『猫のダヤン』を描いた絵本や旅のエッセイなど、さまざまな作品を発表し続けている作家の池田あきこさん。今年2023年は、『猫のダヤン』の生誕40周年。そんな記念すべき年に、花人日和では、池田さんご自身が日々の暮らしの楽しみを綴った連載エッセイを4回にわたってお届けします。今月は、その第2回です。
第2回 絵を描くって楽しい!=カフェdeスケッチ
文・池田あきこ
絵を習ったことのない私が絵を描けるようになったのは、不思議な世界の主人公である猫のダヤンのおかげ。
自分の頭の中にある架空の国のお話を伝えたくて、それには絵がピッタリ、最適な方法だ。はじめはただ想像だけで絵を描いていた。だから奥行きもなく、船なんかひっくり返りそう。
ダヤンの絵本が出てしばらくして、アニメの仕事で北極に行ってもらえないかという素晴らしいオファーがあった。北極! 北極といえばシロクマ、オーロラ! 北極に行ってみて驚いた。店が一軒とてない北極圏の小島、その飛行場にあるのがゲーセンだ。若者はバイクの代わりにスノーモービルを乗り回し、泊めてもらったカナダ人の家の少年は、オーロラのあまりの美しさに興奮して凍った大地に寝っ転がり夜空を見上げて感嘆しきりの私の腕を引っ張り、「早くうちに帰ろう、いいものを見せるから」と誘う。行ってみれば、彼の自慢はスーパーマリオ。そして新鮮なアザラシ肉には鼻をつまみ、ハンバーガーを食べている。
北極だからかもしれないけれど、北極ですらこうなのか!
衝撃を受けた。そのうち世界は金太郎飴のように同じ景色になってしまうかもしれない。そうならないうちに世界を旅して違う文化に触れ、わちふぃーるどという不思議な国を作り上げねばならない。その頃娘は中学生。母親が多少留守しても大丈夫な年頃だ。ただ会社での私は社長。理由もなく長旅に出るのは憚られる。
そうだ、旅を仕事にしよう! 仕事にすれば、娘はともかく夫と社員は仕方ないと思うだろう。美術系出版社の編集を説得して、始まったのが『ダヤンのスケッチ紀行』シリーズだ。私はダヤンを自分になぞらえ、一緒に旅する態にした。じゃなかったら、いくら何でも美大も出ていない私にスケッチ本を出してはくれないだろう。
これは楽しい! 想像したり、お話に合わせて描くより、なんかシンプル。無心。ここと思う光景を見つけたら、そこがどこであれ、黙々と鉛筆なり、ペンなり、筆なりを走らせる。時は動かない私を置いて流れていく。ときにはその時も画面の中に閉じ込める。絵を習ったことのない私にとって、スケッチはとても絵の修業になったし、見知らぬ人との交流の場にもなった。覗き込んでくる人にそれまでのスケッチを見せると、大抵の人は知っている風物が描かれていることを喜ぶ。絵には言葉がいらないのだ。
お気に入りのカフェでスイーツを描いてみよう
さあ、みなさんも春になったら簡単スケッチにトライしてみませんか? 誰だって子供の頃は絵を描くのが好きだったはず。でも大人になると自意識が邪魔して、のびのびと線を走らせることができない。それを解き放つため外に出てみよう!
おすすめは住んでいる所から近い街のおしゃれなカフェ。できればオープンカフェがいいな。そこで見た目が一番かわいいスイーツと飲み物を頼む。
今なら食べる前に写真を撮ってSNSとかに載せるよね。それと同じ、食べたくなっちゃうけど少し我慢。バッグからスケッチブックとポーチを出して食べる前に絵を描こう。
必要な持ち物は、
・小ぶりのスケッチブック
・鉛筆2B
・消しゴム
・細目の黒油性ペン2本
・小さい水彩絵の具セット
・水筆
・ボロ布 これだけの道具は中位のポーチに収まって邪魔にならない。
手順としては、
絵が仕上がったら、のんびりと飲んだり食べたりしながら絵の余白に日にち、場所、食べたスイーツや飲み物の印象を書こう。そういった短い文章も紙面の構成に入るので、これでスケッチの出来上がり!
今回のスケッチは軽いテイストを目指しているので、あまり描き込まない。選ぶ題材は、お洒落な看板なんかもいいね!
池田 あきこ(いけだ・あきこ)
本名池田晶子。東京吉祥寺生まれ。1983年に初めてダヤンを描き、その後ダヤンを主人公とした物語を多数生み出していく。旅をイラストとエッセイでつづったスケッチ紀行のシリーズや教科書の挿絵なども手がけ、幅広く活躍。’96年から笠間日動美術館ほかで「池田あきこ原画展」、’99年春には日本橋高島屋で「猫のダヤン 池田あきこ原画展」を開催、大好評を博す。画集、長編物語、旅のスケッチ紀行シリーズなど作品を多数発表。2023年6月末からは、40周年を迎える猫のダヤンの原画展が全国で開催予定。2023年6月28日から7月10日まで、銀座松屋にて「猫のダヤン40周年記念 池田あきこ原画展-ダヤンの不思議な旅-」が開催されます。
『猫のダヤン』 40周年特設サイトはこちら
https://www.nekono-dayan.com/40th/
撮影/黒石あみ(小学館)