文・石川真禧照(自動車生活探険家)
トヨタGRスープラというスポーツカーがある。初代は1978年に登場。日本ではセリカXX(ダブルエックス)と呼ばれていたハッチバッククーペ。81年の2代目は英国のロータスが足回りをチューニングするなど本格的なスポーツカーだった。エンジンは直列6気筒。トヨタが1960年代に少量生産したスポーツカー、トヨタ2000GTをイメージしてつくったスポーツカーと言われていた。しかし、スープラは2002年に生産中止になってしまった。「スポーツカーは売れない。」トヨタ的合理主義での判断だった。トヨタのスポーツカーの歴史はここで中断された。
それから17年。2019年春。スープラが復活した。車の開発にモータースポーツは欠かせない、として自らもレースやラリーに参加している豊田章男(現トヨタ会長)が、社長に就任した当時(2009年)から、スポーツカーの必要性を発信していたが、ようやくそれが実ったのが、5代目スープラだった。自らもテストドライバーを務めた。
開発にあたっては、技術提携を結んでいたドイツ・BMW社との共同開発を行った。BMW社の直列6気筒エンジンは世界でもトップレベルのエンジンと言われていた。エンジンやシャーシの基本設計はBMWが担当。BMWはZ4という2シータースポーツカーを造った。トヨタは基本設計を元にスープラを造った。室内の部品もBMWを流用しているので、スープラのウインカーレバーはハンドルコラムの左側にある。輸入車と同じだ。
5代目スープラは約4年前に日本での販売が開始されたが、いまでもモデルチェンジは行われていない。BMWが平均して6~7年間フルチェンジしないのと同じスタイルだ。しかし、年次改良と呼ばれている改善作業は、毎年のように実施され、その都度、中身は進化している。この方法もBMW流だ。しかし、改善はトヨタが独自に実施している。
最新の改善は、マニュアル変速機だった。スープラは8速自動変速もあり、そちらも乗りやすく、パフォーマンスも素晴らしいのだが、モータースポーツを重点としているスポーツカーなので、マニュアル車を取り上げた。しかし、最新の自動車技術の発達には感心する。新たに搭載されたマニュアル変速機は、コンピューターが運転者のクラッチ、シフト操作に合わせて、最適なエンジン回転数になるように制御してくれる。昔のクルマ好きなら得意になって行ったクラッチペダルを踏みながら、右足でブレーキとアクセルを同時に踏みながら、手はシフトレバーを操りシフトダウンするというテクニックなど不用になってしまった。誰もがスムーズで小気味のよいシフトアップ&ダウンのスポーツ走行ができるというのだ。しかも、これはサービスのしすぎと思うのだが、マフラーからの音を室内でも楽しめるようにチューニングも施され、スポーツモードを選択すると、まるでレーシングカーを操っているような雰囲気を耳で味わえるというのだ。
趣味の一台として、こういう車がガレージにある生活もクルマ好きには理想の形のひとつだろう。
トヨタ GRスープラ RZ
全長×全幅×全高 | 4380×1865×1295mm |
ホイールベース | 2470mm |
車両重量 | 1520kg |
エンジン | 直列6気筒 2997cc |
最高出力 | 387ps/5800rpm |
最大トルク | 500Nm/1800~5000rpm |
駆動形式 | 後輪駆動 |
燃料消費率 | 11.0km/L |
使用燃料/容量 | 無鉛プレミアムガソリン/52L |
ミッション形式 | 6速手動式 |
サスペンション形式 | 前:ストラット式/後:マルチリンク式 |
ブレーキ形式 | 前後:ベンチレーテッドディスク |
乗員定員 | 2名 |
車両価格(税込) | 731万3000円 |
問い合わせ先 | お客様相談センター 0800-700-7700 |
文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。
撮影/萩原文博