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申餅とお茶。
折敷きに葵盆と懐紙をひき、申餅を2つ、くぼ手茶碗に入ったお茶がつく。葵盆は古くから神社に伝わるお皿の役目を果たす。くぼ手茶碗は、手水の手のひらを表し、湯呑茶碗の原型だと言われている。

日本各地には、和菓子、洋菓子を問わずお菓子を生業とする数多のお店があります。それぞれの職人たちは日々、創意工夫を凝らし新しいお菓子を世に送り出してきました。しかしながら、顧客に長く愛され、親しまれるお菓子となるとその数は限られます。

長く和菓子業界を見、自らも新しい商品を生み出してきた『茶寮宝泉』の店主・古田泰久さんに140年ぶりの菓子復元にいたるまでの経緯とその難しさをお聞きしました。

【京の花 歳時記】では、「花と食」、「花と宿」をテーマに、季節の花と和食、京菓子、宿との関わりを一年を通じて追っていく、『茶寮宝泉』、『菊乃井 本店』、『柊家』のリレー連載です。第22回は、『茶寮宝泉』の姉妹店『下鴨神社 さるや』の花と京菓子をご紹介します。

『茶寮宝泉』・『下鴨神社 さるや』の店主・古田泰久さん

◆下鴨神社の名物、さるやの申餅の由来

下鴨神社 さるや

“さるや”という店名は、どこかユーモラスな感じがいたしますが、何か由来があってのことなのでしょうか?

「下鴨神社と“さる”に一体どんな関係があるのか、不思議に思われますよね。“さるや”という名前は、江戸時代に発行された『出来斎京土産(できさいきょうみやげ)』という書物に見られます。この本は、当時の京都を観光する人々がガイドブックのように参考にしたものだったそうです。そこには、下鴨神社の境内に“さるや”という団子屋があり、申餅を商っていたという記録がございます。

『出来斎京土産巻之五』

そこで、下鴨神社宮司の新木直人様に江戸時代の“さるや”と“申餅”について、お尋ねしてみました。

すると新木様から『下鴨神社の神事・賀茂祭が行なわれている前日の申の日に、餅を神前に供えています。その神事が起こりとなって、境内に“さるや”が生まれ、“申餅”が売られていたんでしょう。その申餅を復活できれば、神社の歴史とともに伝わってきた食についても多くの方たちに知ってもらうことができ、喜ばれるかもしれませんね』というお話がありました。

そのときのお話がきっかけとなり、“さるや”と“申餅”を復元することとなりました」と古田さん。

◆いにしえ人の労苦と知恵と工夫の謎解き

「『いうは易く、行なうは難し』と申しますが、申餅を復元するにしても、手がかりはほとんどありませんでした。唯一の手がかりとなったのは、代々の宮司が口伝してきた申の日に神前に供えていた餅の製法のみ。

例え神饌としての製法がわかったとしても、それが直ちに商品になるわけではありませんよね。商品にするには、素材の吟味、意匠など様々考えなければなりません。中でも、私が最も大切に思ったことは当時の製法で作った申餅にどこまで近づけるかでした。

当時の申餅は素朴な作り方で、素材の旨みを損なわず心のこもった下鴨神社の名物でした。140年間途絶えていた素朴な本物を復元することは並大抵のことではなく、大変難しいことでした」

古書を読み込む、古田さん。

神との繋がりを大切にした意匠の考案

「神事に使用される餅を由来とする和菓子であるならば、神々の信仰に基づくしきたりや由来を重んじる必要があります。

口伝された申餅の色は“はねず色”だと言われています。“はねず色”とは、明け方の一瞬、空が薄茜色に染まる様子のことで、命の生まれる瞬間を表す色だと解釈されています。古来から伝わる色合いは、小豆の茹で汁で再現しました。着色ではなく、自然素材の邪気を祓う色です。

そして、大きさは高貴な方々が上品に食す姿を思い浮かべ、一寸(約3cm)としました。中には、吉兆とされる7粒の小豆を忍ばせています。試行錯誤の末、やっと今の姿になりました(笑)。

申餅の復元を通して、いにしえ人の労苦と知恵と工夫を知ることができました。このことから、現代の菓子作りにおいても手間暇を惜しまず、真面目に作ることが大切なのだと改めて深く考える機会となりました」と古田さん。

申餅

◆糺の森でこの季節に咲く花

『下鴨神社 さるや』は、紀元前からの歴史を持つ糺の森(ただすのもり)に囲まれているので、常に野にある花を愛でることができます。花を生ける方々が一様におっしゃるのは「野にある花に勝るものはない」ということ。そうしたことから、花を生けるときには“野にあるように、自然に”の教えを心がけておられるそうです。

その生け花の心得からいたしますと『下鴨神社 さるや』は、紀元前からの歴史を持つ糺の森に囲まれているので、常に野にある花を愛でることができます。

この季節に咲く花をご紹介いたしましょう。

夏に白い花を咲かせる、茉莉花(まつりか)。
淡い紅紫色が目を引く、紫片喰(むらさきかたばみ)。
白い五弁花を集まって咲かせる、姫空木(ひめうつぎ)。

『下鴨神社 さるや』を訪れた際には、ぜひ糺の森を散策して季節の草花を楽しんでください。

***

「申餅と“さるや”を復元してから、およそ15年が経ちます。やっと皆さんに名物として認知されてきたのかなと思うと、当時のことが思い出され感慨深いです」とにっこりされる古田さん。

申餅の復元を契機に、その後も古書を紐解き古代菓子の復元に取り組んでおられるそうです。その中の1品である「御ふきあげ」をいただきました。その一粒を口に含んでみると、やがて茹でた餅のように柔らかくなり、ゆっくりと優しく溶けます。こうした昔からの製法に基づくお菓子は、心に深い印象を残すとともに、安心して食すことのできる食品だと思いました。

下鴨神社の社務所で販売される、「包みの御料」。手前が、御ふきあげ。

「茶寮宝泉」

住所:京都市左京区下鴨西高木町25
電話:075-712-1270
営業時間:10時~17時(ラストオーダー16時30分)
定休日:水曜日・木曜日(※定休日は月により変更となる場合あり、年末年始休業あり)
HP:https://housendo.com 
インスタグラム:https://instagram.com/housendo.kyoto

『茶寮宝泉』撮影/西村美羽
構成/末原美裕(京都メディアライン HP:https://kyotomedialine.com Facebook
※本取材は2023年5月22日に行なったものです。

 

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