暮らしを豊かに、私らしく

6月・9月は単衣(ひとえ)、7月・8月は薄物と衣替えの季節ですが、現在では温暖化などの影響で気候も変わり、昔と同じくするのは難しくなっています。早い方ですと、5月から単衣の装いに変わる方もいらっしゃいます。もはや暮らしの中から衣替えの明確な日は、なくなっているようです。

京都の老舗旅館・柊家では、6月1日に夏座敷への模様替えが丸1日かけて行なわれているそうです。現代ではあまり目にしなくなった網代(あじろ)が敷かれ、簾(すだれ)が下げられ、几帳や座布団などの布もの、花器なども涼しさを感じられるものへと変わります。

なぜ今も夏座敷への模様替えを続けられているのか、柊家の女将・西村明美さんにお尋ねいたしました。

【京の花 歳時記】では、季節の花と和食、京菓子、宿との関わりを一年を通じて追っていきます。第23回は、京都の市街地の中心部に宿を構える老舗旅館『柊家』の花と宿をご紹介します。

◆水無月の出迎えの花

柊家の門をくぐり、打ち水された石畳の玄関に入ると、紫陽花(あじさい)とホンハゼ、矢筈芒(やはずすすき)が出迎えてくれました。

「6月に入ると、御池通の青や白の紫陽花が一斉に咲き始めます。その御池通からお越しになったお客様に京都の町並みと柊家が自然とつながるように、玄関には紫陽花を生けました。

手まりのようにまん丸に花をつけた薄紅、薄青、薄紫の紫陽花とホンハゼを取り合わせ、涼やかさを感じていただけるよう、伸びやかな動きのある矢筈芒を添えました」と、『柊家』長女の西村 舞さんが教えてくれました。

待合には、額紫陽花が飾られていました。

「手桶に額紫陽花と紫蘭(しらん)の葉を生けました。額紫陽花は、粒ほどの小さな花の周りに装飾花をつけることから、この名がついたそうです。清楚な花のたたずまいが、落ち着いた雰囲気にしてくれます。

合わせた軸は、中村岳陵先生の『宇治之川霧』です。梅雨どきですから、水辺の軸を見ていただくことで、涼を感じていただけたらと思います」と舞さん。

◆涼しげな夏座敷、19号室

今回ご紹介いただく部屋は、旧館2階にある19号室です。

「6月1日は休館にして、夏座敷に模様替えをいたしました。以前は単衣に衣替えをする時期より少し遅れて行なっておりましたが、だんだんと温暖化する地球環境に合わせて、夏座敷にする時期も早まりました。

畳の上に籐を編んだ網代を敷き、ふすまや障子などの建具を外したところには簾を下げます。長い年月を経て使っている網代や簾は、年月の深みとともに艶が出て飴色になり、重厚感を増しています。簾越しに庭を眺めると、より涼しげに感じていただけると思います。

簾越しに眺めた庭

座椅子は籐のものに、座布団などの布ものは麻のものに替えます。昔と違って今は部屋の中はエアコンで温度を下げているため涼しいですが、部屋に入った瞬間、目に入る夏座敷の景色とひんやりとした網代の感触と目と肌でより涼しさを感じていただけます」と西村明美女将。

◆竹籠に生けられた、野あざみ

部屋の床間には、野あざみと河原撫子(かわらなでしこ)、夏櫨(なつはぜ)が生けられていました。

「野あざみは、野山の畦道などに咲いている自然のものです。人の手で育てられたものとは違う華奢な姿が愛らしく、白く繊細な花びらが涼やかさを増す河原撫子と夏櫨を取り合わせました。花器も竹籠に替え、透けや間の軽やかさから涼を感じていただけたら嬉しいですね」と舞さん。

◆水無月ならではの京都の楽しみ方

雨の日が多くなる梅雨時期の京都の楽しみ方を、女将にお聞きしました。

「京都というと蒸し暑いイメージが強いかもしれませんが、梅雨の時期は真夏の暑さに比べると、まださほど暑くはなく、“青梅雨”と呼ばれるように青葉を濡らして降る雨により、緑や苔が一層美しくなります。

京都には回遊式の庭園などがありますが、建物の中から座ってみる雨の日の庭はゆったりと気分がやわらぎます。

川端康成先生は、「梅雨時の雨を見たり、聞いたりすると遠い日本の静けさがある」と柊家の寄稿文に書いていただいております。また、チャップリンさんは雨の降る東山を見て、「山が墨絵のように美しい」と感嘆されました。京都の雨は、美意識を刺激するのかもしれませんね。

蛍の光り

6月上旬から中旬は、初夏の風物詩である蛍を見るのも楽しみの一つです。蛍は、自然豊かな里山でしかご覧いただけないように思われがちですが、京都では町中でも見ることができます。

二条の橋のみそぎ川付近や下鴨や哲学の道の疏水、大沢池などの水辺で夕涼みをしていただくと、蛍と出合えることが多いです。6月下旬以降は、貴船や高雄で源氏蛍が観賞できます。

ゆらりふわりと飛ぶ幻想的な蛍の姿が見られるのは、この時期だけの楽しみです」

***

「幼い頃、網代の上で昼寝をした時のひんやりとした感触は、今でもよく覚えています」と昔を懐かしみながらお話しされる、女将。現在では、網代を作る職人さんも少なくなり、稀少なものになりつつあるようです。

柊家の夏座敷を味わえるのは、9月初旬まで。足裏から伝わる網代の冷たい感覚と、目にも涼やかな簾越しの景色を楽しみに行かれてみてはいかがでしょうか?

「柊家」

住所:京都市中京区麩屋町姉小路上ル中白山町
電話番号:075-221-1136
チェックイン:15時
チェックアウト:11時
https://www.hiiragiya.co.jp
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撮影/坂本大貴
構成/末原美裕(京都メディアライン HP:https://kyotomedialine.com Facebook
※本取材は2023年6月5日に行なったものです。

 


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