文/梅本昌男(海外書き人クラブ/タイ・バンコク在住ライター)
約550万人が暮らすタイの首都バンコク。高層ビルが次々と建てられ、通りは自家用車やバス、トゥクトゥク(三輪タクシー)、バイクで埋め尽くされています。エネルギッシュさを感じる一方、その喧噪にうんざりすることもあります。
そんな中、高級住宅街のスクンビット地区でオアシスのようなカフェを発見しました。名前は『パトム・オーガニック・リビング』、2018年にオープンしました。オーナー一家が70年に渡り暮らしていたという広い敷地内は自然に溢れています。木々が茂り、芝生の庭には花々が咲き、水連の浮いた池、小さな菜園まであります。
カフェビルディングは上から下までガラス張り、自然の中にいるような雰囲気を味わって欲しいというコンセプトで造られています。また使われている木材は古い屋敷を解体した物をリサイクルしています。
「バンコクでこんな雰囲気を味わえる場所は少ないから何回も来てしまうわ」とアメリカ人の常連客で小さなお子さんを庭で遊ばせていたウエンディさんは言います。
「ピクニックマットを用意しているので、それを庭で広げて頂くこともできますよ」とオーナーのアナック・ナヴァラージュさん。
アナックさんと彼のお兄さんはタイの伝統的オーガニック農法を実践する農園をバンコクのお隣のナコン・パトム県で営んでいます。もともと彼らの祖父はそこでバラ園を営んでいました。孫であるアナックさんたち祖父の影響で農業に興味を持ち始めます。
そんな時、タイの伝統的なオーガニック栽培と出会い、古人の知恵を使えば農薬など必要ないことを知ります。例えば、朝顔を育てる時、その横にガパオを植えれば虫が寄って来ないそうです。
ちなみに、この農園は一般にも開放されていて、5人以上で予約が可能だそうです。オーガニック農法を説明するツアーや草花を使った染色体験などができます。
アナックさんたちは伝統的オーガニック農法を広めたいと、『スークジャイファウンデーション』という団体を2010年に設立、現在、タイ各地の170の農家が参加しています。農園に隣接する場所で毎週末マーケットが開かれ、参加する農家の人たちが自慢の品を持ち寄るそうです。
そして、『パトム・オーガニック・リビング』では同団体に参加する農家の育てた新鮮なオーガニック野菜や果物、花を材料にした料理や飲み物、お菓子を提供しているのです。
「このカフェはオーガニック素材の良さを知って貰うアンテナショップの役割も果たしているんです」
先述のようにアナックさん祖父はバラ栽培で名をはせました。そのことから、先述の農園では食用の花も育てていて、それを使った品が店の目玉の一つとなっています。
カオ・ヤム・ドークマイ(150バーツ=約600円)はタイ語で「花を混ぜたご飯」。綺麗な色の旬の花や香草などをタイ米と混ぜて食べます。タイで昔から使われているかわいいアルミ製お弁当箱で供されます。
米粉の皮でバラの花やチンゲン菜などを包んだクイティオルーイスアン(140バーツ=約560円)もまた人気の花料理です。
*これら花料理は旬の物なので提供できない時もあります。
アフタヌーン・ティー・セット(2人前399バーツ=約1600円)はタイの伝統菓子を一度に味わえる楽しい品。どれから食べようか迷ってしまいます。タイならではのココナッツミルクがふんだんに使われていますが、朝採りしたものを使い、その日の内に使い切ります。
カフェスペースの脇にはギフトコーナーもあり、アナックさんの農園育ちのオーガニック素材を使ったシャンプーやソープも販売しています。
パトム・オーガニック・リビング:https://www.patom.com/
文・写真/梅本昌男(タイ・バンコク在住ライター)
タイを含めた東南アジア各国で取材、JAL機内誌アゴラなどに執筆。観光からビジネス、グルメ、エンタテインメントまで幅広く網羅する。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。