京都の夏といえば、祇園祭。「コンコンチキチン、コンチキチン」の祇園囃子の音色が、街のあちこちから聞かれ、京の夏の情緒を感じさせてくれます。そうした時季、老舗日本旅館「柊家」ではどのように宿泊者を迎え、どのような趣向でおもてなしをしているのでしょうか?
歴史ある老舗旅館らしい「祇園祭」の楽しみ方をお聞きしました。
【京の花 歳時記】では、季節の花と和食、京菓子、宿との関わりを一年を通じて追っていきます。第26回は、京都の市街地の中心部に宿を構える老舗旅館『柊家』の花と宿をご紹介します。
◆文月の出迎えの花
玄関幕が張られた柊家の門をくぐり、打ち水された歴史の重みを感じさせる石畳の玄関に足を踏み入れると、笹竹(ささたけ)が出迎えてくれました。
「7月1日より、七夕に合わせて笹竹を飾っています。お越しいただいたお客様が、短冊に願い事をしたためて竹に吊るされます。
もともと節句は、旧暦にあわせて行なわれる行事。ですので、本来の行事の季節、8月にも飾ります。京都の街では、7月から8月中頃までの間、各所で京都主催『京の七夕2023』として、七夕にちなんだ催しが開催されていますので、楽しんでいただけます」と、『柊家』長女の西村 舞さんが教えてくれました。
待合には、檜扇(ひおうぎ)が飾られていました。
「古代、檜扇は悪霊退散のために用いられてきたことから、祇園祭ではその姿に似ているアヤメ科の檜扇を生けて飾ります。
扇状の葉が存在感のある檜扇は、曲線の美しさが際立つよう、籠に生けました。
祇園祭の期間中、京都の街の各所で檜扇を見かけると思います。いけばなでは流派によって同じ檜扇を使っても生け方が異なりますので、そうしたことを意識しながら眺めるのも楽しいですよ」と舞さん。
◆祇園祭の山鉾巡行が望める、28号室
今回ご紹介いただく部屋は、旧館2階にある28号室です。山鉾巡行の日、この部屋は宿泊者観覧のために、開放されます。
「3年ぶりに神輿渡御が行なわれ、本来の祇園祭が戻ってきます。祭を運営してくださっている町衆にとっても、格別の思いがおありだと存じます。
『祇園祭』は、八坂神社の祭礼です。平安時代半ばに悪疫退散のために、当時の国の数と同じ六十六本の鉾を立て、神輿を今の二条城辺りにあった神泉苑に渡して禊をしたのが起こりだと言われています。祇園祭の開催期間は長く、7月1日の『吉符入り』から31日の八坂神社境内の疫神社で行なわれる夏越の祓まで、ひと月にわたって行なわれます。
祇園祭というと、多くの方が前祭・後祭の『山鉾巡行』を想起されるでしょうね。その『山鉾巡行』が、この部屋からご覧いただけます。例年、鉾が通るのはお昼近く、厳しい暑さとなります。そのため、この部屋を冷やして、お客様にはゆっくりとご覧いただけるようにしています。それでも鉾の巡行の折には、通りに出て間近に見上げながら勇壮な姿を楽しんでおられるお客様もいらっしゃいます」と西村明美女将。
◆手付籠に生けられた、唐糸草
部屋の床間には、唐糸草(からいとそう)と雲仙躑躅(うんぜんつつじ)が生けられていました。
「7月は七夕の節句、乞巧奠(きこうでん)がありますので、機織り等の手芸や技芸の上達を願うことにちなみ、手付籠には唐糸草を入れました。小さな葉をつける雲仙躑躅を取り合わせています。唐糸草が持つ美しさが生かせられていれば嬉しいです。
暑い夏は、お花にとって過酷な時期です。宿の場合は、ご到着からご出発までの長い間、美しい状態を保たせる必要があります。お花が生き生きとお客様をお迎えできるよう、花器の水に氷を入れ、いつも以上に気にかけています」と舞さん。
◆祇園祭の楽しみ方
祇園祭の楽しみ方を、女将にお聞きしました。
「宵山期間中、前祭(7月14日〜16日)・後祭(7月21〜23日)、各山鉾町の町屋では格子を外し、普段は蔵に大切にしまわれている屏風や調度品などを飾る『屏風祭』が行なわれます。
先祖から受け継がれた品々と夏座敷の涼しげな風情から、祇園祭を支えてきた京都の町衆の暮らしぶりや文化を垣間見ていただけます。
前祭は山鉾巡行の数も多く、宵山には屋台が出るのですが、個人的には平成26年(2014)に元の形に復活した後祭の『屏風祭』が好きなのでおすすめしております。屋台が少ないので、ゆったりと昔ながらの鉾町の風情を感じられますので。
京都では、悠久の歴史の中で、戦や疫病流行、飢饉や近年の東京遷都や第二次世界大戦など、幾たびの困難を町衆が結束して乗り越えてきました。今回の長いコロナ禍も、やっと明かりが見えた感じがいたします。祈りの祭礼である祇園祭に接すると、特にそうした京都の心と力が伝わってくると思います」
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今年の祇園祭では、海外の富裕層向けに40万円のプレミアム観覧席が84席も設けられたことが話題となりました。このことは、祇園祭が高額な費用を出してでも“間近で観てみたい!”と思わせるほど、価値あるお祭りであることを表しています。それほどの祇園祭を、200年もの歴史を持つ老舗旅館「柊家」の一室から眺められることは、プレミアム観覧席以上の価値があるように感じられました。
「柊家」
住所:京都市中京区麩屋町姉小路上ル中白山町
電話番号:075-221-1136
チェックイン:15時
チェックアウト:11時
https://www.hiiragiya.co.jp
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撮影/坂本大貴
構成/末原美裕(京都メディアライン HP:https://kyotomedialine.com Facebook)
※本取材は2023年7月2日に行なったものです。