文・石川真禧照(自動車生活探険家)
車と日常生活は密接につながっている。スポーツカー好きの愛車は2ドアクーペやオープン2シーターがベストだ。しかし現実には家族が増えていくと、自分の好み通りにはいかなくなる。2シーターは2+2シーターになり、4/5シーターに落ち着く。2ドアクーペも4ドアセダンになり、ミニバンやSUVがやって来ることになる。
フェラーリといえば、イタリアを代表するというより、世界でもトップクラスのスポーツカーメーカーとして知られている。レーシングドライバーであったエンツォ・フェラーリが1940年に創設して以来、レーシングカーや2人乗りのスポーツカーを専門につくり続けていたが、やがて顧客たちの生活も変わり、家族が増える人たちが多くなってきた。それでもフェラーリに乗っていたいという声が大きくなり、リアにプラス2シーターを加えたモデルも生産するようになった。
近年になってより一層、居住性を重視した車がほしいという声が高まってきた。他のハイエンドスポーツカーメーカーや、ロールスロイスまでSUV(多目的スポーツ車)をつくるようになり、フェラーリもようやくこの分野に進出する覚悟を決めた。
フェラーリの市販車づくりに対する考え方は、他の自動車メーカーとは異なっている。フェラーリにとって大切なのはレース活動。フォーミュラ1やル・マン24時間レースのような世界耐久レースに勝つことが使命。そのためのマシンづくりの費用を、市販車を販売して稼いでいる。市販車が売れれば、それだけレーシングマシンの開発にお金をかけることができるということになる。フェラーリを買う人はフェラーリのレース活動を応援していることを意味する。
そのためには、フェラーリといえども、売れる車を市販しなければならない。今回の「プロサングエ」もそういう社内事情があったはずだ。
そして、発売した結果は、すでに日本では今年分は完売という。家族で乗れるフェラーリは人気なのである。
実車に接してみると、これまでのハイエンドSUVには見られない魅力がある。
背の高いフェラーリ。目線よりも天井が上にある。全高1590mm。前席用のドアは普通に開くが、後席は後ろヒンジで前から開く観音開き(フェラーリはウェルカムドアと名付けている)の自動開閉可能ドアを採用。後席はドアが前開きなので、乗り降りに際し、体がすごく楽。しかも後席床中央にコンソールなどの出っ張りがないので、左右への行き来もできる設計になっている。まさにファミリーが後席に乗ることを考えつくった仕様といえる。ベスト後席SUVの称号というのがあれば最優秀賞を与えたいぐらいだ。
もちろん動力性能はフェラーリの伝統も受け継いでいる。
エンジンはフェラーリ製V型12気筒、6.5Lの大排気量、自然給気を搭載するが、8速変速機は後輪車軸近くに配し、前後の重量バランスを取っている。しかも4輪駆動方式を採用している。8速自動変速は、街中では7速1100回転、60km/hでも走行するが、Dレンジで全力加速を試みれば、0→100km/hは実測でも4秒台前半。12気筒エンジンは7800回転まで上昇し、加速する。
家族を宿や自宅に降ろし、ひとりでフェラーリを操る楽しみもきちんと残されている。
スーパーカーメーカーが初めて造ったSUVはスポーツカー好きの究極のファミリーカーと言える。
フェラーリ/プロサングエ
全長×全幅×全高 | 4973×2028×1589mm |
ホイールベース | 3018mm |
車両重量 | 2033kg |
エンジン | 6496cc |
最高出力 | 725ps/7750rpm |
最大トルク | 716Nm/6250rpm |
駆動形式 | フルタイム4輪駆動 |
燃料消費率 | 申請中 |
使用燃料/容量 | 無鉛プレミアムガソリン/100L |
ミッション形式 | 8速自動 |
サスペンション形式 | 前後:マルチリンク式 |
ブレーキ形式 | 前後:ベンチレーテッドディスクブレーキ |
乗員定員 | 4名 |
車両価格(税込) | 4766万円 |
問い合わせ先 | https://www.ferrari.com/ja-JP |
文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。
撮影/萩原文博