暮らしを豊かに、私らしく

植物を育てたり、庭いじりをしたりするガーデニングは、昔から親しまれてきた趣味のひとつですが、近ごろはコロナ禍の影響で、家で過ごす時間が増えたことをきっかけに「ガーデニングをしてみたい」と思う人が増えています。『サライ』の女性向けWEBメディア「花人日和」が行なった直近の読者アンケートでも、ガーデニングは「これからしてみたい趣味」の上位にランキングしています。

そこで「花人日和」では、園芸家の杉井志織さんに、ガーデニングの魅力やそのノウハウを教えていただく連載「心を彩るガーデニング」をスタートします。

今回は、その連載を前に杉井さんにインタビュー。園芸家になられたこれまでの道のりや、ガーデニングへの想いをお聞きしました。

園芸よりも空間演出に興味があった学生時代。思い描く店舗設計をするために学び始めた園芸

――杉井さんはこの道に入られて、今年で約四半世紀が経つと伺いました。園芸家になったきっかけは何ですか?

「じつは、当初私は園芸にはまったく興味がなくて、高校卒業後、建築の専門学校で店舗設計を学んでいたんです。当時はバブル全盛時代で、華やかなショーウインドウのディスプレイや店舗の内装などを手がける“空間演出”に興味がありました。

でも、在学中に出された課題で『学生食堂の設計』をしたことがきっかけで、植物に興味を持つようになりました。そのとき、私は緑があふれるジャングルのような食堂を作りたいと思ったのですが、植物に対する知識がないので、うまく図面に落とし込むことができませんでした。イメージするままに緑の記号を細かく描き、自分では納得のいく出来ばえの図面だったのですが、それだけでは先生に伝わらず、『緑の記号でごまかすな』と言われてしまったのです。思い描く食堂のイメージは私の頭の中には確固としてあったのに、植物の知識がないから伝えられず本当に悔しい思いをしました。というのも、私は子どものころから植物には関心がなく、小学校でトマトを育てたときも、世話をするのが面倒だと思っていたくらいだったんですよね(笑)。そのことがきっかけとなって切り花の教室に通い始めたのですが、これが園芸の世界に入る第一歩となりました」

――切り花教室では、どのようなことを学んだのでしょうか。

「講師は、1990年に大阪で開催された『国際花と緑の博覧会』の日本政府苑で、植物展示のアートディレクターを務めた松田隆作さんでした。授業では、植物を“面と線と塊(かたまり)”という構造物として捉えて造形をする生け花装飾の基本的な概念を叩き込まれました。また、“花はきれいなだけでなく腐っていく時間も大事”というような切り花の世界の奥深さも教えていただきました。現在も教室には通っているのですが、松田先生に会わなければ、植物を扱う道には進まなかったと思います。建築の専門学校を卒業した後は、『違った面から花について学んだほうがいい』という松田先生の勧めもあって、フラワーショップを養成する学校に入って学びました。その学校は、1年間で素人を一人前のフラワーショップの店主に育て上げる学校で、花の品種や扱い方、アレンジメントの仕方をはじめ、花の値段や仕入れ方、簿記や経営管理など、本当にいろいろなことを学びました」

――園芸の世界へ足を踏み込んだのは、そのあとですか。

杉井さん愛用のガーデニング・グッズ。このほか帽子や蚊よけジャケットなども重要なアイテムで常時使用している。

「フラワーショップの養成学校を卒業後、まず携わったのが、“自然を愛すること”をテーマとする鉢ものしか扱わないフラワーショップの立ち上げでした。そこで『コンテナガーデン』について学びながら、同業の先輩や市場の方々とたくさん知り合うことができました。まだ右も左もわからない状態での船出でしたが、とても楽しかったですね。当時、出会った方たちとは現在もつながっていて、私の大事な財産になっています。

そうして、開店から3~4年して店が軌道にのったころ、今度はビルの『屋上緑化』を手がける会社に誘われて、入社しました。私は元々“都市と緑”をテーマにした仕事がしたかったので、それは願ってもない転職でした。

転職先では、それまで学んできたことがすべて役立ちました。建築について学んでいたので図面が読めるし、工事の段取りもわかる。そのため、建設現場の監督さんとも対等に話ができました。また、植物の知識もあるので図面と現場とのギャップがなく試算できるのも仕事をしていく上での私の強みになったのです。

映画館の屋上に田んぼを作ったり、高層ビルの屋上にぶどう棚を作ったり……。本当にさまざまなプロジェクトに関わらせてもらいました。いま振り返っても、本当に面白かったですし、貴重な経験だったと思います」

園芸家歴25年。失敗をしても逃げずに植物たちと向き合い続けて得られたのは、“物に寄り添い、育てる”という大切な気づき

――公園管理や花壇管理など、現在のような仕事をするようになったのは、いつごろからですか。

「入社して10年が経ち、独立したのがきっかけですね。たくさんの経験をしているうちに いただいた仕事を小手先でこなしている自分に気づき、ひとつの案件にしっかり向き合いたいと思うようになったんです。また、そのころ子どもも生まれて、しばらくは育児に力を入れたいという気持ちもありました。そこで決断してフリーになったのです。すると、ありがたいことに私を指名していただける仕事がありまして、それを一つひとつコツコツとやらせていただいているうちに、徐々に現在のような仕事をお受けできるようになりました」

――具体的には、現在どんなお仕事をなさっているのでしょうか。

杉井さんが手がけている東京・日本橋観光案内所前の花壇。日本橋ではこのほかに中央通を彩るボランティアによる花壇「はな街道」の植栽監修も行なっている。

「東京・お台場の海浜公園の管理・運営や、日本橋の花壇ボランティアの運営・指導をはじめ、イベント装飾や個人宅の庭の設計・施工・管理などをさせていただいています。コンテナガーデンの教室の講師も20年近くになりますが、いまだに続いています」

――園芸家になられて25年余り。園芸に対するいまの想いを教えてください。

「この世界に入った当初は、私は自分にも植物に対しても厳しかったんですよね(笑)。花壇に植える花はしっかりと同系色でないと美しくないと思っていましたし、茎が少しでも曲がったりしてこちらの思い通りに結果が出せないとすぐに抜いてしまう(笑)。花壇のレンガもアンティーク風でないとダメだとか、その積み方も目地にカラーストーンをいれて白くしてほしいなどと言って、施工をお願いしている職人さんたちにも事細かく指示していたんです。

でも、いまは、植物にも人にもやさしくなりました。植物には『もう咲いてればいいよ』という気持ちで接しています(笑)」

――そのような心境の変化は、どのような経緯で生まれたのですか。

「歳を取って根気がなくなったからです(笑)。まあ、それは半分冗談ですが、たくさんの植物たちと向き合っていくうちに、相手は生き物だから自分の思い通りにはいかないということが分かってきたんですよね。いいパフォーマンスをしてもらうには、植物の気持ちに寄り添って手を差し伸べてあげなければいけないし、そのためにも生育環境と植物の特性や、植物に関われる時間に折り合いをつけなければならないことに気づいたのです。 それに気づく前の私はこうしなければいけないというそれまで学んだルールに囚われていて、植物のお世話はしていたけれど、育てることをしていなかったのです。お世話をしているときは、植物に無理をさせた分、無理した景色が返ってきていた気がします。

それに気づけたのは、仕事のフィールドが広がって大きな視野を持てるようになったことや、経験を積み重ねていくうちに私自身の引き出しが多くなってさまざまな試行錯誤ができるようになったことも影響していると思います。失敗をしても逃げずに取り組んできたご褒美ではないでしょうか(笑)」

失敗OK、ラクして愉しみながら、ガーデニングで日々の小さな幸せを感じてもらいたい

――杉井さんが思うガーデニングの魅力とは何ですか。

「ガーデニングは、天候も毎回違うのでその都度考えなければいけないし、失敗も多い。夏の草取りなんて『熱い最中、なんでこんなことをしなければならないんだろう』といつも思うんですよね。でも、ここで手をかけておけば、自分が思い描いた景色が見られると思うからがんばれる。満足のいく光景に仕上がったときの喜びは、例えようもありません。私にとってはそれが、ガーデニングのいちばんの魅力ですね」

――そんな杉井さんの連載が、「花人日和」でスタートします。これからどんなことを伝えていきたいですか。

「いちばん伝えたいのは『ガーデニングは失敗してもいい遊びだよ』ということですね。私たちの世代は、子どもの頃に失敗しちゃいけないと教育された世代だと思うんです。でも、失敗したからこそ次にできることがあったり、初めて出会える景色を観ることができたりするのがガーデニングなのです。そのことをぜひ読者の皆さんにお伝えしたいですね。

また、昔は入手できる植物の品種も商品数も少なかったですが、いまは新たに開発された品種が店頭に並び、その数も豊富です。知っておくと便利ないまの園芸情報をお伝えして、ラクして愉しむノウハウも知っていただけたらと思います」

――ラクして愉しむ。魅力的な響きです(笑)

「もっと大きな括りで申し上げますと、私は、いまは3種類のガーデニングがあると思うんです。それは、『自分でやるガーデニング』『買ってくるガーデニング』『見に行くガーデニング』です。『自分でやる』というのは、従来のように自身で手をかけて植物を育てたり、庭づくりを楽しむガーデニングです。でも、買ってきた植物を眺めて楽しむだけでもいいし、ガーデンセンターや公園へ行って美しい景色を眺めて心が和むのもガーデニングだと思うんですよね。

人生をみんながんばっているんですから、趣味の園芸でがんばる必要はないんですよ。心が穏やかになって日々の生活に小さな気づきや喜びが感じられる……。そんな瞬間を作れるお手伝いがこの連載でできたらいいなと思っています」

ガーデニングの魅力とともに連載への意気込みを素敵な言葉で語ってくださった杉井さん。そんな杉井さんが綴る連載第一回は、「寒くなる季節のガーデニング」がテーマ。日々の幸せを感じるガーデニングを杉井さんと一緒にどうぞお楽しみください。

杉井 志織(すぎい・しおり)

1972年生まれ、埼玉県出身。建築の専門学校を卒業後、フラワースクールで植物の生態やアレンジメント、花屋運営のノウハウなどを学ぶ。現在は、ガーデニングや花壇ボランティア運営の指導、イベント装飾、執筆活動の他、NHK『趣味の園芸』へ出演する等、各メディアで幅広く活動中。上海花卉博覧会(10 th CHINA FLOWER EXPO)海外招待ガーデナー・最優秀設計賞受賞。

取材・文/山津京子 撮影/五十嵐美弥 撮影協力/花のワルツ

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