暮らしを豊かに、私らしく

成長を見守り、収穫を楽しめる春の樹木たち

春の暖かい日差しとともに、花屋さんの店先も華やかさで賑わってきます。切花も種類が多くなり、花色が増え、自宅用か送別用か、それとも卒業関連かな?……などと思いを巡らせてしまうのは、仕事柄でしょうか。いろいろな植物が出揃う時期なので、足を止めて眺めてみるのが面白い季節です。

鉢物も春ならではの植物の流通が始まります。たとえば目をひくのが、春に花が咲く花木(かぼく)。ハナモモや、リンゴの苗木に、ミモザなど、名前を知っていても見たことがないなという人も多いはず。リンゴの花を見ると、「赤毛のアンが見て感動した花はこれか!」と思ったり、ハナモモの花は「ピンクや白が乙女心をくすぐる色だな」と眺めたり。 ミモザの花は、「お菓子の“ミモザ”の見た目通りの花だったのか!」など、いろいろな驚きがあります。

また、花より団子派の方の目を楽しませてくれるのが、ブラックベリーやラズベリーの木をはじめ、ブドウや柑橘類の果樹類です。果樹も花が咲いた状態で流通が始まります。実がなるものを愛でるなんて、豊かな気持ちになりますし、収穫できる楽しみもあり、ついつい獲物を見つけたような眼差しになってしまう自分に気づきます。柑橘類には、小さな花から始まり、年末の頃に実が色をつけるまでの壮大なストーリーがあります。「こんなに⻑く時間をかけていたなんて……」と思うと、途中で応援したくなる気持ちが芽生えます。月日とともに、見たことのある形まで変化する面白さは、果樹ならではのものではないでしょうか。

花が主役の樹木は寄せ植えをすれば、大きな庭の一部を切り取ったような雰囲気を楽しむことができますし、収穫まで楽しめる果樹は、変化し成⻑する楽しみが味わえるのでおすすめです。

寄せ植えなら、コンパクトに育てられる

「大きくなるんでしょう?」と心配に思う方もいらっしゃるかと思いますが、大丈夫。「大きくしなければいい」のです。樹木を大きくするには、根を育て、枝葉を育て……とプロセスが必要になります。根が育たなければ枝葉も増えず、現状維持ができるので、バルコニーでも玄関先でも庭のテラスでも、どこでもコンパクトに仕立てて鉢栽培することが可能です。コンパクトにするポイントは、寄せ植えにすること。果樹や花木の株下に1年草と言われる草花を一緒に植え付けます。直径30センチぐらいのバケツ型の植木鉢であれば、一緒に寄せ植えする1年草は2、3ポットの苗で十分。これからの季節に⻑く楽しめる種類の草花をおすすめします。

春の花木は桜の木と同じく、開花期間の短い種類が多いので、新緑の頃から下草の1年草で彩りを作る計画で草花を選ぶと良いでしょう。たとえば、夏を乗り越え、秋口まで⻑く鑑賞できるペチュニアの類は、梅雨入り前までに植えておくと丈夫になり、枝数も多く楽しむことができます。玄関前に配置してシンボルツリーの寄せ植えにしてもよし、ウエルカムコンテナのように季節に合わせた花色で彩ることも可能です。花木の季節の表情を暮しの景色に取り入れ、衣替えを楽しむように植え替えれば、鉢栽培でも庭のような雰囲気を楽しむことができます。

また、ブドウやブラックベリーなどのツル性の果樹は、竹の支柱などで円錐形の骨組みを作り、らせん状に誘引していけば、場所を取らず縦にスッキリと飾ることができます。伸びたら、余分なツルを切り、誘引を繰り返します。ブドウの花は、こんなに小さいのかと思うほどのサイズです。夜になると、ほんのりブドウの香りを楽しむことができます。最近では、食用のブドウの他に、ワイン用のブドウの鉢も流通し始めました。気分はまるでワイナリーのオーナー。そんな遊び心と夢を持って栽培するのも楽しいです。

円錐形に仕立てたブドウの鉢の株下に夏の暑さを好むペチュニアを寄せ植えに。加湿が嫌いなペチュニアが元気に育つ組み合わせ。
コプロスマのスタンダード仕立てです。花が目立たない常緑低木ですが、株下が幹だけになっていると草花も合わせやすく、小さな自然観を楽しめます。

寄せ植えのポイントは、株下に草花を植えるひと手間

同じくツル性で栽培ができるブラックベリーの花は、イチゴの花のような形でとても親近感を感じられます。実がなれば、あとは食べごろを待つだけ。真っ黑になって少し果肉が柔らかくなったら食べごろです。育てながら熟した果実は、甘くて果汁もたっぷり。食べ応えのある甘さや果汁が楽しめるのは、育てた人の特権です。フェンスにツルを這わせて壁面で楽しむことも、タワーにして楽しむことも、置き場所に応じて仕立て方が楽しめるのも、ツル性果樹の面白いところです。葉の紅葉まで見終わったら、落葉した冬に今年伸びた枝を切って来年伸びる枝を育てます。新しく伸びた枝に花が咲き、実がなるので、思い切って剪定して肥料をたっぷり施したら、あとは春の新芽の頃まで見守るだけ。冬になれば、寒さに強い1年草に植え替えて水やりを忘れないようにし、落葉した冬景色を楽しむように寄せ植えで管理をするとよいでしょう。

ブラックベリーは支柱を四角に組んで、角柱のようにし、そこにツルを絡ませて仕立てます。 暑さを好むマリーゴールドは土の中の害虫避けもかねて。 葉色を果実の色に合わせてモダンな寄せ植えで。

樹木の株下に1年草を寄せ植えすることで、花木や果樹の根を適度に切ることになります。 この「切る」作業が、樹をコンパクトにするポイントです。根が伸びたら適度に切る……を繰り返すことで、いつまでも伸びたり戻ったりを繰り返し、その分枝葉もたくさん伸びずに済むという仕掛け。樹木は大きくなったら困る……という方は、株下に草花を植えて大きくしないというひと手間をぜひかけてみてください。

「びっくりグミ」の鉢植えをプレクトランサスと寄せ植えで。
植木鉢もバスケットなどにすれば、印象が和らぎます。

育てやすい品種も増加中! 樹のある暮らしを楽しもう

また、「寄せ植えは面倒くさいな……」という時には、草花のように扱える低木類がおすすめです。最近は、草花っぽいしなやかな枝ぶりの樹種が増え、扱いやすさが魅力的な植物が出てきています。ノリウツギという植物は、コンパクトで栽培可能な品種が登場したり、新しく伸びた枝に花が咲くなど、大きくならない工夫がつまった園芸品種のものが増えました。

ノリウツギ・ユキチェリーブロッサム。
ギョウリュウバイとドドネア。どちらも年間葉が落ちない常緑低木。ギョリュウバイの花は梅の花を小さくした感じ。ピンク、薄いピンク、赤のラインナップに花びらの数が多い八重咲も充実。八重咲は花持ちがよいのでお得感があります。

暮らしの景色に溶け込みやすい楽しみ方を引き出せる花木。家族の記念や収穫を楽しむなど、 さまざまな理由を背景にしながら樹のある暮らしを楽しんでみてはいかがでしょうか。気候の変化によるものだけではなく、やっぱり草花にはない力強い魅力が樹木にはあると思います。花を愛でるか、団子を取るか……悩みが尽きない春の楽しみです。

おまけの話

斑入りのブドウは、苔玉にして楽しむのもおすすめです。緩やかな枝ぶりが生花のような雰囲気もあり、モダンな飾り方が楽しめます。鉢から抜いたら根を包むように水苔で覆い、絹糸か綿糸で糸玉のように巻きます。巻く時に糸で丸く形を調整しておしまい。水切れしないように、水がこぼれない容器や受け皿などにのせて管理をしてください。

撮影協力/花のワルツ

杉井 志織(すぎい・しおり)
1972年生まれ、埼玉県出身。建築の専門学校を卒業後、フラワースクールで植物の生態やアレンジメント、花屋運営のノウハウなどを学ぶ。現在は、ガーデニングや花壇ボランティア運営の指導、イベント装飾、執筆活動の他、NHK『趣味の園芸』へ出演する等、各メディアで幅広く活動中。上海花卉博覧会(10th CHINA FLOWER EXPO)海外招待ガーデナー・最優秀設計賞受賞。

杉井志織さんのインタビュー記事はこちら

 

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