雛祭り」と呼ばれ現在では女の子の健康や幸せを願う行事として、すっかり定着しています。しかし、本来は心身の穢れを洗い流す儀式の日でした。平安時代、紙や藁で形代(かたしろ)を作り、災いを払う身代わりとして水に流していたのです。

『源氏物語』にも「弥生の朔日に出で来たる巳の日(中略)陰陽師召して祓へさせたまふ。舟にことことしき人形乗せて流すを見たまふに」との記述がなされています。それが、貴族の女児が人形で遊ぶ雛遊び(ひいなあそび)と結びつき、今の「雛祭り」の原型となったそうです。

現在でも、下鴨神社では桟俵(さんだわら)に乗せた雛人形をみたらし川に流し、子供たちの無病息災を祈る古式ゆかしい神事「流し雛」を体験することができます。

【京の花 歳時記】では、「花と食」、「花と宿」をテーマに、季節の花と和食、京菓子、宿との関わりを一年を通じて追っていく、『茶寮宝泉』、『菊乃井 本店』、『柊家』のリレー連載です。第13回は、京都・下鴨にある『茶寮宝泉』の花と京菓子をご紹介します。

住宅事情や少子化の影響により何段もあるような雛飾りをするご家庭は少なくなってきましたが、桃の節句が近づくと雛あられや雛人形を模したお菓子などが多く出回ります。

今回は、お雛さまを形どった和三盆と桃の花をご紹介いたします。

◆和三盆の「お雛さま」ができるまで

『茶寮宝泉』の「貝あそび」は、有平糖でできた巻き貝や桜貝、鞠、雲錦の巻き寿司、和三盆の押し物のお雛さまなどが、蛤型の容器に詰められています。その中の一つである、愛らしい意匠のお雛さまの和三盆は、飽きずに見てしまう魅力があります。材料と作り方について、店主の古田泰久さんに詳しいお話をお聞きしました。

「吉野葛を繋ぎとして、着色した和三盆糖に混ぜ合わせます。当店の和三盆糖は独特の香りや口溶けのよさから、徳島県産のものを使っています。

すり混ぜるとき、揉み加減や押し具合が肝要です。水分量を手で感じながら、食したときに口の中ですっと溶けるように調節します。

その後、木型に詰めて平らにします。トントンと木型を打ち、取り出したら完成です」

木型に和三盆を詰める様子。
木型をたたいて取り出す。
和三盆のお雛さまの完成。

◆菓子屋の宝物、桜の木型

落雁(らくがん)や和三盆などの干菓子は、木型を使って形作られます。お菓子を作るのに必要な道具として、古くから大切に扱われています。木型について、詳しいお話をお聞きしました。

「木型は、季節ごとの干菓子を作る道具としてなくてはならないものです。梅や桜、菊、もみじなど、同じ模様がひとつの型の中に精緻に彫り込まれています。

落雁は別名・打ち菓子とも呼ばれるように、木型に押し付けて振動を与え型から出すお菓子です。どんなに美しい模様が彫られていようと、たたいたら損傷するようでは木型として使えません。したがって、加工に適しており、耐久性にも優れた桜の木が木型にはよく用いられます。

古くから伝わる木型もありますが、どんなに強い木型でも摩耗すると形が崩れ、お役御免となる時がきます。しかしながら、現在では木型を作る職人も減り、全国でも数人しかおられなくなりました……。

木の持つ特性に勝るものはないと感じているので、これからも大切に使っていきたいですね」と店主。

干菓子を作り終えた後の木型は、形が変わらないよう水分を丁寧に拭き取られ、気遣いながら保管されていました。「木型は菓子屋にとっては命と言っても過言ではないので、大切にせなあかんね」と古田さんは言います。

◆弥生のおもてなしの花

床の間には、弥生のおもてなしの花が生けられます。『茶寮宝泉』の花を生けておられる古田圭子さんに、今回の花の種類についてお聞きしました。

「今日のお花の中心は、桃です。桃の花を『上巳の節句』に飾るようになったのは、平安時代からだと言われています。『桃の節句』とも呼ばれるように、桃の花との結びつきが強いことがわかります。旧暦の3月初めは新暦の4月中旬ですから、ちょうど桃が花を咲かせる季節であったのでしょう。

よく『桜伐る馬鹿、梅伐らぬ馬鹿』と言われますが、桃はこの時期に剪定をするので、生け花の素材としても好まれます。

突っ立っているような枝ぶりをした桃なので、真っ直ぐに入れました。菜の花はお日様めがけて自由に咲いているので、その取り合わせが楽しいですね」

床の間で花を生ける、古田圭子さん。

***

和三盆のお雛さまを始め、有平糖の毬や巻き貝が入った『茶寮宝泉』の「貝あそび」は、例年雛祭りを待たずに品薄になってしまうそうです。そうしたことから、いかに多くの方が春を心待ちにしているかが見てとれます。

「茶寮宝泉」

住所:京都市左京区下鴨西高木町25
電話:075-712-1270
営業時間:10時~17時(ラストオーダー16時30分)
定休日:水曜日・木曜日(※定休日は月により変更となる場合あり、年末年始休業あり)
HP:https://housendo.com
インスタグラム:https://instagram.com/housendo.kyoto

『茶寮宝泉』撮影/西村美羽
構成/末原美裕(京都メディアライン HP:https://kyotomedialine.com Facebook
※本取材は2023年2月21日に行なったものです。

 

関連記事

花人日和 Online Store

花人日和
花人日和の通販

暮らしが華やぐアイテム満載

ランキング

人気のキーワード

ピックアップ

サライプレミアム倶楽部

最新記事のお知らせ、イベント、読者企画、豪華プレゼントなどへの応募情報をお届けします。

公式SNS

公式SNSで最新情報を配信中!

  • Instagram
  • LINE
おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店