(C)Thomas Legrand

ルイ・ヴィトンが1988年に発表し、時計業界に衝撃を与えたメゾン初の腕時計「モントレー」が、限定188本の復刻モデルとして蘇りました。オルセー美術館を手がけた伝説の建築家ガエ・アウレンティがデザインした独創的なペブルシェイプケースに、制作に約20時間を要するグラン・フー エナメルのダイアルを組み合わせ、自社製ムーブメントを搭載しています。

文/土田貴史

天才建築家が描いた、時を超える美しさ

1988年、ルイ・ヴィトンは腕時計という新たな領域への挑戦を、ひとりの天才建築家との出会いから始めました。その人物こそ、イタリア人建築家兼デザイナーのガエ・アウレンティです。

ガエ・アウレンティ (C)Getty Images

アウレンティは、パリの歴史的な駅舎を現代美術の殿堂へと生まれ変わらせた、オルセー美術館改築プロジェクトを完成させたばかりでした。1960年代から独創性に富んだ作品を数多く生み出してきた彼女の建築哲学は、「空間に新たな生命を吹き込む」こと。その視点が、ルイ・ヴィトン初の腕時計「LV I」と「LV II」のデザインに結実します。

アウレンティが創り出したのは、時計の常識を覆すペブルシェイプ(小石型)のケースでした。ラグ(ベルト取り付け部)を持たない滑らかな曲線美は、まるで彫刻作品のよう。12時位置に配されたリュウズは懐中時計へのオマージュであり、時計が辿ってきた歴史への敬意を表しています。この革新的なデザインは、瞬く間にコレクターたちを魅了し、“モントレー”という愛称で呼ばれるようになりました。フランス語で“時計”を意味する「montre」のアメリカ英語発音に由来するこの呼び名は、オリジナルモデルが「Montre 1」「Montre 2」と呼ばれていたことから生まれたものです。

LV I Historical Timepiece from 1988 参考品   (C)Thomas Legrand

伝統技法と現代技術の融合

今回発表された「ルイ・ヴィトン モントレー オトマティック イエローゴールド」は、オリジナルの精神を受け継ぎながらも、ルイ・ヴィトンのウォッチメイキングアトリエ「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」が誇る最高峰の技術で進化を遂げています。

最も注目すべきは、ダイアルに採用されたグラン・フー エナメルでしょう。この伝統技法は、約20時間という気の遠くなるような作業時間を要します。ホワイトゴールドのダイアルベースに、極細のブラシで何層ものエナメルを手作業で塗布し、800から900度の高温で慎重に焼成する工程を繰り返すのです。

エナメル(ガラス釉薬)をゴールドの文字盤に塗布する作業 (C)Régis Grolay

特にホワイトは、完璧に仕上げるのが最も困難な色合い。顕微鏡でエナメルパウダーの不純物を検査することから始まり、薄いベース層を作った後、さらに4層の重ね塗りを繰り返します。その都度焼成を挟み、望ましい深みと不透明度を追求していきます。焼成のタイミングを誤れば、すべてが水の泡。まさに職人の技と経験が試される工程です。仕上げ工程では、720度で10回もの焼成を重ねることで、オパールのような特別な光沢と輝きが生まれます。この独特の豊かさと深みは、手作業によるエナメル塗布でしか実現できません。

レイルウェイインデックス(線路のような表示形式)を用いた文字盤 (C)Régis Grolay

ダイアルには、オリジナルモデルを想起させるレッドとブルーのアクセントが施されています。レッドラッカーをまとったホワイトゴールド製の針と、ブルースティールの秒針が、ホワイトエナメルの上で優雅なハーモニーを奏でます。

自社製自動巻きムーブメント「LFT MA01.02」 (C)Régis Grolay

オリジナルの「LV I」「LV II」がクォーツムーブメントを搭載していたのに対し、復刻モデルは自社製自動巻きムーブメント「LFT MA01.02」を心臓部に据えています。サーキュラーグレイン仕上げのメインプレート、サンドブラスト加工のブリッジなど、目に見えない部分にまで職人技が光ります。特筆すべきは、メゾンのモノグラムを連想させるV字型の切り込みを施した18Kローズゴールド製のローター。バレル下には「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」の品質の証である「LFT」の刻印が控えめに施されています。28,800振動/時、45時間のパワーリザーブという実用性も、現代のライフスタイルに寄り添う配慮でしょう。

膨らみのある独特なケース形状。ストラップをホールドするラグがなく、直接ケース下部に組み込まれている  (C)Thomas Legrand

ケースは39mmのイエローゴールド製。光を受けて美しく輝く丸みを帯びたペブルシェイプは、オリジナルのフォルムを忠実に再現しています。幅広の巻き上げリュウズには「クル・ド・パリ」テクスチャーが特別に施され、触り心地の良さと独特の情感を醸し出しています。

クローズドケースバックには「1 of 188」の刻印。この数字は、オリジナルモデルがデビューした1988年へのオマージュです。レザーストラップの下にさりげなく隠されたこの刻印は、身に着ける人だけが密かに楽しめるディテールとなっています。

ケースバックには限定数のシリアルナンバーが刻まれる (C)Régis Grolay

「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」のアーティスティック・ディレクター、マチュー・エジはこう語ります。「このウォッチは、オリジナルのデザインとエスプリを尊重しながら、現代風に再解釈することで、過去と現在が調和した共生を表現しています」

37年前、ガエ・アウレンティが生み出した型破りなビジョンは、今なお色褪せることなく、むしろ現代の最高峰の技術を得て、新たな輝きを放っています。これこそが、真の意味でのタイムレスな美といえるでしょう。

ルイ·ヴィトン モントレー オトマティック イエローゴールド
自動巻き(Cal.LFT MA01.02)、パワーリザーブ45時間、グラン・フーダイアル、18Kイエローゴールドケース(径39mm、厚さ12.2mm)、カーフレザーストラップ、50m防水、850万3000円(税込)、世界限定188本。問い合わせ/ルイ・ヴィトン クライアントサービス Tel.0120-00-1854
www.louisvuitton.com

 

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