文・石川真禧照(自動車生活探険家)

車好きの世界では「羊の皮を被った狼」という言葉を使う車がある。平凡なファミリーカーの姿をしているが、心臓部には場違いと思える強力なエンジンを搭載し、中味はスポーツカーと同じ性能を持つ、その様な車のことを言う。


日本では車黎明期の1960年代にスカイラインGT、ブルーバードSSS(65年)やトヨタ1600GT(67年)などの名車が登場している。スカイラインGTは4気筒1.8L搭載の車体に、ボンネットとホイールベースを長くし、直列6気筒2.0Lエンジンを押しこんだ。ブルーバードSSSは1.6Lスポーツエンジン、トヨタ1600GTもコロナハードトップにスポーツエンジンを載せていた。どの車も小型な車体に大馬力エンジンを載せ、足回りを強化しているのが特徴だった。
こうしたスポーツモデルもやがてファミリーカーがミニバンやSUV(多目的スポーツ車)に移ったことで、ベースになるセダンたちがなくなり、次々と姿を消してしまった。
これ見よがしのスポーツ車ではなく、目立たないが実はスポーツカーと同じ性能の車に乗る、という楽しみが国産車になくなって久しい。



しかし、欧州では伝統的にセダンの市場は確立しており、自動車メーカーもそれを大切にし、新型車を継続してつくり続けている。
BMW「M2」のルーツは1973年に登場した「2002(ニーマルマルニー)ターボ」だ。1.6L2ドアセダンをベースに2.0Lターボエンジンを搭載し、太いタイヤを装着、レースなどモータースポーツで大活躍をした。BMWはその後も「羊の皮を被った狼」の開発には熱心で、コンパクトで強力なスポーツセダンを送り出してきている。


最新の「M2」は2016年に登場した初代に次ぐ2代目。トヨタ「プリウス」やマツダ「CX-5」とほぼ同じ長さの車体に強力な直列6気筒3.0Lガソリンターボエンジンを押しこみ、足回りを強化している。そのパワーは480ps。しかも後輪駆動を採用している。今回取り上げたのは8速ATだが、同価格で6速手動変速モデルも用意されている。


運転席のドアを開けると目に飛び込んできたのはオプション装着のカーボンファイバー製バケットシート。体をすべりこませ、電動式の調整でフィットさせる。ドアミラーに写るのははり出したリアフェンダーの車体。走行モード(M-MODE)や部分調整(SET UP)もわかりやすい。自分好みの走り方に合わせて調整できる。




Dレンジに入れて、あり余る480ps、550Nmを右足で調節しながら走る。乗り心地は「コンフォート」モードでも硬い。上下動の振幅も短くゴツゴツ感はキツめ。スポーツカーなのでこれも当然のこと。しかし、コンパクトな車体は街中でも扱いやすく、高速道路でも走り易い。郊外の峠道に入り、マニュアルモードに切り換えて、ちょっと右足に力をこめると、M2は本来の性格をちょっとだけ見せてくれる。これは自分だけの楽しみにとっておこう。それにしても6気筒、3.0Lエンジンを瞬間的とはいえ7000回転まで回すのは気持ち良く、スカッとする。



コンパクトなボディに不相応な大馬力エンジンを載せ、さりげなく街中を走る。本当の実力を知っているのはオーナーの自分だけ。
普段使いもできる趣味のセカンドカーとして、ガレージに迎えたい1台だ。
BMW/M2
全長×全幅×全高 | 4580×1885×1410mm |
ホイールベース | 2745mm |
車両重量 | 1730kg |
エンジン | 直列6気筒ターボ 2992cc |
最高出力 | 480ps/6250rpm |
最大トルク | 550Nm/2650~6130rpm |
駆動形式 | 後輪駆動 |
燃料消費量 | 10.0km(WLTC) |
使用燃料/容量 | 無鉛プレミアムガソリン/ 52 L |
ミッション形式 | 8速自動 |
サスペンション形式 | 前:ストラット/後:マルチリンク |
ブレーキ形式 | 前:ベンチレーテッドディスク/後:ベンチレーテッドディスク |
乗員定員 | 4名 |
車両価格(税込) | 1018万円 |
問い合わせ先 | 0120-269-437 |

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。
撮影/萩原文博