文・石川真禧照(自動車生活探険家)
ロールス・ロイスの先進性は今も健在
ロールス・ロイス社が創設される6年前の1900年。当時、複数の自動車ブランドを販売していた企業家のチャールズ・スチュワート・ロールス卿は「コロンビア電気自動車」という電気自動車を運転し、「電気自動車はまったく騒音がなく、空気も汚さない。匂いも振動もない。定置式の充電ステーションが整備されれば、途方もなく便利な乗り物になるだろう」と、ある雑誌の記事で予測した。この評論が再認識されている。
ロールス卿は1906年に天才技術者のヘンリー・ロイスと知り合い、息があったことでロールス・ロイス社を創設し、ガソリンエンジンを搭載した数々の名車を創り出し、ついに「THE BEST CAR IN THE WORLD」の称号を得るまでになった。そのロールス・ロイスが120年余りの時を経て、エンジンのない100%電気+モーターで動く、ロールス・ロイスを発売した。高級車のなかでエンジンのない100%電気自動車を正式に発売したのはロールスロイスがはじめてのことだ。
20世紀はじめから多くの新機構を実用化してきたロールス・ロイスの先進性は今も健在なのである。
日本に初上陸した電気自動車のロールス・ロイスは2ドアの4人乗りクーペだ。スポーティな外観は全長5.4m、全幅2.0mの堂々たる車体を持つ。ドアはうしろヒンジの前開き、というロールス・ロイス独自の方式を採用。前開きなので、乗り降りはとてもしやすい。
運転席に座り、ドアを閉めるときは、前座席の中央にあるスイッチを操作すると、自動で閉まる。運転者も助手席の乗員も無理な姿勢でドアを閉めることはない。
分厚いドアを閉めると、車内は静寂に包まれる。発進ボタンを押し、変速機用レバーをD(走行)レンジに入れ、アクセルを踏んでもこの静寂は変わらない。走行音の侵入はない。
かつて8気筒エンジンのロールス・ロイスが「時速100マイル(160km/h)で走行中、室内に聞こえるのは時計(機械式だ)が時を刻む音しか聞こえないと言われたが、このロールス・ロイスは、助手席の人の寝息(イビキではない!)が聞こえるぐらいかもしれない。とにかく、走行中に発せられる音は皆無と言っても過言ではないだろう。
車の装備も先進の技術が投入されている。ロールス・ロイスには走行モードや調節装備などはない。その理由は、車が前方の道路状況を検知し、加・減速を調整したり乗り心地を変化させてくれるから。運転する者に余計な負担をかけさせない。というのがロールス・ロイスの信念なのだ。もちろん安全性もしっかり担保されている。
素朴な疑問として、世界中の富豪や王家たちが愛用するロールス・ロイスなら4ドアリムジンで電気自動車を(?)と思った。この問いに、ロールス・ロイスは「我が社のお客様は平均7台以上の自動車を保有し、これを状況に応じて使い分けていられます」。
どうやら、電気自動車を公的な場で使用するにはまだ時期尚早ということのようだ。
冒頭のロールス卿の「定置式の充電ステーションが整備されれば~」という予測は、間違ってはいなかったようだ。電気自動車の充電問題は日本で今討議されている。改めてロールス・ロイスの将来を見る目の確かさを再認識したのである。
ロールス・ロイス/スペクター
全長×全幅×全高 | 5475×2017×1573mm |
ホイールベース | 3210mm |
車両重量 | 2890kg |
モーター | ツイン励磁同期モーター |
最高出力 | 前190ps/後490ps |
最大トルク | 前365Nm/後710Nm |
駆動形式 | 4輪駆動 |
電費 | 2.6~2.8kwh/23.6~22.2kwh/100km |
サスペンション形式 | 前ダブルウイッシュボーン後5リンク式 |
ブレーキ形式 | 4輪ベンチレーテッドディスク |
乗員定員 | 4名 |
車両価格 | 4800万円 |
問い合わせ先 | 0120-980-242(コールセンター) |
文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。
撮影/萩原文博