慢性の頭痛や月経痛、むくみ、だるさなど原因不明の不調を訴える女性が増えています。薬を飲んでも改善しないその不調の原因は病気ではなく、実は栄養失調なんだとか。飽食の現代において栄養失調とは驚きですが、極端な食事の偏りにより、からだが最適な状態を保てないことも栄養失調なのです。
医学的根拠に基づいた食事法「栄養療法」で、延べ500人以上の患者を救ってきた梶の木内科医院の梶尚志院長による『え、私って、栄養失調だったの? その不調は病気でなく状態です!(みらいパブリッシング)』から、女性の見た目と心身の健康にとって大切な5つの栄養について紹介します。正しい知識は薬やサプリメントよりも役に立つことでしょう。
文/梶尚志
「ヤバイ!食生活」から抜け出すためには
なぜ、良いと思ってきた食事が実際には良くなかったのか?
それは、多分、皆さんが自分のからだを構成する細胞、もとをたどれば細胞を造る栄養素の「役割やはたらき」を正しく理解していないから、いろいろな健康情報に振り回されるのだと思います。「〇〇はからだに良いですよ」とテレビで紹介された食事法や、「ミネラル入り〇〇」というキャッチコピーに惹かれて手に取った商品を、手当り次第に試すものの、一向に効果が感じられない。それもそのはず、その情報があなたのからだの状態にとって適切とは限らないからなのです。
特に女性は、取り巻く環境などから栄養が偏りがちで、そういった自覚がある方も多いと思います。そのため巷にあふれる情報に敏感になり、あれこれ試してみたくなる、そのお気持ちは十分にわかります。ですが、せっかく限られた時間の中で自分のからだのことを考えるなら、それぞれの栄養が心とからだにはたらきかけるしくみを理解し、自分の状態に合わせた選択をできるようになっていただきたいのです。特に女性の見た目と心身の健康に大切な5つの栄養素、タンパク質、ビタミン、コレステロール、主要なミネラル(鉄・亜鉛)について説明します。
もしかして私、〇〇不足かも……!?
以下の項目の中で、該当するものをチェックしてみましょう。さまざまなからだと心の症状と栄養の状態は、とても関係あります。
タンパク質:心とからだと見た目を元気にする栄養素
私たちの活力となるエネルギーの源には、三大栄養素といわれる、タンパク質、糖質、脂質があります。その中でも、特にタンパク質はとても大切な栄養素です。タンパク質は、細胞の中にあるミトコンドリア(からだのエンジン部分)を動かす燃料のようなものです。タンパク質が足りないと、燃料不足でエンジンが回らないので、とっても疲れやすくなります。その他、タンパク質は、すべての内臓や血液、そして、骨や筋肉を造るための原料になっていますし、ホルモンや髪の毛、皮膚や爪といった女性にとって、とても大切なからだの材料にもなっています。タンパク質は肉、魚、卵、大豆製品などの食品から摂取することが基本です。大切なことは、この食材を毎食最低2品は摂るようにすることです。できれば肉や魚などの動物性タンパク質の摂取をおすすめしています。
ビタミンB群:縁の下のちから持ち、スムーズな代謝をサポート
ビタミンはそれ単体で大きな意味を持つわけではなく、他の栄養素のはたらきを円滑にするサポート役です。からだのあちこちで、いろいろな栄養素の活動をサポートしています。
ビタミンB群は、タンパク質、糖質、脂質といった三大栄養素が、エネルギーに造り変えられる時、スムーズに変換できるようにサポートします。そもそも食事でからだに入ってきた栄養素は、そのままの形で私たちのからだの一部になるわけではありません。細かなパーツに分解されてから、必要な場所に運ばれていき、またそれぞれの場所で必要な形に変換される(合成)を繰り返しています。これを代謝と言います。この代謝を円滑に進めるのが酵素と呼ばれるもので、その酵素のはたらきをサポートしているのがビタミンB群です。酵素とビタミンB群がタッグを組むことで、栄養素たちはスムーズに形を変えることができます。ビタミンB群にはいくつか種類がありますが、代表的なものをあげておきます。
・ビタミンB6
・ナイアシン
・葉酸
ビタミンD:神秘のちから! 万能ビタミン
最近、ビタミンDが、実は万能ビタミンとしてにわかに注目されています。そのわけは、ビタミンDに多くの神秘的なはたらきが見つかってきたからなのです。他のビタミンは食べ物から摂取するのに対し、ビタミンD はなんと、日光浴などで紫外線を浴びることで体内で造ることができます。ビタミンDが不足すると、セロトニンやオキシトシン、ドーパミンなどのホルモンがうまく造られず、やる気が出ないなど、うつや不安といったメンタルが不安定な状態になります。また、腸の粘膜を丈夫にして、さまざまなアレルギーの原因となる物質や病原体、毒素などの有害物質の侵入をブロックします。ですから、血液中に含まれるビタミンDの量を増やすことで、花粉症やアトピー性皮膚炎といったアレルギーの症状を改善させることができるのです。
コレステロール:女性の美をつかさどる最強の栄養素
コレステロールは「脂質」、だから「太る」、というイメージからか、一般的に悪者扱いされて、健康診断や人間ドックの結果からも、やり玉にあがることが多いです。そして、コレステロールは下げれば下げるほど良いと思っている方も多くいらっしゃると思いますが、これほど女性の美と健康を支えている栄養素はないのです。コレステロールは女性ホルモンを造るのに一番大切な栄養素で、コレステロールが少ないと、当然女性ホルモンも少なくなり、バランスも乱れてしまいます。また、コレステロールが十分にあると、丈夫な壁を持った強い免疫細胞が造れるので、コロナウイルス感染症などのウイルス感染や細菌感染からからだを守ってくれます。
鉄:女性の体調を左右する最重要ミネラル
鉄はミネラルの一つで、お肌のハリや潤いを保つコラーゲンを造るのに重要な栄養素です。また、鉄を含むカタラーゼという酵素が、皮膚を紫外線や化学物質などから守るので、鉄不足は、お肌のシミ・そばかすの原因にもなります。最近の研究では、若い女性の抜け毛も、鉄不足が原因ではないかと考えられています。健康診断や人間ドックでの一般的な血液検査で、貧血がないと診断されていても、なんとなくからだの調子が悪い方。それは、かくれ貧血かもしれません。かくれ貧血を見つけるための方法は、「血清フェリチン値」を測ることです。フェリチンとは、日本語でいうと「貯蔵鉄」ということで、からだの中に、どれくらいの鉄分がストックされているかということを表します。この貯蔵鉄が少ないと、前述したさまざまな症状が出てきますので、体調不良の方は、かくれ貧血を見つけるために、血清フェリチン値を調べてみることを強くおすすめします。栄養療法を行っている病院でなくとも検査できますので、かかりつけ医にご相談してみてくださいね。
亜鉛:一つで何役? 女性を支えるスーパーミネラル
亜鉛は私たちのからだを造る細胞が分裂したり増殖したりする工程に深く関わっています。例えば、紫外線などの外からの刺激や、やけど、怪我などから、最前線で私たちのからだを守ってくれる皮膚は、すぐに痛んでしまうため、どんどん古くなった皮膚を剥がして新しい皮膚に置き換える必要があります。古い皮膚(細胞)の情報がコピーされ新しい皮膚を造るわけですが、その時に亜鉛が使われています。ですから亜鉛が不足すると、新しく皮膚を造ることができなくなって、お肌のトラブルが多くなります。また、亜鉛は、お肌やからだを錆びさせる活性酸素という物質を除去するはたらきがありますので、不足するとシミやそばかすなどのお肌のトラブルも多くなるのです。また、からだをウイルスや細菌から守る免疫システムを強化し、感染症や病気に対する抵抗力を高める役割を果たします。
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え、私って、栄養失調だったの?
その不調は病気でなく状態です!
著者/梶尚志
みらいパブリッシング 1,540円
梶尚志(かじ・たかし)
梶の木内科医院院長。栄養療法実践医。
1989年、富山医科薬科大学(現富山大学)医学部卒業。2000年、岐阜県可児市に梶の木内科医院開設。年間約5万人の患者を診察する中で、通常の診察では解決できない不調が多いことに危機感を感じ、改善策を模索。分子整合栄養医学との出会いをきっかけに、不調の原因が栄養状態にあることを確信する。以来、栄養学的なアプローチから治療と生活指導を行い、不調の改善に取り組んでいる。