暮らしを豊かに、私らしく

水引を用いて、日本文化や四季を表現する水引作家の田中杏奈さん。毎月、季節を彩る美しい水引作品をご紹介するとともに、日本文化や習わし、それらが古より引き継がれてきた背景にある日本人の心について想いを語っていただきます。記事の最後には、水引にまつわる豆知識も掲載しているので、これを機に水引の制作に親しんでいただけたら嬉しいです。

【日々を紡ぐ、季節の水引】
第2回 紫陽花で迎える梅雨の始まり

文・写真 田中杏奈

春と夏をつなぐ長雨。

梅雨の別名に「青梅雨(あおつゆ)」という言葉があります。これは、初夏の、水々しくはつらつと育つ青葉に降る雨を指す言葉。若く張りがある葉に落ちる雨粒は、葉の表面に落ちて元気に跳ね、パラパラと音を鳴らします。濡れた青葉はキラキラと艶やかに光りながら、より一層生き生きと枝葉を揺らします。

私は小学生の頃から写真が好きで、よくカメラを持って出かけていました。過去の撮影記録を見ていると、故郷の淡路島にいた頃も、東京に来てからも、梅雨時期の、なんでもない葉や木々の写真がたくさんあることに気付きます。生まれたばかりの青葉に落ちる翠雨が美しく、いつもとは違う特別な景色であることを無意識に感じていたのかもしれません。

六月の雨を魅力的に感じた理由のもう一つは、ポロポロ·パラパラという軽快で心地よい雨音。他の季節の雨と明確に何が違うかと言われると、なんとなく違う、ぐらいの回答しか持っていなかった頃、森下典子さんの「日日是好日」にあった六月の雨を語る一節を読みました。

パラパラパラパラ·····
豆が当たるような音で、大粒の雨が、ヤツデの葉を打っている。~~「梅雨の雨だわね」先生が誰に言うともなくつぶやいた。そのとき、気づいた。(そういえば、秋雨の音とはちがう······)十一月の雨は、しおしおと寂しげに土にしみ込んでいく。なぜだろう?(あ! 葉っぱが枯れてしまったからなんだ・・・。六月の雨音は、若い葉が雨をはね返す音なんだ! 雨の音って、葉っぱの若さの音なんだ!)  ― 森下典子著『日日是好日 お茶が教えてくれた15のしあわせ』(飛鳥新社 124頁)

日本の雨には折々の美しい名前が付いていますが、雨音にまで心を寄せた感受性の深さと、季節や歳時に丁寧に寄り添い大切に愉しんできた日本人の豊かさを想い、私自身も、身の回りの小さな変化に気付き愉しめるようになりたいと改めて感じた一節でした。

芒種と入梅

季節は小満から芒種へ、新緑から万緑へと移り変わり、命が満ち満ちてゆきます。暦上での梅雨の始まりであり、季節の移り変わりの目安となる雑節の一つである「入梅」は、今年は6月11日です。

二十四節気とその季節の水引結びを掲載した著書には、「芒種」の項を、以下のように書かせていただきました。

「芒(のぎ)とはイネ科の植物の種を蒔いたり、田植えを行う目安とされてきました。梅雨入りも間近にせまり、紫陽花の花が色鮮やかに咲く季節でもあります。」― 田中杏奈著『水引で結ぶ二十四節気の飾り』(日東書院本社 40頁)

梅雨といってまず思い浮かぶのは、雨の下でしっとりと咲く青や紫の美しい紫陽花ではないでしょうか。日本の伝統色には「紫陽花青(ほんのりとくすみがかった明るい青紫色)」という色がある程、日本人にとっては馴染み深く愛されている花です。今回は、そんな、淡く優しい紫陽花のブーケを結んでみました。

紫陽花の結び

紫陽花のブーケを結ぶ時に思い出したのは、数年前に訪れた、“あじさい寺”と呼ばれる「明月院」(鎌倉)の紫陽花。当日は、例に漏れずしとしとと連日降り続く雨の最中、霧が漂う境内を埋め尽くす2500株の青いあじさいは、とても美しく幻想的でした。

水引には「青系」のカラーバリエーションが元々少ないため、限られた色の中からでしたが、今回は「月白」という淡い水色の水引を中心に、色を選びました。もう一つのブーケは「薄桜」という淡い紫色の水引です。葉には、深くはっきりした青みがかった緑色を選び、生命力あふれるような夏らしい緑で、淡い花とのメリハリをつけています。ちなみに、水引に青系が少ないのは、本来の使用用途から考えると必要がない色だったから。本来は慶弔の場で使われるものなので、祝い事に使われる赤や緑等には本当に僅かな色差の多数の色がありますが、青などの慶弔色ではないものは色数が少ないのです。

叶結び

今回の紫陽花の結び、主役の結びは「叶結び」。飾り結びや紐の結びでよく見る結びで、水引でも結べますが、結びの所作が独特で少しコツが必要な結びです。結び目の表面が「口」、裏面が「十」となっており、「叶」の文字になることから、願いが叶うという意味が込められた結び方です。

叶結びは様々な形があり、一つ輪のものから四つ輪のものまで作ることができますが、今回は、「竹結び」とも呼ばれる三つ輪の叶結びに少しアレンジを加え、四つ葉の花を表現しました。そんなお花をたくさん作り、花束のように束ね、薄葉紙やハトロン紙(片面に光沢の付いた透明感のあるクラフト紙)で包んで、水引のブーケを作ってみました。

小満と芒種の水引選び

今や水引には数百種類の色があり、毎シーズン、各社から新色がリリースされています。どの色も、基本は各WEB SHOPで購入できますが、水引を始める方がまず悩むのは、膨大にある色の中から、どの色を選び購入するのか。

今回はその中から、それぞれの季節に合う色合わせを選んでみました。

小満(5/20~)の色選び

日を浴びた草木に命が満ちて輝く様子や、五月晴れの爽やかな青空、そして紫陽花のブルーをイメージした、夏の入り口のアソートです。

·京水引  月白
·プラチナ水引 シルバー
·花水引 瑠璃色
·花水引 琵琶色

芒種(6/5~)の色選び

農家にとって、とても重要だった田植えの時期。稲の若々しい緑や、豊かな土の色をイメージしながら選んだアソートです。

·絹巻水引 草色
·花水引 若苗色
·花水引 百塩茶
·特光水引 アイボリー

巡る四季の色や、古くからの営みに想いを馳せながら、豊かな結びのひと時を愉しまれてくださいね。

記事に出てきた情報の詳細はこちらよりご覧ください。

『水引で結ぶ二十四節気の飾り』(田中杏奈 著)
日東書院本社

Amazonで商品詳細を見る

楽天市場で商品詳細を見る

【水引セット】水引で結ぶ 二十四節気の飾り
https://mizuhikihare.theshop.jp/items/34739779

■「三つ輪の叶結び(竹結び)」(本記事の結びは、三つ輪から少しアレンジを加えています)

■水引の購入先
有高扇山堂 https://aritaka.jp/ 「絹巻水引」「特光水引」
さんおいけ http://www.sun-oike.co.jp/ 「京水引」「花水引」「プラチナ水引」

田中 杏奈(たなか・あんな)
水引作家、mizuhiki hare designer、水引教室「晴れ」主宰。幼少期から日本の伝統文化に興味を抱く。広告代理店営業職に従事する中、産休中の2016年に文房具店で水引に出会い、作品制作をスタート。独学で学びながら作品を発表。広告代理店退職後はフリーランスとして、書籍の出版、ワークショップイベントの開催、水引教室の主宰など幅広く活動。
HP:https://www.mizuhikihare.com/
Instagram:https://www.instagram.com/__harenohi/

田中杏奈さんのインタビュー記事はこちら https://serai.jp/kajin/1116135

 

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