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近年、SDGsへの意識の高まりもあり、食品ロスが社会的に大きく注目を集めています。規格外の野菜や賞味期限を過ぎた食品が、日々大量に廃棄されている現状があります。京都大学の研究・調査によると、生ごみの約40%が“手付かず食品”と“食べ残し”が占めているという結果が出ているようです。さて、いつの頃から、日本において、このような食品ロスが顕在化し始めたのでしょうか?

おそらくその背景には、日本人の食生活の変化が大きく影響しているように考えられます。元来の日本人の食生活を見たとき、「食材を無駄にしない」という考え方から生まれた料理が、数多くあるように思われます。鯛のあら煮や、鰤の大根煮、潮汁、骨せんべいなどが、その例として挙げられるでしょう。

日本料理アカデミー名誉理事長でもある『菊乃井』主人の村田吉弘さんに、食品ロスの問題について、和食の視点から知見をお尋ねしてみました。

【京の花 歳時記】では、季節の花と和食、京菓子、宿との関わりを一年を通じて追っていきます。第30回は、高台寺東側にある『菊乃井 本店』の文月の花と京料理をご紹介します。

◆食材を無駄にしない、日本食の在り方

「我々人間が食べているものは、すべて神から与えられた恵みだとするのが、昔からある日本人的な考えです。農作物にしたって、人間は世話をしているだけであって、自然の恵みによって得られています。肉、魚にいたっては、命あるものを頂戴しているのですから、神の意思に従った食べ方をしないといけない。

そうした考えのもとに生まれた日本料理では、本来の素材の美味しさを味わうために、添える程度の味付けをするのが基本です。すなわち『神の創造物である食材は完璧である』ということから出発しているので、あんまり付加する必要はないということです。

『菊乃井』主人の村田吉弘さん。

元来、料理屋というのは、食材の天地・両端を切って美味しいところだけを出すので、どうしても無駄の多くなる世界です。だからこそ、昔から若い料理人たちには『食材に捨てるところなんてないはずや』と言い聞かせています。捨てる前に『その食材を生かす方法はないのか?』と、考えるようにさせています。

SDGsが注目されていますが、日本人一人一人が『日本の食文化』をもっと大切にすることが、食品ロスへの取り組み、健康的な生活を取り戻すことに繋がっていくんじゃないでしょうかね?」と村田さん。

◆昭和30年代の日本食は、バランスが取れていた

「日本には“一汁三菜”という言葉がありますよね。昭和30年代の家庭の食事は、まさに一汁三菜。白いご飯に焼き魚、野菜の煮付け、お浸し、漬物に、味噌汁が並びました。この食事、質素だけれど、脂質・糖質・たんぱく質のバランスが非常によくて、その上、捨てるところがない。昭和30年代は、農業や漁業に従事している人も多かったから、自ずと食材を大切にし、自然の恵みにも感謝する気持ちが強かったんだと思います。

それがこの20年の間に、肉の消費は5倍にまで膨れ上がり、反して米の消費はおよそ半分にまで落ち込んでいます。食生活が欧米化するにしたがって、食品ロスは増えました。質素な食生活をしていた時代は農作物に感謝をしていたのに、豊かな食生活をしているにもかかわらず、食材の無駄が多くなるというのは、おかしなことですよね。どこか世の中間違った方向に向かっているように思います。

“日本独自のSDGs”というものを、考えていかないといけないですね」

◆葉月の「鱧木屋町焼き」と季節の花

『菊乃井本店』の葉月の献立の中から、今回は焼物の「鱧木屋町焼き(はもきやまちやき)」を取り上げます。

皿は魯山人の金彩織部皿(きんさいおりべざら)。器のところどころに金彩が施されている。

「鱧は、8月に入ってからが一番美味しくなります。まだ皮の柔らかい6月は湯引きで食すのがいいですが、この時期になると皮も固くなってくるので、焼物に適しております。骨切りをし、塩焼きにした身でペースト状にしたマッシュルームを挟んでおります。そうすると、食べ応えがあると思いませんか? この時期の鱧の美味しさを堪能していただけるよう、工夫しています。

鱧の身で挟むマッシュルームは油で炒め、最後にバターを加え、ペースト状にしております。付け合わせにはルバーブやミント、クレソンなどで作った緑酢を添えておりますので、少しのせて味わっていただくと、爽やかさも楽しんでもらえると思います。

当店では、昔から淡路島の仮屋浜で獲れた鱧を使用しています。仮屋浜の海底は柔らかい砂地のため、鱧のお腹の皮が擦れず柔らかくなるといわれています。また、瀬戸内海の潮流の影響で身が引き締まり、海底には新鮮な水が供給され、エサとなる甲殻類や魚が豊富です。そのため、コクのある最高の鱧が育ちます。鱧を食べる習慣のない関東の人の中には『鱧はどうも苦手です』と言われる方も多いのですが、うちの鱧を食べると『考え方が変わった!』とよく言われます」と村田さん。

「木屋町焼」の由来は、鱧の皮を“鴨川”と“高瀬川”に見立て、鱧に挟まれた具材を“木屋町”にたとえた粋な料理名となっています。

唐物の手付籠に生けられていたのは、木瓜(もっこう)と鉄線(てっせん)と女郎花(おみなえし)。夏の名残と秋の訪れを予感させる。
『菊乃井 本店』1階の、蘭の間。窓の外には、水辺での釣りを連想させる庭が広がる。

***

今回の取材で、村田さんから「食材は、神が創造した完璧なる物であって、味付けは添える程度であるべし」という、日本料理の根源的な考え方を教えていただきました。

今、日本の食料自給率はカロリーベースで約38%(2022年度)までに落ち込んでいながら、食品ロスは未だ解決しておりません。外食をすることが多くなっている今日、神の恵みと生産者への感謝をついつい忘れがちです。食前の「いただきます」と、食後の「ごちそうさまでした」と手を合わせ感謝する行為が、いかに大切であるかを改めて感じました。

「菊乃井 本店」

住所:京都市東山区下河原通八坂鳥居前下る下河原町459
電話:075-561-0015
営業時間:12時~12時30分、17時~19時30分(ともに最終入店)
定休日:第1・3火曜(※定休日は月により変更となる場合あり)、年末年始
https://kikunoi.jp

撮影/坂本大貴
構成/末原美裕・貝阿彌俊彦(京都メディアライン HP:https://kyotomedialine.com Facebook

※本取材は2023年8月12日に行なったものです。
参考:京都大学環境安全保険機構

 


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