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休館中の国立西洋美術館の内部にカメラが潜入! 知られざる実態に迫ったドキュメンタリー

映画館や劇場、そして美術館に多くの人が集える日常が戻ってきました。映画や演劇、美術などは鑑賞し始めると興味が尽きませんが、一度、足が遠のくとつい腰が重くなってしまうことも。しかし、足を運んで実際に体験することで、さまざまな感覚が刺激されます。

『わたしたちの国立西洋美術館 奇跡のコレクションの舞台裏』は2020年10月から22年4月にかけて約1年半、工事休館していた国立西洋美術館に密着取材したドキュメンタリー。普段、私たちの見ることのできない美術館の内部にカメラが入り、知られざる実態を目の当たりにすることで、これまでとはまるで違った目線で美術館に親しめるようになります。

――2016年、世界的建築家ル・コルビュジエの建築作品のひとつとして世界遺産に登録された、日本を代表する美術館、国立西洋美術館。ル・コルビュジエによる当初の前庭の設計意図が正しく伝わるように、1959年開館当時の姿に極力近づけるための整備工事が行われた。展示作品がすべて取り払われた姿、非公開の収蔵庫の様子など、普段は決して見られない、東アジア最大級の西洋美術コレクションを誇る美術館の所蔵作品の「お引越し」をカメラが記録した――

上野に行けば、いつも目にしていた建物がル・コルビュジエによるものだったなんて、子どもの頃は思いもよりませんでした。前庭のオーギュスト・ロダンの「地獄の門」「考える人」「カレーの市民」なども同様です。いつでも誰でも芸術に触れられるよう、美術館は常に開かれています。教科書や映画にも登場する名彫刻がさりげなくそこにある素晴らしさ。考えてみれば、この上ない贅沢です。リニューアル工事のためにあの彫刻の数々が念には念を入れて、布でぐるぐる巻きにされて、クレーンで吊される姿はなんともシュールで、どれだけ貴重なものなのか、思い知らされます。

作品だけでなく、個性豊かなキュレーターたちの仕事ぶりにも着目

美術館はモネの「睡蓮」をはじめ、ルノワール、ピカソ、ゴッホらの名画など、およそ 6000 点もの作品を所蔵しています。その数はアジア随一。その中での中心は日本の実業家であった松方幸次郎が大正初期から昭和初期にかけて築いた「松方コレクション」です。

収蔵するだけでも大変な美術品の数々。展示する数はさらに限られます。同じ作品でも、テーマによって見え方は変わってきます。どう見せるのか。時代、大きさ、動線など、学芸員たちは配置をミリ単位で考え抜きます。映画では縁の下の力持ち、個性豊かなキュレーターたちの仕事ぶりにも着目します。館長、美術史系学芸員、保存科学や情報資源の研究者、修復家など、西洋美術館で働いている人の数は20数名。令和2年度、日本の国立美術館全体の常勤職員はわずか117人だそうです。パリのルーヴル美術館だけで約2200人もの人が働いており、韓国の国立美術館4館は600人のスタッフが所属だと聞くと、日本の美術館の特殊さに気づくでしょう。

予算不足が運営課題。日本の芸術界の裏側に迫るリアルな内容

話題の展覧会のたびに上野公園には長蛇の列ができます。実は美術館は人材だけでなく、予算も足りないことをご存知でしょうか。あんなに大勢の人が詰めかけ、ミュージアム・グッズの売り上げもありそうなのに。特別展のように大がかりなものはマスコミがスポンサーとなります。協賛側は大きな収益をあげるために出資し、美術館は学術的な意味を求めます。スポンサーが入るのは日本独自のシステムなのだとか。文化に惜しみない欧米では考えられないことでしょう。これまでは成功を収めてきましたが、主催に名を連ねるのはテレビ局や新聞社。今後も潤沢な資金が続くとは考えにくいです。さらにウクライナの戦争で、美術品の輸送量や保険料は高騰しています。時代の流れに合わせ、美術館のあり方も変わっていかなければなりません。

映画の撮影中だった2021年4月、初の女性館長だった馬渕明子館長から田中正之館長に代わりました。田中館長は以前、西洋美術館に勤めていた時より予算が半分近くに削減されていたことに大きなショックを受けたようです。

元々は一部の王侯貴族のためのものであった絵画や彫刻。それが美術館によって多くの人々に見てもらえるようになりました。田中館長は「芸術は生きていく上で必要なもの。どんどん理解を深めてほしい。その最前線に立つのが美術館」と語ります。「松方コレクション」に力を注いだ馬渕前館長は「このコレクションは誰のものか。もちろん元々は松方幸次郎が集めたものではありますけど、やはり国民です」と断言します。

西洋美術館がある貴さについて考えさせられる作品

昔は地方の人が西洋美術館を目指して、都会にやってきました。今はアジアの人々が自国にはない西洋美術に触れようと美術館を訪れます。それがコロナのような事態になってしまうと、その外国人の集客は見込めなくなります。

本作を観ると、『わたしたちの国立西洋美術館』のタイトルについて考えさせられます。西洋美術館がずっとそこにあり、芸術を供してきたのは当たり前でなく、奇跡的なことだったということ。そこで働く人々の絶え間ない努力があるということ。

映画を観たら、美術館に通いたくなりました。アプローチを一歩、入れば、計算し尽くされた世界。いつもとは違った風景が見えてきそうです。

『わたしたちの国立西洋美術館 奇跡のコレクションの舞台裏』

7月15日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
製作・監督・撮影・録音・編集:大墻敦
録音・照明:折笠慶輔
録音:梶浦竜司
カラーグレーディング:堀井威久麿
音楽:西田幸士郎
演奏:閑喜弦介(クラシックギター)、多久潤一朗(アルトフルート)
音楽録音・リレコーディング:深田晃
技術協力:KIN 大石洋平 宮澤廣行
協力:国立西洋美術館
配給・宣伝:マジックアワー 
日本/105分/ドキュメンタリー/DCP/(c)大墻敦
G映画
公式サイト:https://www.seibi-movie.com/

文/高山亜紀 写真/(c)大墻敦


 


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