展示、研究、教育活動にも力を入れた「総合型植物園」を目指す
標本室はハーバリウムとも呼ばれる。整理済み、未整理を含め膨大な数の標本が積みあがった牧野の自宅は、個人では例のない規模のハーバリウムだった。その数およそ40万枚といわれる。
牧野の全生涯を集積したものともいえるが、それらを学術評価に堪える形に整理するには、94年の人生では足りなかった。
牧野亡き後、標本や蔵書は遺族から公的機関に寄贈された。標本の大半は東京都立大学で整理と永久保存作業が進められた。重複標本約5500点と4万5000点余りに及ぶ蔵書・植物図は、牧野の業績を称えて作られた高知県立牧野植物園が引き継いだ。
「この植物園は、牧野先生が思い描いていた植物への夢をできる限り形にしています」
こう語るのは高知県立牧野植物園17代園長の川原信夫さんだ。
牧野植物園は、四国霊場第三十一番札所・五台山竹林寺南の坊跡周辺を譲り受け昭和33年(1958)に開園。生前に打診を受けた牧野が希望した場所だった。
「フラワーパーク型の植物園も多い中で、ここは総合型植物園を目指しています。多くの方々のやすらぎにつながる展示も行ないつつ、植物学に貢献する基礎研究や、未来の牧野富太郎を生み出す教育活動にも力を入れています」
何度でも足を運びたくなる
約8ヘクタールの園地には、牧野の生涯と業績、植物について学べる施設のほか、テーマ別に趣向を凝らしたさまざまな植栽ゾーンがのびやかに広がっている。
「植物の姿は日々変化しますので、何度来ていただいても新たな発見があります。一日の中でも、朝と夕方では景色が変わります」
一度では回りきれず、何度も足を運ぶ人が少なくないという。
高知県立牧野植物園
高知県高知市五台山4200-6
電話:088・882・2601
入園料:730円
開園時間:9時~17時
休園日:12月27日~1月1日
※メンテナンス休園あり。
取材・文/鹿熊 勤 撮影/藤田修平
※この記事は『サライ』2023年6月号より転載しました。