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水引を用いて、日本文化や四季を表現する水引作家の田中杏奈さん。毎月、季節を彩る美しい水引作品をご紹介するとともに、日本文化や習わし、それらが古より引き継がれてきた背景にある日本人の心について想いを語っていただきます。記事の最後には、水引にまつわる豆知識も掲載しているので、これを機に水引の制作に親しんでいただけたら嬉しいです。

【日々を紡ぐ、季節の水引】
第7回 秋の訪れを知らせてくれる草木の紅葉

文・写真 田中杏奈

彩り満ちてゆく秋の色彩が愉しみな、霜降(10/23頃)から立冬(11/7頃)。豊かな実りに包まれる大地は緑から柔らかであたたかい黄色や黄金色、茶色へと変わり、大きな自然のサイクルは、枯れて散り静寂の冬へと向かう後半戦へ移ります。

日本の伝統色には、落ち葉の色であり燻んだ赤みの効いた黄色を表す「朽葉色」という色があります。平安の人々は、朽ちてゆく枯葉の微妙な色にそれぞれ名前を付け、「朽葉四十八色」として、繊細な秋の風情を愉しみました。色褪せ染まってゆく木の葉を表す「朽葉」にも、青み(緑)が残る染まり始めを「青朽葉」、黄色く紅葉した「黄朽葉」、真っ赤に染まった「赤朽葉」と三つの段階があると考えていたようです。

秋の軽井沢

頬を優しく軽く撫でゆく金風が、そっと散らすのはイロハモミジ。カラッと乾いた心地よい風に運ばれてくる甘い金木犀の香り。耳を澄ますと聞こえる秋声、幻想的な茜雲。哀愁のなかじわりじわりと色が消え、命が土に還っていく冬隣は、どうしようもなく切なく心が掴まれる。

これまで訪れた中で、一番魅せられた「秋」は軽井沢でした。背の高い針葉樹が並ぶ遊歩道に落ちる心地よい木漏れ日と、目が離せない見渡す限りの紅葉の帳。いつまでも眺め見上げながら散策していたくなる秋の森。8年前、上京した時から毎年のように訪れ、長男1歳の誕生日に家族で撮った記念写真も、思い出深い軽井沢の森を選びました。

散って間もない鮮やかな落ち葉が敷き詰められた上をサクサクと音を立て踏み進めながら、美しいモミジや可愛らしい木の実を息子と一緒に探した、懐かしく尊いひと時のことは、これから何年経っても、ずっと褪せない記憶になるはず。綺麗だね、と見付けた中に、2色や3色に染まったモミジがありました。紅葉は、最低気温が8°C前後まで下がることで色付き始め、日に当たる程赤く染まるとのこと。複数色に染まったモミジは、背の高いカラマツやシラカバの下に隠れたまま部分的に木漏れ日が当たることで、複雑な色の紅葉が生まれたのでしょうか。

美しく紅葉してゆく植物たちの中でも、先陣を切り真っ先に冬支度を始めるのは、樹木よりも足元の草たち。「草紅葉」といい、秋の訪れを知らせてくれる一番手。草紅葉の別名は「草の錦」と言い、山肌や草原一面を染め上げる黄金色は正に錦のよう。他にも、「桜紅葉」「銀杏紅葉」など、様々な植物が紅葉する様に一つ一つ名前がついています。

紅葉の結び

今回の水引細工は、秋の森をひと所に集めたような、吹き寄せです。中央を四つ編みで結ぶ「葉結び」、「叶結び」をアレンジしたモミジの結び、「菊芯」をアレンジした松ぼっくり、木の実のようなコロコロ転がる「玉結び」など、様々な結び方を使い、それぞれのモチーフを結んでいます。どの結びも、ただ対称に整え造形するだけではなく、自然が形作るように、立体的にしたり、左右で表情や丸みの形を変えたり、あえて葉の裂け方や大きさを変えたり、変化を付けながら結んでいます。

このように様々なモチーフを寄せ集め、画を作る時は、まず水引の色選びから。今回は秋の森の多彩さを愉しんでもらえたらと思い、少し色数多めに9色選びました。全体的にこっくりとした秋らしい深みのあるカラーを中心に、キラッと目を引く光系の水引も少しですが程よく足しています。色を選んだら次は色の割合、9色をどれ程の割合(モチーフの個数)で結ぶのかを考えます。画の中で最も印象づけたい色と、2番目に目を引く色、3番目、4番目、と順番を決め、結びの個数を決定していきます。今回は、主役の色を胡桃色(一番大きな葉)、2・3番目を伽羅色(橙)・天鵞絨(深緑)、と決め、その3色の世界観に合わせるように、他の色を少しづつ結び足しながらバランスを整えていきました。

霜降と立冬の水引選び

今や水引には数百種類の色があり、毎シーズン、各社から新色がリリースされています。どの色も、基本は各WEB SHOPで購入できますが、水引を始める方がまず悩むのは、膨大にある色の中から、どの色を選び購入するのか。今回はその中から、それぞれの季節に合う色合わせを選んでみました。

霜降(10/23頃~)の色選び

山装う頃、深まる秋らしい紅葉色のアソート。

・絹巻水引 赤
・絹巻水引 金茶
・絹巻水引 茶
・絹巻水引 ベージュ

立冬(11/7頃~)の色選び

色なき静寂の季節、冬の入り口のアソート。葉が落ちきった木々の間を冷たい風が音を立てて通り過ぎていく。

・花水引 胡桃色
・花水引 百塩茶
・花水引 茶鼠
・プラチナ水引 ピュアホワイト

巡る四季の色や、古くからの営みに想いを馳せながら、豊かな結びのひと時を愉しまれてくださいね。

■葉結び、叶結び、菊芯、玉結び の掲載がある書籍
『衣食住を彩る水引レシピ』 田中杏奈著
https://mizuhikihare.theshop.jp/items/54780057
■水引の購入先
そうきち https://www.mizuhiki1.com/ 「プラチナ水引」「絹巻水引」
さんおいけ http://www.sun-oike.co.jp/ 「花水引」

田中 杏奈(たなか・あんな)
水引作家、mizuhiki hare designer、水引教室「晴れ」主宰。幼少期から日本の伝統文化に興味を抱く。広告代理店営業職に従事する中、産休中の2016年に文房具店で水引に出会い、作品制作をスタート。独学で学びながら作品を発表。広告代理店退職後はフリーランスとして、書籍の出版、ワークショップイベントの開催、水引教室の主宰など幅広く活動。
HP:https://www.mizuhikihare.com/
Instagram:https://www.instagram.com/__harenohi/

田中杏奈さんのインタビュー記事はこちら https://serai.jp/kajin/1116135

 

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