文/鈴木拓也
高齢ドライバーが引き起こす3大事故要因の「ブレーキとアクセルの踏み間違い」、「高速道路での逆走」、「交差点での衝突」。連日のように報道される、高齢者がからむ交通事故の多くは、この要因のどれかが当てはまる。
ところで、もしもあなたが、あやうくペダルの踏み間違いや逆走をしそうになったら、免許返納を考えるべきなのだろうか?
結論から言えば、認知機能に問題がないのなら、免許返納すべきか悩む前に対策はいいろいろと講じられる。今回は、そうした対策を網羅した書籍『【図解】「ペダルの踏み間違い」はこれで防ぐ』から、ペダル踏み間違いの予防策を紹介したい。
■クリープ運転のすすめ
統計的にみて、ペダルの踏み間違い事故が圧倒的に多いのが駐車場だという。狭いエリアを人や車が頻繁に行き来するからだが、オートマチック車なら、クリープ現象を利用してアクセルを踏まない「クリープ運転」がすすめられている。
オートマチック車のセレクトレバーを「D」に入れ、サイドブレーキを解除し、ブレーキペダルの上にある足を完全にゆるめたとき、車は時速5キロほどのスピードで前に進みます。エンジンをかけたばかりのときは、想像以上に動く場合もあるので、逆にびっくりしてしまう人もいるかもしれません。これだけのスピードが出るのですから、駐車場はこれで十分。アクセルは不要でしょう。(本書028pより)
確かに、駐車場は平坦なところにあるし、常に急停止できるよう徐行運転が必須なので、ブレーキペダルのみを踏んだり、緩めたりの操作だけで運転するのは理にかなっている。本書では、交差点内への進入時や渋滞時でのクリープ運転についても言及されている。
■高齢ドライバーが注意すべき足の位置ずれ
クリープ運転を励行したとしても、1点注意すべきことがあるという。それは、足の位置がずれること。
高齢ドライバーの多くは、股関節の可動域が小さく固くなっているが、これだと後方確認で右側に上体をひねったときに股関節がつられて動いてしまう。すると、ブレーキペダルにかけていた右足がずれて、アクセルペダルに乗ってしまうリスクがあるという。
まず、そういうリスクがあると意識するのが大事。さらに本書では、「股関節ぐるぐる体操」「ペダルステップ体操」といった、股関節の柔軟性を高めて足の位置ずれを予防するエクササイズも掲載されている。椅子に座りながらできる簡単なものなので、心配な方はやってみるとよいだろう。
■高齢ドライバーの最大の敵とは?
本書の視点の1つに、高齢ドライバーの問題は身体の機能低下によるものより「慣れ」の方が大きいというのがある。
この交差点はいつも車が来ないから大丈夫。同じ運転をしてきて何十年も事故を起こしていないのだから大丈夫。などと、今までたまたま続いてきた「不完全な成功体験」に「慣れ」てしまい、信号無視や一時停止無視などの「悪い習慣」を身につけてしまっている高齢者がいらっしゃいます。(本書089pより)
この慣れを、本書は「運転がん」と呼んでおり、高齢ドライバーの最大の敵だとする。
さいわいにも、病気のがんと違って「運転がん」を治すのに入院も手術も要らない。良い運転習慣へと切り替えていけばよいのだ。本書には、そのための5か条が記されている。例えば「いつもの道こそ気をつけよう」。高齢ドライバーの場合、初めて走る道路より、走り慣れた道路での方が交通事故を起こしやすい。これは、「これまで大丈夫だったから今日も大丈夫」という「運転がん」に典型の症状。「いつもの道こそ、ささいな変化も見逃さずに運転」するようアドバイスがある。
そして、「身体を鍛えよう」。高齢者でも筋トレによって筋力をつけることができ、それが基礎代謝の向上、血流の改善にもつながり、運転のパフォーマンス向上に寄与し、運転寿命も延びる。具体的なやり方の1つとして「自分で洗車」することが推奨されているが、これには車の細かなこすり傷に気付く、車に愛着を持てるなどの効用もある。
* * *
書名には「ペダルの踏み間違い」とあるが、高速道路の逆走ならびに交差点での衝突の対策や視力低下の補い方など、高齢ドライバーが直面する問題への解法が網羅された充実の内容だ。末永く安全運転を続けたいと願うシニアなら、目を通す価値は大きい。
【今日の健康に良い1冊】
『【図解】「ペダルの踏み間違い」はこれで防ぐ』
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000324667
(NPO法人 高齢者安全運転支援研究会監修、本体980円+税、講談社)
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。