文・写真/佐知ゆりこ(海外書き人クラブ/カナダ在住ライター)
カナダ西海岸側に位置するブリティッシュコロンビア州の州都ビクトリアは、バンクーバーからフェリーで1時間半ほどの島にある小さな港街。古き良き英国調の街並みが美しいと評される海辺の古都です。
輝く太陽に照らされる夏が終わりを告げ涼風が吹くと、赤や黄色に色づく木々が青空に映える美しいカナダの秋の到来。今回は、そんな秋冬のビクトリアでぜひ味わいたい絶品スープをご案内します。
地元の人が知る隠れ家的名店「FINEST AT SEA」
海産物が豊富な北米の西海岸地域では、魚介の名物料理が数多くあります。アメリカのサンフランシスコやシアトルではクラムチャウダーが有名ですが、ここカナダのビクトリアの隠れた名物はクラムチャウダーならぬ「シーフードチャウダー」。リッチな味わいの魚介のクリームスープです。
「シーフードチャウダー」はおしゃれをして出かけたい高級レストランでいただくこともできますが、今回ご紹介したいのはふらっとお散歩ついでに立ち寄れる秘密の名店「FINEST AT SEA(ファイネスト・アット・シー)」。観光客で賑わうビクトリアの繁華街に隣接する閑静な住宅地、ジェームズベイ地区にひっそりとたたずむ小さな魚屋さんです。
持続可能な漁法を用い、魚は100%天然魚。海の恵みを大切に
「ファイネスト・アット・シー」は、漁師直営の鮮魚店。幼いころから海に魅了され、10代の頃から釣りに夢中になり漁の世界に足を踏み入れたという海と魚を愛するオーナー、ボブ・フラウメニ氏によって経営されています。
深い海を思わせるエメラルドグリーンと青を基調とした店舗の正面にはフードトラックが設えられ、裏に回ると魚屋さんの入り口がある、という作りのこのお店。個人経営の小さなお店と思いきや、実は何艘もの大型漁船を保有する地元では名の知れた水産会社がバックボーン。環境保護や自然との共生に対する意識の高いカナダ西海岸らしく、持続可能な漁法で獲った地元の天然魚を提供することを信条に掲げています。
「ファイネスト・アット・シー」が保有する大型漁船は急速冷凍システムも備えていて、瑞々しい地元の天然魚は鮮度を保ったまま直営店やレストランへ。ビクトリアやバンクーバーで名店と名高い高級レストランもこのお店の顧客で、そのクオリティの高さはプロの料理人も認めるところなのです。
海と魚をこよなく愛するオーナーの情熱と誇りは、この店のシーフードチャウダーにもしっかりと反映されています。一見するとカジュアルな店構えですが、その裏には高品質なシーフードと真摯な手仕事が隠されているのです。
新鮮な魚介がたっぷり! 濃厚なうまみが凝縮
「シーフードチャウダー」にはその名の通り、新鮮な魚介がたっぷり! カナダ西海岸の名産であるサーモン、沿岸で獲れるヒラメやリングコッドと呼ばれる地元の白身魚、エビや貝などの魚介と、じゃがいもや香味野菜などの旨味が一体になって、コクのある熱々のクリームスープに溶け込んでいます。
ここはレストランではなく魚屋さんの店先のフードトラック。熱々スープは紙製のカップに注がれて提供されます。スプーンを使わず直接口にできる紙カップというカジュアルさもまた楽しい魅力。たっぷりとカップのふちまで注がれてサーブされますので、こぼさないように気を付けて。
スープをひと口、口に運んだ瞬間に濃厚な魚介の滋味が口中に広がり、初めて食べたならその贅沢な味わいに思わず唸ることでしょう。まるでイタリア料理のアクアパッツァのような凝縮された旨みに、ひと口、またひと口、と止まりません。
オープンエアなテラスで食べるのがビクトリア流
店に室内のイートインスペースはありませんが、店先には可愛らしいテラス席が。ブランケットをひざにかけて熱々のスープを味わえば、おなかの中から体全体がじんわりと温まります。こうした屋外のテラス席はビクトリアではおなじみのスタイル。少々冷たい風が吹く日でも、ここでホットなシーフードチャウダーを楽しむのは地元の人たちの小さな楽しみとなっています。
店の向かいには港を臨む広場があるので、ベンチに座って海を眺めながらいただくのも素敵です。温かい室内で食べたい人は、テイクアウトでどうぞ。
港街ビクトリアで観光地として有名なフィッシャーマンズワーフもこのすぐ近くにありますが、時には地元の人が通う住宅街の小さなお店を訪ねてみては。知る人ぞ知る小さな名店の滋味あふれるスープは、心も体も温めてくれます。
文・写真/佐知ゆりこ(カナダ在住ライター)
カナダ在住。教育移住や海外文化、多様な女性の生き方について雑誌やWebメディアで執筆。noteやX(旧Twitter)でも情報を発信。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。