文・写真/バレンタ愛(海外書き人クラブ/オーストリア在住ライター)
春を代表する花の1つチューリップ。日本でも身近な存在ですが、チューリップといえば、ヨーロッパの「オランダ」をイメージする方が多いと思います。元々の原産国はトルコで、16世紀にオランダに伝わったようです。今ではオランダの国花にもなり、輸出量は世界一を誇りますが、オランダから海を超えたカナダの首都オタワで、毎年100万株を超えるチューリップが咲き誇るチューリップフェスティバルが開催されています。その理由と様子をご紹介します。
オタワでチューリップフェスティバルが開催される訳
オタワで毎年チューリップフェスティバルが開催されるようになった理由は、第2次世界大戦時にまで遡ります。ナチス率いるドイツ軍にオランダが占領された為、当時妊娠中だったオランダのユリアナ王女は幼い娘2人連れてカナダに戦火を逃れて来ていました。その疎開中にマルフリート王⼥を出産することになったのですが、オランダ国外で誕生すると王位継承権がなくなるというオランダの法律を考慮して、カナダ政府がユリアナ王女が入院していたオタワの病院の⼀室をオランダ領にするという⼀時的措置を取り対応しました。後にオランダ女王となる当時のユリアナ王女と3人の娘たちは、1945年になってやっと帰国することが出来ました。その当時のカナダ政府の対応に感謝したオランダのロイヤルファミリーは、帰国以来毎年たくさんのチューリップの球根をオタワに送り続けています。
そして1953年からフェスティバルとして開催されるようになり、毎年5月にオタワの街中がチューリップで飾られるようになったのです。その後もカナダとオランダ王室の国際交流は続いていて、1943年にオタワの病院の一室で誕生したマルフリート王女も、オタワのチューリップフェスティバルを訪れています。
世界最大のチューリップフェスティバル
毎年のようにオランダから送られてくるたくさんのチューリップの球根は、なんと100万株以上! 街中の花壇もチューリップで埋め尽くされますが、主な会場となるのは国会議事堂が望めるメジャーズ・ヒル公園、世界遺産のリドー運河沿いの7~8km区間、ダウズ湖周辺です。
良く見るチューリップだけではなく、本当に数多くの種類のチューリップがあります。花びらがとがっていたり、ギザギザのもの、色が混じっているものや、八重の華やかなもので一見チューリップとわからないものまであったりします。
それぞれまとまって植えられていて種類が書いてある札が立てられているので、1つ1つ見ながらゆっくりと散歩を楽しめます。
特にダウズ湖畔のコミッショナーパークは、公園内にあり1km程の遊歩道沿いに30万株のチューリップの花が植えられていて、ゆっくりと歩きながら花を観賞するのにとても人気のスポットです。
2023年は3年ぶりに大規模開催
会期は毎年5月半ばの10日間ほどですが、天候によってその前後も楽しめます。会場は仕切られていたりするわけではないので、誰でも好きな時に通ることができます。地元の人は通勤時に通ったり、日々の散歩に行ったりもしますが、世界中からも開催期間を通して65万人以上の人が集まってきます。
2023年は5月12~22日までの10日間開催されました。去年まではコロナの影響で規模が縮小されイベントもなかったフェスティバルですが、今年はコロナ前と同様、もしくはそれ以上に昼夜を問わず色々なプログラムが用意されていました。会場にはデジタルパネルが設置され、フェスティバルの歴史やチューリップの解説などあらゆる情報が学べます。チューリップの歴史や種類などの解説も聞けるツアー、ちょっと怖い裏話も聞ける夜のゴーストツアーなど、有料のガイドツアーもありますが、毎晩開催される通常のライトだけではなくブラックライトも使った夜のライトアップ、音と光のショーなど無料のイベントもあります。
フェスティバル会場での映画上映や、コンサートや子供向けのイベントが開催されたり、飲食物を売るスタンドも設置されているのでみんなが楽しむことができます。
またフェスティバルは国連が掲げる17項目の持続可能な開発目標SDGsのうち9項目に対応。美しい花を見ながらたくさん歩いて健康に「すべての人に健康と福祉を」、2019年から作成している教育キットを通じて歴史や平和、そして国際交流の大切さを学び「質の高い教育をみんなに」、公用語が英語とフランス語のカナダの首都において両言語でパンフレット作製、公共交通機関や自転車、徒歩移動でのフェスティバル参加を呼びかけることで「住み続けられるまちづくりを」、そしてオランダとの国際交流、国内の多くの団体の協力の元で開催されるフェスティバルは「パートナーシップで目標を達成しよう」など多くの項目を網羅、歴史と伝統を大切にしながらサステナブルなフェスティバルの開催を続けています。
◆チューリップフェスティバル公式HP https://tulipfestival.ca/
文・写真/バレンタ愛
2004年よりウィーン在住。うち3年ほどカナダ・オタワにも住む。長年の海外生活と旅行会社勤務などの経験を活かし、2007年よりフォトライターとしても多数の媒体に執筆、写真提供している。著書に「カフェのドイツ語」「芸術とカフェの街 オーストリア・ウィーンへ」など。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。