リチャード三世推しの主婦が世紀の大発見! 驚くべき実話を映画化
見渡せば、多くの人が「推し活」している時代。アイドルグループ、スポーツ選手、ミュージカル・歌舞伎俳優、声優、アニメやゲーム、小説のキャラクター、ゆるキャラ、仏像、戦艦、化粧品、食べ物……ありとあらゆるジャンルで、自分が好きなもの=推しを応援する「推し活」をしている人がいます。歴女(歴史好きの女性)にとって、お気に入りの武将などはまさしく「推し」。
映画『ロスト・キング 500年越しの運命』のヒロイン、フィリッパは究極の「推し活」女性と言えるかもしれません。主婦だった彼女はリチャード三世を支持するあまり、なんと500年以上にわたり不明だった遺骨を発見したのです。
――二人の息子を持つ主婦のフィリッパは持病の筋痛性脳脊髄炎のせいで昇進できずにいた。そんな折、舞台「リチャード三世」を鑑賞した彼女は強く心を揺さぶられ、リチャード三世に関する書物を読みまくる。シェイクスピアの戯曲の影響で悪名高き国王となってしまったリチャード三世。彼には墓がなく、亡骸は失われたと知った彼女はますます夢中になって、リチャード三世の真相調査にのめり込むようになる――
実話を映画化した本作。制作のきっかけは『二人の子どもを持つ母親が、駐車場で行方不明だった国王を発見』という新聞の見出しでした。英国史上もっとも冷酷非情な王として知られるリチャード三世。誰もが信じていたそのエピソードは全てシェイクスピアによる戯曲の影響でした。作品の中でリチャード三世は醜い姿をした不機嫌な人物として描かれ、「そばを通れば、犬も吠える」という独白が有名です。鬱屈した気持ちをバネに、王座を自らのものにしようと目障りな者を次々と殺害し、王位に上り詰めた、狡猾、残忍、豪胆な詭弁家。シェイクスピア劇では「ハムレット」に並んで、演じがいのあるキャラクターであり、日本でも有名無名、数多くの俳優が演じています。以前、とある俳優さんに取材した際、プライベートでも足をテーピングして引き摺るように過ごして、役柄であるリチャード三世の屈折した気持ちに近づけていったと話していました。
それも大きな誤解だったことが今回、この映画で判明しました。フィリッパが引っかかったのはまさにその点でした。持病があるせいで、会社で正当な評価が受けられなかった彼女。本当にシェイクスピアの描くように王は体が不自由だったのか。そのせいで性格まで曲がってしまったのは事実なのか。もしかしたら、偏見ではないのか。彼女は誰もが信じていた思い込みを鵜呑みにはせず、一つ一つ、検証していったのです。
主演は実力派女優サリー・ホーキンス! 才能豊かなクリエイターたちが結集し、想いを込めた珠玉の作品
フィリッパを演じているのは素朴な美しさが魅力のサリー・ホーキンス。『シェイプ・オブ・ウォーター』でアカデミー主演女優賞にノミネートされました。ウディ・アレンの『ブルージャスミン』ではケイト・ブランシェットが演じる華やかな姉に翻弄されるひたむきな妹に扮し、注目を集めました。監督は『ヴィクトリア女王 最期の秘密』『クィーン』など英国王室にまつわる映画も数々、手掛けてきた名匠スティーヴン・フリアーズです。
――なんとかしてリチャード三世の遺骨を見つけ、敬意を払って埋葬したい。発掘作業を行なうにはレスター市議会の支援と35,000ポンドを調達する必要があると知ったフィリッパは関係者に企画を提案、無事、市議会と大学のサポートのもと発掘を決行する。一時は何も発見されず、資金が取り下げられるものの、今度はクラウドファンディングでお金を工面し、再発掘。やっと人骨の一部が現れるが、学者から「修道士のものである可能性が高い」と判断されてしまう――。
歴史学者でも有力者でも大金持ちでもない彼女の話を聞いてくれる人は、なかなかいません。どんなに詳しくても「素人」扱いされ、門前払い。それでも彼女は諦めませんでした。最初は呆れ顔の家族もいつしか、彼女の本気に心を動かされていきます。
フィリッパの夫ジョンを演じているのはスティーヴ・クーガン。フリアーズ監督とは、50年前に生き別れた息子を探し続けた女性のノンフィクションを映画化した『あなたを抱きしめる日まで』で組み、今回も同じく製作・脚本を務めています。ここでも共同脚本のジェフ・ポープは「女性たちが軽視され、無視されていること。ひとりの小さな人間が、誰かに『ノー』と言われても諦めないこと。そして、人から言われたことを絶対的な真実だと信じ込まないことについて描きたかった」と語っています。
世界を変える力をくれる! 「推し活」をしたくなる推し映画
何かを成し遂げたい時、年齢や経済的なこと、周囲の目、いろんなことが障壁になります。映画ではあっという間の108分ですが、実はフィリッパ本人が実際に費やした月日は8年もの長い間でした。
この熱意はどこから来るのでしょう。それこそが「推し活」のパワーとしか言いようがありません。自分のことなら頑張れないかもしれないことも、「推し」のためなら何のその。
何もフィリッパが特別なわけではありません。私たち一人ひとりにそんな可能性が潜んでいるのだと思うと、映画が終わる頃には俄然、ワクワクしていました。「推し」がいるって素晴らしい。人生を豊かにする「推し活」。あなたも早速、始めてみませんか。
『ロスト・キング 500年越しの運命』
9月22日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
出演:サリー・ホーキンス/スティーヴ・クーガン/ハリー・ロイド/マーク・アディ
監督:スティーヴン・フリアーズ
脚本:スティーヴ・クーガン/ジェフ・ポープ
公式サイト:https://culture-pub.jp/lostking/
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配給:カルチュア・パブリッシャーズ
文/高山亜紀