『猫のダヤン』を描いた絵本や旅のエッセイなど、さまざまな作品を発表し続けている作家の池田あきこさん。今年2023年は、『猫のダヤン』の生誕40周年。そんな記念すべき年に、花人日和では、池田さんご自身が日々の暮らしの楽しみを綴った連載エッセイを4回にわたってお届けします。今月は、その第4回です。
第4回 乗り物に乗って小さな旅に出よう
文・池田あきこ
父が国鉄(今のJR)に勤めていて、昔の国鉄は気前が良かったので、毎年国鉄乗り放題の無料パスが家族に支給された。私の旅好きはその頃から始まっている。
パスは一度に一人しか使えず、一人旅が基本。時刻表と首っ引きで路線を調べた。昔は信じられないほど、長距離列車が日本全国に張りめぐらされ、宿に泊まることなく、列車の中で寝て、北海道にでも九州にでも行くことができたのだ。
結婚してバイクに乗るようになってからは機動力のパワー全開。身の丈に合わないでっかいバイクも乗ったけど、何度もコケたあげくに今のクロスカブに落ち着いた。最近110CCから127CCにボアアップして白ナンバーになり、高速に乗れるようになったのが自慢。カブは軽快なうえ、気に入った場所でチャっと止まれる手軽さがいい。都心がすいている休みの日に青山やお台場にカブで出かけるのは楽しい。
今も鉄道の旅は好きだし、乗り物がなんであれ、見知らぬ土地に行くのは心が踊る。遠いところに行かなくたっていい。近所を歩き回るのだって小さな旅だ。
今日は浅草から水上バスに乗って、豊洲の魚市場へ行ってみようと思う。築地は大好きでよく行ったものだけれど、豊洲はまだ行ったことがないから。
水の上から東京を楽しめる水上バスで浅草から豊洲へ
水上バス旅の前には、せっかくなので出発地点である浅草で食べ歩き散歩を満喫。そして、いよいよ水上バスに乗る時間になったら、いきなり雨が降ってきた。松本零士さんデザインの近代的のような宇宙的のような船に乗る。大きな窓はあるけれど、私はどちらかといえば風に吹かれての川下りの方が好み。
あづま橋から橋三つ超えて、両国橋の手前では神田川が流れ込んでくる。地味にボタン博物館なんかがあるのは浅草橋のあたりなのかな。
清洲橋も永代橋も青くてきれいな橋だ。左に石川島。今では開かない勝鬨橋。右に東京タワーが小さく見える。浜離宮竹芝桟橋のあたりから川幅は広がって東京湾へ。晴海を過ぎればレインボーブリッジ。オレンジと白の鉄のキリンが悠然と並んでかっこいい。
各スポットをナレーションで案内してくれるのは松本零士さん作のSF漫画『銀河鉄道999』に登場するキャラクターの船長、メーテルに鉄郎。
そして台場に着いたかと思えば、豊洲へ行くために船はUターン。同じところを二度走って、得した気分。
でも遅い時間についたため、豊洲市場ではもうほとんどすべての店が閉まっている。唯一何軒かの店が開いている江戸前場下町のおでん屋『海の幸 福笑』でおでんと本マグロで一杯。
みなさん豊洲に行くなら絶対3時までに行ってね。今度は絶対朝から行こうっと!
今回はここでは終わりません! 次回、水上バス乗船前に楽しんだ浅草散歩の様子をご紹介するのでお楽しみに。
さて、旅つながりで6月に松屋銀座で開催される展覧会のご紹介。
ダヤン40周年を記念した見どころいっぱいの展示なので、ぜひ見に来てね!
池田 あきこ(いけだ・あきこ)
本名池田晶子。東京吉祥寺生まれ。1983年に初めてダヤンを描き、その後ダヤンを主人公とした物語を多数生み出していく。旅をイラストとエッセイでつづったスケッチ紀行のシリーズや教科書の挿絵なども手がけ、幅広く活躍。’96年から笠間日動美術館ほかで「池田あきこ原画展」、’99年春には日本橋高島屋で「猫のダヤン 池田あきこ原画展」を開催、大好評を博す。画集、長編物語、旅のスケッチ紀行シリーズなど作品を多数発表。2023年6月末からは、40周年を迎える猫のダヤンの原画展が全国で開催予定。2023年6月28日から7月10日まで、銀座松屋にて「猫のダヤン40周年記念 池田あきこ原画展-ダヤンの不思議な旅-」が開催されます。
『猫のダヤン』 40周年特設サイトはこちら
https://www.nekono-dayan.com/40th/
撮影/黒石あみ(小学館)