文・石川真禧照(自動車生活探険家)

75年間のフェラーリ史上初のSUV。PROSANGUE(プロサングエ)はイタリア語でサラブレッドを意味する。

車と日常生活は密接につながっている。スポーツカー好きの愛車は2ドアクーペやオープン2シーターがベストだ。しかし現実には家族が増えていくと、自分の好み通りにはいかなくなる。2シーターは2+2シーターになり、4/5シーターに落ち着く。2ドアクーペも4ドアセダンになり、ミニバンやSUVがやって来ることになる。

車体に使われている素材はアルミニウム、カーボン・ファイバー、高強度スチールなど。これらを部分部分で採用し、強度と軽量化を図っている。車体デザインは空力抵抗の低減に気を使っており、ホイールアーチやリア下部は複雑な構造だ。

フェラーリといえば、イタリアを代表するというより、世界でもトップクラスのスポーツカーメーカーとして知られている。レーシングドライバーであったエンツォ・フェラーリが1940年に創設して以来、レーシングカーや2人乗りのスポーツカーを専門につくり続けていたが、やがて顧客たちの生活も変わり、家族が増える人たちが多くなってきた。それでもフェラーリに乗っていたいという声が大きくなり、リアにプラス2シーターを加えたモデルも生産するようになった。

ホイールベースは3m強と長いが、全長、全高はトヨタ・クラウン・クロスオーバーよりやや大きめ。この車体にV型12気筒、排気量6.5Lのエンジンを搭載している。

近年になってより一層、居住性を重視した車がほしいという声が高まってきた。他のハイエンドスポーツカーメーカーや、ロールスロイスまでSUV(多目的スポーツ車)をつくるようになり、フェラーリもようやくこの分野に進出する覚悟を決めた。

フェラーリの市販車づくりに対する考え方は、他の自動車メーカーとは異なっている。フェラーリにとって大切なのはレース活動。フォーミュラ1やル・マン24時間レースのような世界耐久レースに勝つことが使命。そのためのマシンづくりの費用を、市販車を販売して稼いでいる。市販車が売れれば、それだけレーシングマシンの開発にお金をかけることができるということになる。フェラーリを買う人はフェラーリのレース活動を応援していることを意味する。

そのためには、フェラーリといえども、売れる車を市販しなければならない。今回の「プロサングエ」もそういう社内事情があったはずだ。

そして、発売した結果は、すでに日本では今年分は完売という。家族で乗れるフェラーリは人気なのである。

実車に接してみると、これまでのハイエンドSUVには見られない魅力がある。

ホイールベースの中間に前席があるということは、前席中心のスポーツカーの証し。しかし、後席もドアが大きく開き、乗り降りしやすそうなのがわかる。
運転席というよりコクピットと呼んだほうが似合っている前席。基本的に左右対称のデザイン。最近のフェラーリはシフトレバーがない。着座位置は高めでボンネットの峰も見える。

背の高いフェラーリ。目線よりも天井が上にある。全高1590mm。前席用のドアは普通に開くが、後席は後ろヒンジで前から開く観音開き(フェラーリはウェルカムドアと名付けている)の自動開閉可能ドアを採用。後席はドアが前開きなので、乗り降りに際し、体がすごく楽。しかも後席床中央にコンソールなどの出っ張りがないので、左右への行き来もできる設計になっている。まさにファミリーが後席に乗ることを考えつくった仕様といえる。ベスト後席SUVの称号というのがあれば最優秀賞を与えたいぐらいだ。

前席はヘッドレストまでが一体となったハイバックシートを採用。肩の辺りから上下する。
ドアが大きく開く(開口角約80度)後席。足元は左右でつながっている。カーペットは海から回収された漁網をリサイクルしたポリアミド製を使用するなど環境への配慮も実行。
アルミニウム製のリアハッチは電動開閉。もちろんゴルフバッグも収納でき、床下には深さ15cmのサブトランクも設けられている。
後席後ろのボードとトノカバーを外し、後席背もたれを前倒し(電動)すれば、荷室はさらに広くなる。

もちろん動力性能はフェラーリの伝統も受け継いでいる。

エンジンはフェラーリ製V型12気筒、6.5Lの大排気量、自然給気を搭載するが、8速変速機は後輪車軸近くに配し、前後の重量バランスを取っている。しかも4輪駆動方式を採用している。8速自動変速は、街中では7速1100回転、60km/hでも走行するが、Dレンジで全力加速を試みれば、0→100km/hは実測でも4秒台前半。12気筒エンジンは7800回転まで上昇し、加速する。

V型12気筒エンジンは半分以上が室内(右がフロントノーズ)に突き出しているフロントミッドシップ方式を採用している。
8速自動変速のシフト部分。手動4速式のパターンを連想させるデザインで後退/自動/手動/低速の各ポジションをスイッチ式で選択する。
ハンドルスポークに設けられたコントロールスイッチは凍結路面からスポーツ走行、電子制御オフまでの走行モードを瞬時に切り替えてくれる。
左右のウインカー操作もレバーではなく、ハンドルスポークに内蔵されたスイッチで右、左それぞれに指で操作する。ハンドルから手を放さずに操作できる。

家族を宿や自宅に降ろし、ひとりでフェラーリを操る楽しみもきちんと残されている。

スーパーカーメーカーが初めて造ったSUVはスポーツカー好きの究極のファミリーカーと言える。

フェラーリ/プロサングエ

全長×全幅×全高4973×2028×1589mm
ホイールベース3018mm
車両重量2033kg
エンジン6496cc
最高出力725ps/7750rpm
最大トルク716Nm/6250rpm
駆動形式フルタイム4輪駆動
燃料消費率申請中
使用燃料/容量無鉛プレミアムガソリン/100L
ミッション形式8速自動
サスペンション形式前後:マルチリンク式
ブレーキ形式前後:ベンチレーテッドディスクブレーキ
乗員定員4名
車両価格(税込)4766万円
問い合わせ先https://www.ferrari.com/ja-JP

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。

撮影/萩原文博

 

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