文・石川真禧照(自動車生活探険家)

エンジンを冷やすラジエターのないEVは、車体前部に空気取り入れのためのグリルがないのもデザインの特徴。
車名のシール(SEAL)はアザラシのこと。車体全体のイメージもアザラシを連想させる。デザインは、アルファロメオなどでチーフデザイナーを務めたドイツ人が担当。

ここ数年、世界中の自動車メーカーから電気自動車が発表され、日本にも新型車が次々と上陸している。EV(電気自動車)は、走るために化石燃料を必要とせず、電気を用いる。エンジンではなくモーターで車を動かす。だから走行中にCO2(二酸化炭素)などの有害物質を出さないことから注目されている。

EV車の多くは全高が1.6m以上のSUV(多目的スポーツ車)などで、4ドアセダンというのは、あまり見かけなかった。その理由として、EVは床下に動力源となる電気を発生させる電池を積む必要があるから。長距離を走りたい車はそれだけ電池を多く積まなければならなかった。

BYDのシールは独立したトランク部分がある3ボックスカー。その大きさは、日産スカイラインとほぼ同じくらいになり、ミドルクラスの4ドアセダンだ。以前はこのクラスでのガソリンやディーゼルの4ドアセダン車種も多かったが、SUVやミニバンの人気が高まると、販売台数も落ち、生産中止になる車が多く出た。とくに日本では販売台数の動きにメーカー自身が敏感で、販売不振は即生産中止になるので、4ドアセダンはマイナーな車種になってしまった。

車体の大きさは日産スカイラインGTより全長は10mm短い4800mm、全高は20mm高い1460mm、ホイールベースは70mm長い2920mm。全幅は1875mmでスカイラインGTより55mm広い。
シールは1モーターの後輪駆動と、2モーターの4輪駆動が選べるが、外観上の違いはトランク左下のAWDの有無だけ。

しかし、車造りの基本は4ドアセダン。そこでBYDは電気自動車を造るにあたり、4ドアセダン、それもスポーツセダンの開発を目指した。もともとBYDは電池を製造するメーカーだったので、EVセダンも独自の技術で開発した。

電気自動車で難しいのは、電池の大きさ。長距離を走れるEVは、多くの電池を積む必要がある。そうなると、車は大きくなり、重くなる。重くなるとそれに見合うだけの電池が必要になる。そうなると車が大きくなる、という繰り返しだ。

その点、BYDは独自の技術で、容量が小さくて、高性能な電池を開発するのに成功した。だから全高が低いセダンのEVができた。車体も中型。しかも、高性能電池を前後の車軸の上に載せたので、4WDのスポーツセダンが完成した。

BYDの動力源は前218ps、後ろ313psという強力なモーター。ちなみにサイズが似ている日産スカイラインは、最強の400Rで、V6、3.0Lツインターボ、405ps。BYDシールの高性能さがわかる。

運転席に座ってみると、体をしっかり支えてくれるスポーツシートの形状が心地よい。このシートには換気装置が内蔵されており、座席全体から風が吹き出し、夏の暑さから体を守ってくれる。

前席の座席表面はナッパレザーを使用し、キルティング加工を施してある。席は暖房だけでなく、通風機能も備わり、夏場でも快適。安全装備も2023年のユーロNCAPで最高の5ツ星を獲得している。

走行モードはECO/STANDARD/SPORT。ハンドルとブレーキをコンフォート/スポーツの2モードで使い分けることができる。STANDARDモードとコンフォートモードで走りはじめる。

乗り心地はやや硬め。路面のザラつきと細かい上下動が伝わってくる。高速になると路面の凹凸に対しての上下動も大きくなるが、抑えが効いており、乗り心地はフラット感がある。走行モードをSPORTにし、ハンドルとブレーキもスポーツモードにすると、ゴツゴツ感と、操舵力に重さが増す。コーナーでのハンドルの切りこむ力を要するようになる。

動力性能は、スポーツセダンを名乗るだけに、その名に恥じない実力を見せてくれる。0→100km/h加速は、なんと3秒台。しかもそのチューニングは、EVにありがちなアクセルオンでトルク全開といった、血の気が引くような加速ではなく、スタートからの瞬間の加速はガンッと立ち上がるのではなく、スーッと走り出す。アクセルを踏むと2歩目から超加速を開始する、というセッティング。EVスポーツセダンではあるが、レシプロエンジン的な加速感を演出していて、乗りやすいし扱いやすい。これは、全輪駆動(AWD)だが通常走行は後輪のモーターを使用し、力が必要なときに前輪のモーターも駆動力を発生させるというセッティングも影響している。

ブレーキは大径のディスクを装着しているが、高速での初期の効き方に少し甘さを感じた。

ダッシュボードの形状は左右対称。運転席の前には10.25インチ、中央には15.6インチのスクリーンが備わる。日本仕様は右ハンドル、ウインカーレバーも右コラムで、日本車と同じ方式。
中央のスクリーンはスイッチ操作で回転し、タテ長にもなる。地図などを見るときに便利。
シフトレバーはクリスタルをモチーフにした電動シフトレバー。左下にドライブモードの切り換えダイヤルがある。

内装のデザインや質感などのレベルは高く、チープな感じはしない。後席も足元や頭上の空間に余裕があり、リラックスできた。背もたれは前倒しすればトランクと一体になる。このトランクは床下収納スペースも、深さが約13cmほどあり、200V充電用のケーブルなどを収納できる広めのスペースが確保されている。

後席は足元も平らで大人3人掛けが可能。背もたれは6対4分割で前倒しでき、後部荷室と一体になる。内装色は黒のみ。外板色は5色用意されている。
車体後部のトランクは余計な張り出しも少なく、左右幅も1m以上を確保。床面下にもサブトランクがあり、充電ケーブルなどを収納できる。
車体前部にもフタ付の荷物スペースがある。

ちなみに自宅で200V充電(3kw)すると、電気量残り68%から100%充電まで12時間45分と表示された。電費は5.8km/kwhから6.2km/kwhを記録した。5km/kwh台なら優秀とされている電費で、これは良い数値だろう。

給電は急速と200Vの両方を使える。急速充電は105kwの大容量にも対応。200V充電では充電量68%から100%まで約13時間を要した。電池はBYD自社製。

ここでEVに乗りたい、という人のために賢い購入方法を考えてみたい。

シールに限らないが、いまEVを所有するのに最適なのは、一括払いでもローンを組んでの購入でもない。残価設定型のリースのほうが良く、これは販売会社もすすめている。現状のEVは日進月歩の状態なので、1~2年も経過すれば性能が見劣りしてくるのは明らかだ。そこで、新型に乗り換える。そのときの下取り価格をリース購入時に明確にしておくのがポイント。こうすれば、常に最新のEVに乗り続けることができる。国や自治体から補助金が出ているが、これを使うかはそのEVに乗る期間が重要になる。というのも補助金での購入は所有する年数が決められており、その間に手放すことができない場合があるからだ。解約金を支払わなければならないこともある。

EVの進化は早い。最新車種に乗り替えていくのがEVを楽しむ方法といえる。

BYD/シール AWD

全長×全幅×全高4800×1875×1460mm
ホイールベース2920mm
車両重量2210kg
モーター前:かご型三相誘導型/後:永久磁石同期型
最高出力前:217ps/後:312ps
最大トルク前:310Nm/後:360Nm
駆動形式4輪駆動
一充電走行距離575km
使用電池/容量リン酸鉄リチウムイオン電池/82.56kwh
ミッション形式電子制御式1段固定
サスペンション形式前:ダブルウイッシュボーン/後:マルチリンク式
ブレーキ形式前:ベントディスク/後:ドリルディスク
乗員定員5名
車両価格(税込)605万円
問い合わせ先カスタマーセンター  0120-807-551

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。

撮影/萩原文博

 

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