文・石川真禧照(自動車生活探険家)

最新の電子制御などで、コーナリングは意のまま。サーキットでも通用するレベルの走りが安全に楽しめる。

1970年代の終わりから80年代にかけて“ボーイズレーサー”と呼ばれるクルマたちが若者に人気だった時代があった。エンジンはせいぜい排気量1.6Lどまり、車体はリアトランクのない2ボックスカーが多かった。こうしたクルマは、デビュー当初は前輪駆動の経済的なコンパクトなファミリーカーだった。車両価格も100万円を切る価格だったので若者たちもなんとか新車が買えた。

若者たちは購入したファミリーカーのタイヤを太くしたり、フォグランプを装着したり改造をはじめた。なかにはサスペンションやエンジンをチューンする者もあらわれた。この動きを見た自動車メーカーも、ファミリーカーをスポーティカーに変身させたモデルを発売した。若者に人気のこうしたクルマが“ボーイズレーサー”と呼ばれるようになり、国産各社がコンパクトで、スポーティなクルマを発売した。 

フロントグリルは光沢のある素材と、つや消しブラック仕上げが選べる。
25年2月の小改良で変更されたフロントマスク。シングルフレームグリルはダイヤモンドパターンを採用。ヘッドライトの上は3列のデイタイムランニングライトが装着されている。
全長4380mm、ホイールベース2630mmは、トヨタのカローラスポーツとほぼ同じ。全高は1435mmで、トヨタ・プリウスと変わらない。コンパクトな車体だ。
リアゲート付の5ドアハッチバックスタイルは、目立つような空力付加物は装備されていない。とても最高速280km/h、0→100km/h加速3秒台のスーパースポーツには見えない。
太い2本の楕円型のマフラーが左右からのぞいている。テールライトは矢印が内側から外側に向かって点滅し、曲がる方向を示す。

70年代半ば欧州では“ホットハッチ”と呼ばれるモデルが誕生した。ファミリーカーをベースに、レースにも出場できるように高性能にしたコンパクトな2ボックスカーが主体だった。日本と異なるのは、こうした高性能車は車両価格も高く、欧州の“ボーイズ”はとても購入できなかったことだ。

こうしたコンパクトカー+スポーツカーというクルマづくりは、70~80年代のブームになったが、その後、排気ガス規制や安全基準の規制などから、各社が手を引き、ブームは去った。でも小さな車体に分不相応な高性能エンジンを押し込むというクルマ造りは、一部の愛好家の間では、常に人気だった。メーカー、とくに欧州メーカーは数は少ないものの熱心なユーザーのために、車両をつくり続けてきた。

フロントシートはオプションのRSバケットシート。マイクロファイバー生地と、サイドにはパールナッパレザーが施されている。
後席の着座はやや高めだが、前席のハイバックシートが視界を遮る。足元は狭くないが、左右1名ずつが快適定員。
車体後部の荷室。リアゲートは大きく開き、使い易い。後席の背もたれは2/1/2で3分割し、前倒しできる。床下に狭いがサブトランクもある。

幾つかの数少ない自動車メーカーが造り続けてきた“ホットハッチ”。なかでもアウディRS3は現在でも進化を続けながら、ホットぶりを体験させてくれる数少ないモデルだ。

ベースになるアウディA3スポーツバックは、4気筒1.5Lガソリンターボエンジンを搭載、116ps、220Nmを前輪で駆動するファミリーカー。RS3は同じ車体ではあるが、エンジンは直列5気筒、2.0L、ガソリンツインターボエンジンで400ps、500Nmを発生、4輪駆動(クワトロ)方式を採用している。車両重量はFF1.5L車よりも200kgほど重くなったが、馬力とトルクの増大はそれ以上に強力。

アウディだけが量産している直列5気筒エンジン。ルーツは約50年前に登場している。横置きに搭載され、4輪を駆動する。
中央のタッチディスプレイは10.1インチ。その下のセンターコンソールはフラット化したシフトレバーやスターターボタンがある。
自動変速のシフトはセンターコンソール前方にある。最新のシフト系はコンパクトなスライドスイッチが多い。
センターパネルにあるスイッチは、「drive select」やアイドリングストップOFF、4ウェイフラッシャーなどが並ぶ。タッチディスプレイよりも操作が確実に行える。

最近、EVやPHEVのハイパワースポーツモデルに乗ることが多かったが、久々に乗るガソリンエンジンのハイパワーカーは、その力強さと運転者の動きに直接的に反応してくれるダイレクト感に心も身体も高揚する。

5気筒スポーツエンジンが、一気に6800回転まで上昇して加速する動きと、高まる音はEVでは味わえない刺激的なドライビング。何十年も前に“ボーイズレーサー”に乗って、走り回っていた時代の思い出が甦ってきた。

運転席の目の前にある12.3インチのバーチャルコックピットはドライビングモードにより表示が切り変わる。
マニュアルミッションモードではシフトインジケーターのエンジン回転数が、緑、黄、赤へと変化し、シフトタイミングを教えてくれる。
ハンドルの形状が新しくなり、上と下の部分が直線になっている。上はメーターのヒサシと同形、下は乗り降り時に膝がぶつからない。

スポーツモードからパドルシフトを操作すると、5気筒エンジンのダイレクト感がさらに味わえる。標準車よりも15mm低くしたサスペンションは、キビキビとしたハンドル操作に瞬時に応えてくれる。ハンドルスポーク部分に備わる「RSトルクリア」と「RSパフォーマンス」モードの赤いプッシュボタンは、それぞれドリフト走行やサーキット走行に特化したエンジンや駆動系のチューニングを楽しむことができる。もちろん公道上でこれらを楽しむことを慎むのは当然だが、それはドライビングの悪魔との心の戦いでもあることが身を持ってわかった。

「RSトルクリア」(右)ボタンはコーナーで外側後輪に100%トルク配分し、ドリフトを容易にする。「RSパフォーマンス」(左)ボタンはセミスリックタイヤでのサーキット走行に最適にした走行が可能なモード。
ホイールは19インチ。オプションのマットグレー仕上げ。タイヤはBSポテンザスポーツ。大径のディスクブレーキが組み合わされる。

大排気量の大型車に乗るのも、ラクで安全かもしれないが、小型の車に強力なエンジンを積んだ“ヤンチャ”なクルマを操るのも楽しい。その時のクルマはなるべく目立たないほうが良い。今回はちょっと派手な黄色だったが、ブラックやシルバーのような色のほうが町に溶け込む。5ドアハッチバック車とは名ばかりのスーパースポーツモデルに乗るにはこの作戦が一番だ。

アウディ/RS3 スポーツバック

全長×全幅×全高4380×1850×1435mm
ホイールベース2630mm
車両重量1580kg
エンジン直列5気筒ガソリンターボ 2480cc
最高出力400ps/5600~7000rpm
最大トルク 500Nm/2250~5600rpm
駆動形式4輪駆動
燃料消費量10.6km/L(WLTC)   
使用燃料/容量                無鉛プレミアムガソリン/  56L
ミッション形式7速自動
サスペンション形式前:ストラット/後:ウィッシュボーン
ブレーキ形式前:ディスク/後:ディスク   
乗員定員5名
車両価格(税込)906万円
問い合わせ先0120-598106

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。

撮影/萩原文博

 

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