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茶寮宝泉

季節の移ろいは早いものです。特に、気持ちを高揚させてくれる“春”は「一瞬の瞬きがごとき出来事」のようにさえ感じられます。桜咲き儚く散れば、気温の上では“夏日”となる日も多くなって、唱歌『夏は来ぬ』の「卯の花の 匂う垣根に 時鳥(ほととぎす) 早も来鳴きて 忍音もらす 夏は来ぬ」の歌詞にぴったりの季節を迎えます。

この歌詞にある“卯の花”が咲く季節は、むかし「花の卯月」と呼ばれていました。それが略され、「卯月」になったとされています(諸説あり)。

卯月の始まりを告げる花としては、やはり桜でしょう。今年は3年ぶりに行動制限が緩和されましたから、桜の下でお弁当を広げて食べる、日本ならではのお花見を楽しまれた方も多いのではないでしょうか。

今回は、桜餅と八重桜を取り上げます。

【京の花 歳時記】では、「花と食」、「花と宿」をテーマに、季節の花と和食、京菓子、宿との関わりを一年を通じて追っていく、『茶寮宝泉』、『菊乃井 本店』、『柊家』のリレー連載です。第16回は、京都・下鴨にある『茶寮宝泉』の花と京菓子をご紹介します。

◆「桜餅」ができるまで

花見菓子の定番といえば、「桜餅」。材料と作り方について、店主の古田泰久さんに詳しいお話をお聞きしました。

「桜餅は、関東と関西で作り方が異なることをご存知でしょうか? 関東では小豆餡を小麦粉の生地でクレープ状に巻いた「長命寺」、関西ではもち米からできた道明寺粉の生地で餡を包んだ「道明寺」が主流です。

和菓子は京都発祥のものが多いですが、桜餅は東京発祥。当店では、鉄板で小麦粉の生地を薄く焼いて餡を包み、塩漬けにした桜の若葉でくるんだ関東風の桜餅を提供しております。

熟練の職人が手際よく、熱した鉄板にお玉で生地を等分に流しては円く伸ばして焼いていきます。

生地を焼く様子。

焼きあがった生地でこし餡を包み、桜の葉を巻いたら完成です。

見た目はふんわりとしていますが、食感はしっとりとした焼き生地と、なめらかなこし餡の甘味が特徴です。塩漬けにした桜の葉が、ほのかに香ります。桜の華やかさを口の中でも感じられる、一品です」

◆卯月のおもてなしの花

床の間には、卯月のおもてなしの花が生けられます。『茶寮宝泉』の花を生けておられる古田由紀子さんに、今回の花の種類についてお伺いしました。

「今日のお花は、八重桜です。染井吉野が盛りを過ぎてから、咲き始めるのが八重桜。伊豆七島の大島に自生する大島桜を園芸品種として栽培したのが始まりです。花弁が35枚以上もあることから“八重桜”と呼ばれるようになったそうですが、花弁がぎゅぎゅっと集まって咲くさまに艶やかさを感じます。

八重桜を飾ると、広間の風情も『春らんまん』の趣になります」

床の間で花を生ける、古田由紀子さん。

◆生菓子とお抹茶の美味しいいただき方

京都を訪れると、宿泊施設でのおもてなしやお寺などを訪問した際に、お抹茶を提供されることが多々あります。日常生活では、だんだん馴染みが薄くなっているので、「作法がわからず、戸惑った」という経験をされた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

お抹茶には、生菓子や干菓子がつきものです。美味しいいただき方について、古田さんにお聞きしました。

「茶会の場合は、作法にのっとりお抹茶を嗜む必要があります。しかし、茶席でない場合はお抹茶が温かいうちに美味しくお召し上がりいただければ、いいと思いますよ。

ちなみに、お抹茶は濃茶(こいちゃ)と薄茶(うすちゃ)に分けられます。薄茶は通常、一服1.75グラムで点てるのに対し、濃茶は3.75グラムで茶を練ります。『茶寮宝泉』では、薄茶を提供しています。薄茶をご提供する場合は、『お薄です』と言われて差し出されることが多いでしょう。

お抹茶と菓子をいただく場合は、菓子を先に口に入れてからお抹茶を飲むことをおすすめします。それは、菓子の甘みによって、お抹茶の味が際立つためです。

また、空腹時にお抹茶をいただくと、胃への刺激が強いと言われています。菓子はその負担を和らげる役割があるとも言われていますよ。

いずれにしましても堅苦しく考えず、楽しく味わっていただけたら嬉しいです」

***

満開の桜の木の下では意外と花の香りはしないものですが、桜餅を食べると品のある香りがいたします。それは、あたかも「桜餅」が、春の便りを届けてくれるようです。五感すべてで、春の華やかな盛りを感じたいですね。

「茶寮宝泉」

住所:京都市左京区下鴨西高木町25
電話:075-712-1270
営業時間:10時~17時(ラストオーダー16時30分)
定休日:水曜日・木曜日(※定休日は月により変更となる場合あり、年末年始休業あり)
HP:https://housendo.com
インスタグラム:https://instagram.com/housendo.kyoto

撮影/西村美羽
構成/末原美裕(京都メディアライン HP:https://kyotomedialine.com Facebook
※本取材は2023年3月17日に行なったものです。

 

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