文・写真/坪井由美子(海外書き人クラブ/海外プチ移住ライター)
ずっと夢みていた韓国生活を始めてみようと、滞在先も決まらないままやってきたソウル。下宿に滞在して一般家庭の暮らしを体験したい(オンマの家庭料理を食べたい)! 果たして住む所はみつかるのでしょうか。
いざ、下宿探し!
ソウルに到着した翌日、韓国の友人と待ち合わせて下宿探しを開始。まずは語学学校の周辺で探してみることにしました。
しばらく歩くと、韓国語で下宿を意味する「ハスク」の看板を発見! しかし喜んだのもつかの間、残念ながら満室でした。次にみつけた下宿も満室でがっくり。やはり新学期直前での下宿探しは無謀すぎたか、と悲観的な気持ちになりながら歩き回り、ようやくみつけた3軒目で空室がありました。しかも昔ながらの韓国家屋で、まさに思い描いていた下宿の雰囲気。これは運命の出会いかも、とドキドキしながらおじゃましてみると、そこには何年も放置されたままだと思われる、見るからに衛生面に問題ありの部屋が。「ここは絶対やめた方がいい」と小声でささやく友人。どこでも住めるタイプの私でもさすがに厳しそうでした。
そう簡単にはみつからないだろうと覚悟はしていたものの、下宿探しは思った以上に難航しました。最近は下宿の数自体がめっきり減っているようで、こんなに少ないとは友人も予想外だったよう。歩き疲れてへとへとだった私達は、ひとまず休憩して作戦会議。滋味たっぷりのソルロンタン(牛骨スープ)を食べて英気を養い、少し範囲を広げて探してみることにしました。
ソウルの奇跡 友情と人情に涙
しかし場所を変えてもなかなか下宿の看板は見当たりません。これはもう無理かもしれないなあとあきらめかけたその時、友人が唐突に道行く女性に声をかけました。どうやら、この辺りで下宿を知らないかと聞いているようす。彼女の行動力にはいつもびっくりさせられます。もしこれが韓国ドラマならば、声をかけた女性が偶然にもこの地域を担当しているガスの検針員さんで、近所の親切なアジュンマ(おばさん)がやっている下宿を知っていて、そこまで案内してくれる、なんていう展開もあるのかもしれませんが……。なんと、そのまんまのことが現実に起こったのです!
目の前で起きた奇跡の展開に驚くやら、ありがたいやらで大興奮。韓国では人情を感じることが本当に多いです。この時は二人の女性が天使に見えました。
下宿がみつかりひと安心
ガスの検針員さんが案内してくれたのは、住宅街にある5階建てのビル。下宿というよりは小さな寮のような雰囲気で、上階はワンルームとして貸しているようでした。見学した部屋は狭いながらもベッドと机、冷蔵庫、エアコン付き。今まで見てきた物件よりもモダンで清潔感があるのも好印象でしたが、何より決め手となったのが食事。ちょうど夕食時で、キッチンに準備されていたパンチャン(おかず)がとてもおいしそうだったのです。これぞ求めていたもの!
そんなこんなで何とか落ち着き先が決まり、心の底から安堵しました。少しでもタイミングがずれていたら、あの時あの場所で彼女に声をかけなかったら今頃どうなっていたことか。友人には感謝してもしきれません。
下宿生活に必要なもの
韓国の下宿は、ベッドはあっても布団は自分で用意するのが一般的。レンタルできるところもあるようですが、雑貨屋さんのセールで安い布団をみつけたので購入しました。現在は数か月ごとに移動するノマド生活をしているためできるだけ物を増やさないようにしており、他に買った物といえばドライヤーくらい。生活に必要な細々したものは近所の「ダイソー(daiso)」で。お菓子や食品は大型スーパー「eマート」やプライベートブランドスーパー「ノーブランド(No Brand)」などで購入しています。
ソウルにはコンビニもいたるところにあり何でも便利に手に入りますが、物価上昇が激しくて日本よりも高く感じることが多いです。特にぎょっとさせられるのがパンやスイーツ、カフェの値段。ひとつ500円もするパンや1000円超えのケーキも珍しくありません。
オンマの家庭料理に感激
下宿では朝食と夕食が用意されます。おばさん手作りの家庭料理はバラエティに富んでおいしく、毎日楽しみ。普段はキムチやナムルをはじめ5、6種類のパンチャンが並びますが、時々サムギョプサルやプルコギなどのスペシャルメニューが登場するとさらにテンションが上がります。
おばさんは顔を合わせるたびに「ごはん食べた?」「いっぱい食べてね~」と声をかけてくれます。「ごはん食べた?」は韓国ではあいさつ代わりでよく耳にするフレーズ。この国の人たちにとって、食べることは大切なこと。みんな気持ちいいほどよく食べるので、食いしん坊な私はとてもシンパシーを感じています。
週末は下宿で食事が出ないので、あちこち食べ歩いています。レストランや食堂、市場の屋台にディープな酒場まで。韓国料理が大好きな私にとって、星の数ほどの食べ物屋さんがあるソウルは夢のワンダーランド。好奇心と食欲が満たされる喜びを日々かみしめています。
次回はいよいよ、想定外だらけの学校生活について書いてみたいと思います。
文・写真/坪井由美子
ライター&リポーター。ドイツ在住10数年を経て、世界各地でプチ移住しながら現地のライフスタイルや文化、グルメについて様々なメディアで発信中。著書『在欧手抜き料理帖』(まほろば社)。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。