文・石川真禧照(自動車生活探険家)

1970年代の終わりから80年代にかけて“ボーイズレーサー”と呼ばれるクルマたちが若者に人気だった時代があった。エンジンはせいぜい排気量1.6Lどまり、車体はリアトランクのない2ボックスカーが多かった。こうしたクルマは、デビュー当初は前輪駆動の経済的なコンパクトなファミリーカーだった。車両価格も100万円を切る価格だったので若者たちもなんとか新車が買えた。
若者たちは購入したファミリーカーのタイヤを太くしたり、フォグランプを装着したり改造をはじめた。なかにはサスペンションやエンジンをチューンする者もあらわれた。この動きを見た自動車メーカーも、ファミリーカーをスポーティカーに変身させたモデルを発売した。若者に人気のこうしたクルマが“ボーイズレーサー”と呼ばれるようになり、国産各社がコンパクトで、スポーティなクルマを発売した。





70年代半ば欧州では“ホットハッチ”と呼ばれるモデルが誕生した。ファミリーカーをベースに、レースにも出場できるように高性能にしたコンパクトな2ボックスカーが主体だった。日本と異なるのは、こうした高性能車は車両価格も高く、欧州の“ボーイズ”はとても購入できなかったことだ。
こうしたコンパクトカー+スポーツカーというクルマづくりは、70~80年代のブームになったが、その後、排気ガス規制や安全基準の規制などから、各社が手を引き、ブームは去った。でも小さな車体に分不相応な高性能エンジンを押し込むというクルマ造りは、一部の愛好家の間では、常に人気だった。メーカー、とくに欧州メーカーは数は少ないものの熱心なユーザーのために、車両をつくり続けてきた。



幾つかの数少ない自動車メーカーが造り続けてきた“ホットハッチ”。なかでもアウディRS3は現在でも進化を続けながら、ホットぶりを体験させてくれる数少ないモデルだ。
ベースになるアウディA3スポーツバックは、4気筒1.5Lガソリンターボエンジンを搭載、116ps、220Nmを前輪で駆動するファミリーカー。RS3は同じ車体ではあるが、エンジンは直列5気筒、2.0L、ガソリンツインターボエンジンで400ps、500Nmを発生、4輪駆動(クワトロ)方式を採用している。車両重量はFF1.5L車よりも200kgほど重くなったが、馬力とトルクの増大はそれ以上に強力。




最近、EVやPHEVのハイパワースポーツモデルに乗ることが多かったが、久々に乗るガソリンエンジンのハイパワーカーは、その力強さと運転者の動きに直接的に反応してくれるダイレクト感に心も身体も高揚する。
5気筒スポーツエンジンが、一気に6800回転まで上昇して加速する動きと、高まる音はEVでは味わえない刺激的なドライビング。何十年も前に“ボーイズレーサー”に乗って、走り回っていた時代の思い出が甦ってきた。



スポーツモードからパドルシフトを操作すると、5気筒エンジンのダイレクト感がさらに味わえる。標準車よりも15mm低くしたサスペンションは、キビキビとしたハンドル操作に瞬時に応えてくれる。ハンドルスポーク部分に備わる「RSトルクリア」と「RSパフォーマンス」モードの赤いプッシュボタンは、それぞれドリフト走行やサーキット走行に特化したエンジンや駆動系のチューニングを楽しむことができる。もちろん公道上でこれらを楽しむことを慎むのは当然だが、それはドライビングの悪魔との心の戦いでもあることが身を持ってわかった。


大排気量の大型車に乗るのも、ラクで安全かもしれないが、小型の車に強力なエンジンを積んだ“ヤンチャ”なクルマを操るのも楽しい。その時のクルマはなるべく目立たないほうが良い。今回はちょっと派手な黄色だったが、ブラックやシルバーのような色のほうが町に溶け込む。5ドアハッチバック車とは名ばかりのスーパースポーツモデルに乗るにはこの作戦が一番だ。
アウディ/RS3 スポーツバック
| 全長×全幅×全高 | 4380×1850×1435mm |
| ホイールベース | 2630mm |
| 車両重量 | 1580kg |
| エンジン | 直列5気筒ガソリンターボ 2480cc |
| 最高出力 | 400ps/5600~7000rpm |
| 最大トルク | 500Nm/2250~5600rpm |
| 駆動形式 | 4輪駆動 |
| 燃料消費量 | 10.6km/L(WLTC) |
| 使用燃料/容量 | 無鉛プレミアムガソリン/ 56L |
| ミッション形式 | 7速自動 |
| サスペンション形式 | 前:ストラット/後:ウィッシュボーン |
| ブレーキ形式 | 前:ディスク/後:ディスク |
| 乗員定員 | 5名 |
| 車両価格(税込) | 906万円 |
| 問い合わせ先 | 0120-598106 |

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。
撮影/萩原文博





