人間の根源的な感情である「愛」は、古来、西洋美術の根幹をなすテーマのひとつでした。ギリシア・ローマ神話を題材とする神話画や現実の日常生活を描く風俗画には、様々なかたちの「愛」が描かれています。
ルーヴル美術館が誇る膨大なコレクションの中から「愛」をテーマに厳選し、西洋社会における愛の概念がどのように絵画芸術に抽出されてきたのかを知ることができる展覧会が『ルーヴル美術館展 愛を描く』です。
本展の見どころを、国立新美術館の主任研究員、宮島綾子さんにうかがいました。
「本展には、16世紀から19世紀半ばまでのヨーロッパ各国の主要画家が描いた愛の表現の名作73点が結集しています。そのうちの注目作品をご紹介します。
フランソワ・ブーシェ《アモルの標的》
18世紀フランスの巨匠、ブーシェによる本作は、「神々の愛」をテーマにした連作タペストリーの原画のひとつです。古代神話では、神であれ人間であれ、愛の感情はヴィーナスの息子である愛の神アモル(キューピッド)が放った矢で心臓を射抜かれたとき生まれるとされていますが、本作には、道徳的に正しい愛の誕生の瞬間が象徴的に描かれています。
サッソフェラート《眠る幼子イエス》
幼子イエスを優しく胸に抱き、清らかな寝顔をそっと見つめる聖母マリア。ほのかに憂いを帯びたその表情は、いずれ人類の罪をあがなうために十字架にかけられる我が子の運命に思いをはせているようにみえます。
ジャン=オノレ・フラゴナール《かんぬき》
18世紀後半フランスで活躍したフラゴナールの代表作で、26年ぶりの来日となります。暗い寝室の中、スポットライトのような強い光に照らされた一組の男女。18世紀のフランスでは、上流階級の男女が恋の駆け引きに興じる情景が盛んに描かれましたが、本作は緊張感とエロティシズムに溢れた情景が異彩を放つ名作です。
ギヨーム・ボディニエ《イタリアの婚姻契約》
本作は、ボディニエが27歳のとき訪れたイタリアの風俗に魅了されて描いた作品で、ローマ近郊の裕福な農民一家で執り行われた婚姻契約の情景です。美しい丘陵を背景に、婚約の当人二人、見守る母親、娘より召使の女性に目を奪われている父親など、様々な愛の表情が見え隠れする陽気でほほえましい光景が描かれています。
フランソワ・ジェラール《アモルとプシュケ》、または《アモルの最初のキスを受けるプシュケ》
愛の神アモル(キューピッド)とプシュケの恋は、古代ローマの哲学者、アプレイウスの小説で語られています。この物語は古来、彫刻や絵画に表現されてきましたが、フランスでは特に18世紀に流行しました。新古典主義の画家、ジェラールによる本作は、若く美しいアモルがプシュケにそっとキスする瞬間をロマンティックに描いています。」
「愛」というテーマの中に、新たな発見や出会いがある展覧会です。ぜひ会場に足をお運びください。
【開催要項】
ルーヴル美術館展 愛を描く
会期:2023年3月1日(水)~6月12日(月)
会場:国立新美術館 企画展示室1E
住所:東京都港区六本木7-22-2
電話:050・5541・8600(ハローダイヤル)
美術館ホームページ:https://www.nact.jp
展覧会ホームページ:https://www.ntv.co.jp/love_louvre/
開館時間:10時から18時まで、金・土曜日は20時まで(入場は閉館の30分前まで)
休館日:火曜日(ただし3月21日、5月2日は開館)、3月22日(水)
料金:展覧会ホームページ参照
アクセス:美術館ホームページ参照
巡回:京都市京セラ美術館(6月27日~9月24日)
取材・文/池田充枝