文・石川真禧照(自動車生活探険家)

レンジローバーという車は、英国ランドローバー社がつくる四輪駆動車の上級車名だ。1948年、小型の農家用作業車を実用化したランドローバー社はその後、着実に発展し、軍用車まで手掛けるようになった。その後、農民が使っている四輪駆動の優秀さを知った領主や貴族たちから、自分の領地を見回るのにふさわしい高級な四輪駆動車をつくらないか、というオファーがあり、ランドローバー社は1970年にレンジローバーを発表した。その車は草原やぬかるんだ道も走破でき、一般道でも快適に走行できる上級感のある四輪駆動車だった。

21世紀に入り、世界中の高級車メーカーが競うように不整地も走行できる四輪駆動車を市場に送りこんでいるが、レンジローバーは独自の高級四輪駆動車路線を50年以上も維持している。だからこそ、レンジローバーのカタログにはエリザベス二世、エディンバラ公、皇太子の英国王室3家もの公認の印である紋章が記載されているのだ。

初代は丸型ヘッドライトという違いはあるが、全体のイメージは最新型でも踏襲されている。
フロントグリルからドアウインド辺りのガラスと車体の継ぎ目が小さいのがわかる。空力抵抗の軽減が最新のテーマ。
テールランプは超薄の縦型ランプ。リアゲートは「RANGE ROVER」のところから上下に分かれて開く。
200Vと急速充電の給電は車体左後ろから。ガソリンは車体右後ろに給油口が設けられている。給電は3kwの家庭用だと約6時間で0%から100%になる。
EV走行や給電状況などはダッシュボード中央の液晶画面でコントロールできる。給電は走行中でも行える。

名誉と伝統のあるレンジローバーだが、そこにあぐらをかいているわけではない。新しいことにも積極的に取り組んでいる。その中のひとつが電動化だ。最新モデルのレンジローバー SVは、エンジンとモーターを搭載、電池への外部充電もできるプラグインハイブリッド車。レンジローバーのなかでも最上級モデルとして販売されている。

プラグインハイブリッド車で気になるのは、モーターでどの位の距離を走ることができるかだ。

このカットからもウインドと車体の段差が少ないのがわかる。サスペンションはこの状態が標準高。乗降モードを選択すると約30mmほど車高が下がる。
荷室側からのカット。リア荷室下にあったスペアタイヤホイールは廃止され、全グレードにタイヤリペアキットが搭載された。
ドライブモードはダイナミック/コンフォート/エコ/オート/オフロードの5モードが設定されている。オフロードはさらに草地/砂利/雪モードから水中走行(渡河)の深さまで設定することができる。これがレンジローバーの実力の高さ。

試乗のために用意された車は、100%充電完了状態で、EV走行可能距離は95kmと表示されていた。大柄で重い車体がモーターで約100kmも走ることができれば十分だろう。これ以上走行距離を延ばすためには電池を大きくしなければならない。それは重量増を意味するし、電費が悪くなる。それでなくともこの車の自重は3トン近いのだ。

さっそく乗りこみ、走りをチェックする。ドアを開けると同時に足元にステップがせり出してくる。運転席に座ると、やや高めの着座位置からボンネットが見える。この運転姿勢はレンジローバーの特徴でもある。モーターでの加速は力強く、アクセルを軽く踏み込むだけで、3トンの車体を軽々と加速させる。しかもモーターの音もせず、ほとんど無音。EVモードを選択しての試乗では一度もエンジンは始動しなかった。

街中を走ってもガソリン消費はゼロ。これまでのガソリン大食いのV8モデルとは大違い。これなら毎日スーパーやデパートへの買い物などに使っても、家に戻って充電しておけばガソリンスタンドと無縁になりそうだ。

走行中に「HV」(ハイブリッド)や「SAVE」モードにするとエンジンがかかることもあったが、そのときの振動や音も小さく、メーターパネルのエンジン回転計の針の動きで気付いたほどだった。

カバーに被われたボンネット下。この下には直列6気筒3.0Lのガソリンターボエンジンと、143馬力の電動モーターなどが収まっている。レンジローバーはPHEVのほかにも直列6気筒3.0Lディーゼルターボ、V型8気筒4.4Lマイルドハイブリッドガソリンターボ、2機種の計4機種のパワーユニットが用意されている。
前後のドアを開けると瞬時にせり出してくる乗降ステップ。ドアを閉めると引きこまれる。
シンプルで見晴らしのよい前席。
スッキリとしたセンターコンソール周り。シフト以外のほとんどの操作は、インパネ中央の液晶画面で行う。

試乗車の後席は3人掛けで、座席はリクライニングする。なかでも、助手席の後ろは足置きやオットマンがせり出してくる特別席。センターアームレストに内蔵されている液晶画面を操作するだけで好みの姿勢が得られる。リクライニングの方法も背もたれが倒れるだけではなく、座面もスライドダウンして、前方にせり出す方式を採用。後席の後ろは仕切り板があり、荷室が確保されている。ただし荷室自体は広いが奥行が限られてしまうので、ゴルフバッグは収納できるものの、長尺物は収納できない。

カタログ上の定員は3名だが、中央席は補助用と考えたい。
助手席を前に出し、後席をリクライニングさせると、足元にはオットマンがせり上がる。操作はアームレスト内蔵の液晶画面で行える。
カチッとした無駄のない荷室。カーペットも厚い。手前に仕切り板を引きおこすことができ、小さな荷物が奥まで動いてしまうことを防ぐ。
荷室の右手前には車高調整、後席背もたれ可倒などのスイッチが設けられている。

毎日の街中使いは電池+モーターでガソリン消費はゼロ。週末のドライブは高速走行ではエンジンも使いながら、充電も行い走る。高速を下りたら再びEV走行。もちろんオフロード走行もEVならアクセルとのタイムラグもなく、力強い走りを体感できる。

エンジンとモーターを上手に使い分けながら走らせる。これがプラグインハイブリッド車の賢い使い方だ。

ランドローバー/レンジローバー SV プラグインハイブリッド

全長×全幅×全高5065×2005×1870mm
ホイールベース2995mm
車両重量2910kg
エンジン/モーター直列6気筒3.0Lガソリンターボ/交流同期
最高出力400ps/500~6500rpm/218ps
最大トルク550Nm/2000~5000rpm/281Nm
駆動形式四輪駆動
燃料消費量9.9km(WLTC) 
使用燃料/容量71L
ミッション形式電子制御8速AT
サスペンション形式前:ダブルウィッシュボーン/後:インテグラルマルチリンク
ブレーキ形式前/後:ディスク   
乗員定員5名
車両価格(税込)2812万円
問い合わせ先0120-18-5568

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。

撮影/萩原文博

 

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