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文・写真/新宅裕子(海外書き人クラブ/イタリア在住ライター)

誰もが知っているイタリア語、パスタ。日本ではスパゲッティやマカロニなどがよく使われますが、イタリアには実に300種類以上のパスタが存在すると言われています。地域ごとの郷土食が根強いイタリアには数々のご当地パスタもあり、各地を周遊しながらその地のパスタを食べるのも旅の醍醐味です。そこで、今回はヴェネト州に来たら絶対食べたいパスタ代表格「ビーゴリ」をご紹介します。

食べ応え抜群の極太ロングパスタ、ビーゴリ

ヴェローナ名物、ロバ肉のラグーと和えたビーゴリ。

北イタリアに位置するヴェネト州。州都はかの有名な水の都ヴェネツィアです。かつてはヴェネツィア共和国として栄えており、シンボルは誇り高きライオン、県民性ならぬ州民性は強じん。イタリア一(いち)、酒豪が多い州だなんて言われます。

そんなヴェネト州のパスタと言えば、有無を言わさず豪快なビーゴリです。スパゲッティのように長いビーゴリの特徴は、もちっと食べ応え抜群の極太麺。表面がザラザラとしていてソースがからみやすく、沿岸部ではイワシやアンチョビ(カタクチイワシの塩漬け)などをくずした塩気の強いソースと和えてよく食べられます。見た目は地味で素朴ながらも立派な一皿となるのです。一方、ヴェローナなどの内陸部ではミンチ状の鴨肉やロバ肉のラグーを合わせるのが主流で、同じビーゴリでも地域ごとに伝統ソースが異なるあたり、さすがイタリア料理はバラエティ豊かだとも感じられます。

ビーゴリには400年以上の歴史がある

長さ25~30センチ、直径3~4ミリのビーゴリの生麺(上)。

ビーゴリの歴史を紐解くと、1600年頃から生産されるようになったと伝えられています。ヴェネツィアから約40キロメートル西側の町パドヴァのパスタ職人が、生地を押し出してロングパスタを作る機械を発明し、1604年にその特許を取得したという記録が残っているのです。このプレス機の名が「トルチョ・ビゴラーロ」。トルチョは方言でプレス機のことなので、ビーゴリ用のプレス機が当時すでに存在したというわけです。

当初は小麦粉に塩と水を加えただけの生地でした。というのも、卵は物々交換の切り札だったため、パスタに使うのがもったいなかったんだとか。今日では生地に卵を練り込んだ黄色っぽいビーゴリのほうが見受けられますが、職人のパスタ工房では好みで選べるように卵入り/卵なしの2種類を売っていることもあります。

受け継がれるべき伝統製法 トルキオで作るビーゴリの生麺

打ち粉をされた作り立てのビーゴリ。

さて、イタリアのスーパーに行けば無数の乾麺パスタがずらり。乾麺なら何年も日持ちするので保存食としてかなり重宝します。しかし、ここでビーゴリを買うことはできません。本物のビーゴリを買うならフレッシュな生麺のみ。しかもトルキオというプレス機が必要なため、家で簡単に作れるものでもありません。

1900年代によく使われていたトルキオのイメージ。

元来のトルキオは縦型の筒に生地を詰め、その上にあるハンドルを手でぐるぐる回すと麺が下に押し出されるという仕組みでした。今ではすっかり機械化されていますが、ここで立ち上がったのがパドヴァの有志たち。このヴェネト州のトルキオ×ビーゴリという大切な食文化を守るべく、2004年にNPO “Confraternita dei Bìgoi al Torcio” (https://www.bigoialtorcio.it/)(和訳:トルチョで作るビーゴリのブラザーフッド)を設立したのです。「仲間と一緒にテーブルを囲み美味しい食事をすることは、時代遅れになった伝統を見つめ、再発見するための最良の方法なのだと確信している」と代表のジャンニさん。古い伝統と本物の味を後世に残すため、若者たちを引き込みながらどんどんイベントを行なっていくのが主な目的で、毎年4月には手動トルキオを使ったビーゴリ祭りを5日間にわたって開催しています。

手動トルキオを使う様子を間近で見られるビーゴリ祭り(パドヴァ郊外)。

17回目を迎えた今年はボランティアスタッフ300人が集結し、小麦粉4000キログラムに卵3万5000個を使用してビーゴリ計1万2000食を準備したのだそうです。

地元の女性たちも多く参加するビーゴリ祭りのキッチン。

最高の味が追求されたレシピはどこのビーゴリよりも美味しくクチコミで評判が広がり、会場の外まで続く行列は1時間半以上待ち。小麦粉と卵を混ぜただけのパスタですが、試行錯誤を繰り返した絶妙な分量と手作業で丁寧に作られた努力の賜物は侮れません。遠方からも大勢の客が訪れ、ドイツやクロアチアのイベントにも招待されるなど、国内外において関心の高さがうかがえます。

ビーゴリ祭りのお皿はシンプルだが絶品。

今回はヴェネト州のビーゴリを例に挙げましたが、イタリアの人たちはそれぞれの地域で郷土パスタに誇りを持っているものです。ヴェネト州を旅行するならビーゴリ、他の州に行ったらその地域のパスタを探してパスタ巡りなんていかがでしょうか。

文・写真/新宅裕子(イタリア在住ライター)
東京のテレビ局で報道記者を務めた経験を活かし、イタリア・ヴェローナ移住後も食やワイン、伝統文化、西洋美術等を取材及びコーディネート。ガイドブックにはない穴場や現地の暮らしを紹介するほか、ワインなどの輸出仲介も行う。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。

 

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