暮らしを豊かに、私らしく

水引を用いて、日本文化や四季を表現する水引作家の田中杏奈さん。毎月、季節を彩る美しい水引作品をご紹介するとともに、日本文化や習わし、それらが古より引き継がれてきた背景にある日本人の心について想いを語っていただきます。記事の最後には、水引にまつわる豆知識も掲載しているので、これを機に水引の制作に親しんでいただけたら嬉しいです。

【日々を紡ぐ、季節の水引】
第6回 十五夜に供える月見団子

文・写真 田中杏奈

目が眩むような強烈な光の下、慌ただしく過ぎた明るく楽しい夏の終わり。高揚した心が再び落ちついてゆく中で、大きな自然のサイクルは、実りの季節、天高く馬肥ゆる秋を迎えます。カラリと朽葉を揺らす心地よい秋の風を、音調や音階を表す「律」に例え、「律の風(りちのかぜ)」と言うそう。粧う山の木々の間を縫って、乾いた落ち葉を巻き込みながら吹き抜ける秋風の音を、秋の調べとしたのでしょうか。秋澄む、清らかな大気を包み込む甘い金木犀の香りが、切なく豊かな季節の訪れを教えてくれます。

秋分

「昼と夜の長さが同じになり、この日から次第に夜の時間が長くなります。秋が深まりをみせる、陰暦8月15日の夜に見える月を中秋の名月と呼び、収穫の感謝祭として伝承されてきました。― 田中杏奈著『水引で結ぶ二十四節気の飾り』(日東書院本社47頁)」

9月23日、季節は秋の真ん中「秋分」を迎えます。また、秋分の前後三日を合わせた七日間はお彼岸。春のお彼岸と区別するために、秋のお彼岸は秋彼岸と言います。よく「暑さ寒さも彼岸まで」と言いますが、日中はまだ暑くても、次第に朝晩が涼しく過ごしやすくなり、本格的に秋めいてくる季節です。あっという間に日が傾いて行く秋の暮れ合いを、井戸に落ちる水汲み桶(鶴瓶)に見立て、釣瓶落としと例えられることも。太平洋を望む故郷の海辺で、毎年のように眺めた情緒的で美しい茜雲は、いつまでも鮮明に思い出せる日本の色の記憶です。

中秋の名月

一年で月が最も美しく見える秋、夜長を愉しむお月見は平安時代から続く習わしです。陰暦での秋は7・8・9月、その真ん中の日である8月15日を「中秋」と呼び、その晩に上がる月のことを「中秋の月」と呼んでいました。新暦だと今年の中秋の名月は9月29日です。美しい月を愛でた平安の人々は、十五夜の満月の前後の月にも、一夜一夜に名前をつけました。陰暦8月14日には、満月に近いという意味の「小望月(こもちづき)」、陰暦8月16日は「十六夜(いざよい)」、陰暦8月17日には「立待月(たちまちづき)」、その後も毎夜、18日「居待月(いまちづき)」、19日「寝待月(ねまちづき)」、20日「更待月(ふけまちづき)」と続き、1か月後の陰暦9月13日の満月は「十三夜」と名付けられ、中秋の名月の次に美しいとされました。

また、十五夜と十三夜は「二夜の月(ふたよのつき)」と言い、どちらかを贔屓して片方だけ見ることを「片見月」と呼び嫌っていたそう。現代人が受け取る1日の情報量は平安時代の一生分、と言われますが、平安の世で見上げる月は、それはそれは明るく神秘的で、人々を魅了する存在だったのでしょう。今か今かと昇る月を見守る時間すらも愛おしく思えるような、風情ある名前や、情報が少ない時代だからこそ生まれた、自然の一時一時を愉しむ深く豊かな感性にも想いを寄せながら、今年の十五夜を心待ちにしたいと思います。

月見団子の結び

このような習わしは、農作豊穣の願いが込められており、農作業に従事する人々は、欠けたところがない満月を豊穣の象徴としていました。十五夜には、収穫の感謝や豊作への願いを込め、月見団子や里芋・くり・柿等、旬の収穫物をお供えしました。お月見に欠かせないススキは神様の依り代として飾られ、魔除けの役割がありました。また、この時期稲穂はまだ穂が実る前の時期なので、穂の出たすすきを稲穂に見立てて飾った、とも言われています。

今回の水引細工は、縦連続あわじ結びをいくつも組み合わせながら球体を作り、串に刺して月見団子に仕上げました。球体の作り方は、古くからある「風鈴」の細工の結び方をアレンジしたもの。結びが組み合い、先端が放射状に伸びている結びなので、結び進めていけば自然と立ち上がって立体的になっていく結び方です。

白団子に蓬団子、少し遊びが効いた二色の団子等、どれも深みがあって馴染みやすいニュートラルカラーで組み合わせてみました。

秋分と寒露の水引選び

今や水引には数百種類の色があり、毎シーズン、各社から新色がリリースされています。どの色も、基本は各WEB SHOPで購入できますが、水引を始める方がまず悩むのは、膨大にある色の中から、どの色を選び購入するのか。今回はその中から、それぞれの季節に合う色合わせを選んでみました。

秋分(9/23)の色選び

澄んだ夜空に浮かぶ満月を見上げる、秋分の時。深い夜の闇に輝く月の光や金木犀の花の色を合わせた秋らしいのアソート。

·絹巻水引 菜の花
·プラチナ水引 シルバー
·絹巻水引 ナンド
·京水引 石竹色

寒露(10/8~)の色選び

農作物の収穫が最も盛んになる頃。夕焼けのオレンジ、栗や柿など秋の味覚をイメージした深みのあるアソート。

·花水引 百塩茶
·京水引 洒落柿
·花水引 海松茶
·プラチナ水引 ブロンズ

巡る四季の色や、古くからの営みに想いを馳せながら、豊かな結びのひと時を愉しまれてくださいね。

■縦連続あわじ結び方 掲載がある書籍
『衣食住を彩る水引レシピ』 田中杏奈著
https://mizuhikihare.theshop.jp/items/54780057
■引用した書籍
『水引で結ぶ 二十四節気の飾り』田中杏奈著
https://mizuhikihare.theshop.jp/items/34739779
■水引の購入先
そうきち https://www.mizuhiki1.com/ 「プラチナ水引」「絹巻水引」
さんおいけ https://kisuu.kyoto/ 「花水引」「京水引」

田中 杏奈(たなか・あんな)
水引作家、mizuhiki hare designer、水引教室「晴れ」主宰。幼少期から日本の伝統文化に興味を抱く。広告代理店営業職に従事する中、産休中の2016年に文房具店で水引に出会い、作品制作をスタート。独学で学びながら作品を発表。広告代理店退職後はフリーランスとして、書籍の出版、ワークショップイベントの開催、水引教室の主宰など幅広く活動。
HP:https://www.mizuhikihare.com/
Instagram:https://www.instagram.com/__harenohi/

田中杏奈さんのインタビュー記事はこちら https://serai.jp/kajin/1116135

 

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